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20.モブ令嬢のピンチに王子様は現れるか

予約投稿するのを忘れていました。

ごちゃごちゃしている上に、効果音が多いです。

 腰に挿したナイフの柄に手をかけ、鞘から引き抜こうとしたガルシアの動きが止まった。


「結界が?」


 キィーン……!

 強い魔力を持つ者しか感じ取れない、硝子が割れるような音が学園中に響いた。

 魔道具により学園内に張り巡らされていた魔力封じの結界が消滅したのだ。結界が消滅した空間に、無数のあたたかな金色の光の粒が出現する。


「これは、祝福か」


 祝福とは、相手の能力を向上させる補助魔法。学園中に放ったのなら魔法効果は僅かなものとなるが、後夜祭の演出としての効果は絶大だ。

 祝福の光はリージアの体に触れると、弾けるように消える。不可解な光景にガルシアは眉間に皺を寄せた。


「まぁいい。お前には、此処で死んでもらう」


 今度こそナイフを鞘から引き抜く音が聞こる。

 魔法を使おうにも呪文詠唱が間に合わず、応戦しようにも武器は無い。リージアは歯を食いしばり目蓋を閉じた。

 今際の時に、脳裏に浮かぶのは家族の顔と眩しいばかり輝きを放つ王子様。


(ユーリウス様!!)


 こんな時にユーリウスの顔が浮かぶなんて。

 此処で死ぬのなら、遠慮しないで差し入れを持って生徒会室へ行けば良かった。

 リージアの頬を涙が伝っていく。


 バキリ!! キィンッ!

 木製の扉と扉周辺の物が壊される音、金属同士がぶつかる音が聞こえて、痛みを覚悟していたリージアは恐る恐る目蓋を開けた。


「きゃあっ?!」


 目蓋を開けた視界に飛び込んできたのは、目を開いたリージアの体を貫かんとする鋭い切っ先。

 キンッ

 切っ先がリージアへ届く寸前、ガルシアの腕が動き短剣を叩き落とす。


「大丈夫か?」


「あ、」


 バキバキィッ!

