オコシャスの悩ましい近況
ユーリフィアンが居なくなって、準備していたものはすべて無駄になった。いざとなれば父と絶縁するつもりでもあったから、入念に準備をしていたのが仇になった。自分の行動が遅すぎたせいだとものすごく悔やんだけど、ユーリフィアンはそんなボクを許してくれた。不幸中の幸いだったのは、ユーリフィアンが今は幸せに過ごしているという事実。
ユアンの世界はとても楽しいらしく、手紙はいつも幸せで溢れていてホッとする。よくわからない単語も多いけど、友人もできて新しいことを学び、ユアンに聞くだけだったものを体感している日々なのだとか。
日々のささやかな楽しみだ。ユアンにも見せて、よくわからない単語を教えてもらったりもする。
そんな穏やかな日々とは裏腹に、ボク自身は騎士団で少しずつ違和感を感じ始めた。
とても仕事ができるのに、身分で出世できない。下っ端であるはずのボクにこびてくる気持ち悪い上司。あからさま過ぎる貴族と平民の格差。平民出身騎士達にきつい仕事を押し付け、甘い汁だけ吸う腐りきった貴族出身の騎士達に嫌気が差した。
そんな状況でも平民出身の騎士達は辞めない。理由を聞いたところ、普通に働くより給金がいいからとかこんなことで騎士になる夢を諦めたくないとか、理由は人それぞれだった。
そんなある日のこと、ついに事件が起きた。
市街での野盗より城の盗難事件を優先し、野盗による被害が悪化したこと。死者も多数出て、その中には平民出身騎士の身内もいた。私情もあったろうが、どちらを優先すべきかは明白だったと思う。
異を唱えた騎士は、もはや私刑としか思えないほど叩かれた。なんだこれは。弱い者いじめじゃないか。薄々気がついていたが、上官の命令は絶対であるという洗脳のような教育。このおかしさを、誰も理解してくれない。このままでは駄目だと思うが、ボク一人ではどうにもならない。だけど、使い潰されるであろう同僚をどうにかしたい。このままでは駄目だ。下っ端騎士のボクでは何もできない。
その日、ボクは怒りのままに辞表を書きあげ、ユアンに誤字脱字がないか見てもらったところ、真顔でクソだと言ってくれた。そう、この異常さがわかる人間はここにいたのだ。
さらにユアンはボクをスカウトしてくれたし、他の騎士達も雇うと約束してくれた。心配していた同僚達も大半がついてきてくれた。残った者たちも他の同僚から話を聞いて、最終的に平民出身の騎士は全員が魔族領に来てくれそうだ。
魔族のほうは万年人手不足らしいので、移住者に対しかなりウェルカムムードだった。おっかなびっくりだった騎士達も、今ではかなり打ち解けている。
そう、打ち解けてるんよ。ボク以外は。
「おはようございます、オコシャス様!」
「今日も凛々しいっすね!オコシャス様!!」
「ええと……なんでボクだけ様づけなん?普通にオコシャスでええよ?」
「いえいえ!今やオコシャス様は我々の上司ですから!」
「ええ、そうですとも!魔族の皆も言ってますぜ、第二の魔王と」
「ちゃうから!魔王になんてなれへんし!!現魔王様の方がボクよりずっと強いから!!」
これは本当。見た目こそヒョロいけど、以前より実力が近づいた今ならわかる。あの人、マジヤバい。というか、なんでまたユアンはあんなヤバい人と婚約するんや……。
自然といつのまにか『妹』になっていたユアン。兄としては幸せになって欲しいわけで。何があってもユアンを守ってくれそうではあるけど、もっとこう穏やかそうでユアンを幸せにしてくれそうな人のほうがいいのではないかと思う。
「いやいや!短期間で一気に強くなったじゃないですか!オコシャス様ならきっと勝てますよ!」
これは言いたくなかったけど仕方がない。
「……ボクを鍛えたん、その魔王様やで。ホンマにあの人はヤバい。勝てる気がせぇへんもん」
「そ、そうなんですね」
「そうなんですよ、ほな仕事しよかー」
皆には申し訳ないのだが、半ばズルして強くなったようなもの。気持ちを切り替えて書類仕事を始める。勤勉な騎士達は書類仕事も問題なしだ。
そう、元騎士達は問題ないんだ。
「ほな、ボクこれ提出してくるわー」
「あ、そのぐらい僕が」
「ええよぉ、報告することもあるから。ついでに持っていく書類あったら持ってくでー」
「あ、ではこれも」
「下等なる下民の分際でオコシャス様に頼み事とは何事だ!」
「え、あ、すいませ」
「おい」
イラッとしたので魚人を睨みつける。
「ヒッ!?」
「彼はボクの同僚やから。失礼なことしたら潰すぞ」
「ももももももももうしわけありませんでしたあああああ!!」
一目散に走り去る魚人。なんで嬉しそうなんやアイツ。
「や、やっぱり第二の」
「魔王ちゃうから!なれんしならんし、なりたくないのおおおおおお!!」
何故か周囲が勝手に第二の魔王呼ばわりする。いい職場なんだけどそれだけが不満だと話したら、ユアンがめっちゃ笑ってた。いやいや、全く全然これっぽっちもよくないわ!!よく考えたらユアンはこのままだと魔王妃やん!そんなのになるかもしれないユアンなのだから、僕の称号を気にしないのは当たり前。
今回ばかりは妹も頼りにならないらしい。打開策が見つからないまま、ボクは今日もお仕事をしているのです。