 殺そうとした自分をガルシアが助けた意味が分からず、混乱するリージアの言葉を扉を破壊する派手な音が遮った。

 薄暗い室内に強烈な光が投げ込まれ、眩しさに顔を背ける。


「リージア!!」


 逢いたかった王子様の声が聞こえて、咄嗟に動こうとしたリージアの腰へガルシアの腕が回され抱え込まれる。


「ちっ、王家の暗部か? 何故此処が分かった?」


 眉を吊り上げたユーリウスの、剣の柄を持つ指が怒りで震える。


「リージアを離せ! 人質にでもするつもりか!」


「人質? 違うな」


 くつり、リージアの耳元でガルシアが喉を鳴らす音が聞こえた。

 強い力で肩を押され、痛みに呻くリージアの髪が後ろへ引っ張られる。

 ざくりっ、何かを切る音と共に首の後ろが軽くなった。

 何が起きたのか理解出来ないリージアの背中を、ガルシアは前方へと突き飛ばした。


「きゃあっ!」


「リージア!!」


 突き飛ばされ、前のめりに倒れたリージアをユーリウスが受け止める。そのまま華奢な体を抱き締めた。


「ユーリウスさまぁ、うぇっく」


 声を上げて泣き出すリージアの背中と乱れてしまった髪を撫で、彼女の香りを胸いっぱいに吸い込む。


「リージア、良かった……」


 しがみついて泣きじゃくるリージアには大した怪我も無く、彼女の温もりと規則正しい心臓の鼓動を感じ、ユーリウスは安堵の息を吐いた。



 武器をかまえた5人の暗部に取り囲まれ、ガルシアはナイフを下ろす。


「お前は黒狼の一員だろう? 何故、リージアを殺さなかった? いや、殺す気など無かったか」


 壊れた扉の破片を踏みつけたシュバルツは、ガルシアの手元へ視線を向けた。


「俺が依頼されたのは「長い三つ編みで眼鏡をかけた女」だ」


 目を細めたガルシアは、ナイフを持つ手とは逆の手に持った三つ編みに結ったアプリコット色の髪を握りしめる。


「ゆえに、そこにいる女はターゲットでは無い」


「お前の依頼主は、メリル・ウルスラなのか?」


「さぁな。知りたければ、来いよ」


 戦う意思はないと言うガルシアが、ナイフを鞘へ納めたのを確認してシュバルツは頷いた。




 ***




 後夜祭会場から離れた、華やかな音が微かに聞こえる中庭の片隅で、周囲を警戒しながらメリルは待ち人の訪れを待っていた。

 夜空に輝く半月が雲に隠れた時、一陣の風が吹き抜け音もなく闇を凝縮したような黒装束の男が現れる。

 雲の隙間から顔を出した月光が男を照らすと、メリルは満面の笑みを彼へ向けた。


「ああ、ガルシア」


 恋人と再会したような高揚感を抱き、メリルは小走りでガルシアの側へ行く。


「やっとあの女を殺してくれたのね」


 問いには答えず、ガルシアは握っていたアプリコット色の髪を提示する。


「うふふ、この髪は確かにあの女のもの。これでやっと邪魔者はいなくなったわ」


 猫のように目を細めて喜ぶメリルを、ガルシアは冷めた目で見下ろす。


「邪魔者だと? リージア・マンチェストはお前の言っていたような女には見えなかったが?」


「私が欲しいものを手に入れるために、リージアは邪魔だったの。邪魔ばかりしてくれたから、死んでくれて清々したわ」


 口角を吊り上げたメリルは舌先を出し、ルージュを塗った下唇を舐めた。

 それまで無表情だったガルシアは器用に片眉を上げる。


「フッ、やはり性悪女はお前の方だったか」


 僅かな苛立ちを滲ませ、ガルシアは首だけを動かし背後を振り向く。


「と、いうわけだ」


「何を言っているの、ちょっ、何で?!」


 植え込みを掻き分ける音が聞こえ、音の方を見たメリルの目が大きく見開かれる。



「メリル・ウルスラ、お前がリージア殺害を依頼したのか」


 普段の完璧な王子様とは真逆の、怒りの感情を露にしたユーリウスが植え込みの間から姿を現したのだ。

 怒りのあまり溢れ出る怒気と魔力により、メリルの全身に針で刺すような痛みが走る。


「ひっ、違うの。ユーリウス様! 違うんですっ! これは、そのっ」


「何が違うのだ? リージアは邪魔だったと、たった今お前は言っていたじゃないか!」


 ユーリウスの足元に生える草が音を立てて枯れていく。殺気混じりの圧力を受けたメリルは耐えきれず後退った。


「わ、私、リージアさんに苛められて、悩んでいたときに、街でこの人に声をかけられたんです」


「はっ、声をかけてきたのはお前からだろう。いくら自己弁護しようとも、依頼書は残っているぞ。忘れたのか?」


 涙を浮かべて自己弁護するメリルに、呆れた声でガルシアは言う。


「ユーリウス様ぁ、少し怖がらせて嫌がらせを止めてもらおうとしただけで、リージアさんを死なせるつもりは無かったんですぅ」


 涙を浮かべた大きな瞳を悲しみで歪め、胸の前で両手を組み庇護欲をくすぐる表情と仕草で見上げられ、怒りで煮えたぎっていたユーリウスの思考は冷静になっていく。笑いだしたくなるのを堪え、見た者が凍りつくような冷笑を浮かべた。


「死なすつもりは無かった、か。殺害依頼をしておいて殺意は否定するのだな」


「そんな」


 体を揺らして口元を押さえたメリルの目から、涙が溢れて頬を伝い落ちる。

 幼子のように声を出して泣いたリージアに比べ、憐れに見えるよう計算した狡猾な泣き顔だとユーリウスは鼻で嗤ってしまった。

 メリルと話す毎に強くなる甘ったるい香りで、目の奥が痛み視界がぼやけてくる。込み上げてくる吐き気は、ブレザーのポケットの上から中に入っている眼鏡に触れることで紛らわせた。


「お願い、私の話を聞いて?」


 小首を傾げた泣き笑いの表情となったメリルが、顔を顰めたユーリウスへ手を伸ばした。


「見苦しい演技はそこまでにしろ」


 背後に立つガルシアの声でメリルの動きが止まった。

 首筋に当てられたナイフの冷たい感触に、メリルの喉がひゅうと鳴る。



「おい、やりすぎだ。言い訳は私が聞こう」


「っ?!」


 植え込みの影となっている暗闇から、滲み出るように現れたシュバルツは今にも首を切り落とさんとしているガルシアを片手を上げて制止する。


「あ、ああぁあ?!」


 呆れ顔のシュバルツを見たメリルの目は零れ落ちんばかりに見開かれ、大きく開いた口からは悲鳴が上がった。



リージアの捜索方法は、彼女のスキルをさかてにとって学園中に魔法をかける、でした。予想してくれた方、大当たりです!

入学前はお転婆だったリージアでも、学園では大人しく目立たないキャラを装っていたことや、ガルシア登場の動揺と丸腰状態では応戦出来ませんでした。


いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

ストック切れと仕事が忙しいため、明日は更新が出来ないかもしれません。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 入学前までのお転婆設定どこいった もはや自己暗示にかかってるレベル
[良い点] なるほど、リージアには無効化されるわけですからソナーみたいにできるわけですね。 [一言] ようやく危険人物は退場ですかね。さすがにアウトでしょう。
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