最強の兄、育成計画
小田郡にもらった紙束……それは、ヤス兄最強装備の入手方法と育成計画案。パワーレベリングから、有用なスキル入手方法まで。ある意味ヤス兄の攻略本とも言えるものだ。
「ヤス兄」
「なんとなく嫌な予感がするんやけど……一応聞くわ。何?」
「ヤス兄、鍛錬しよう」
「……まあ、ええけど」
そして、私達は旅立った。
それも、ラストダンジョン手前の森に。
「みぎゃー!!無理無理無理無理無理無理やからあああ!!」
「いけるいける!ヤス兄ファイト!」
パワーレベリングといえば、トレイン方式。一気に沢山倒すことで難易度が跳ね上がるため経験値ボーナスが入るのだ。そして、高レベルな程良い。周回必須なゲームだったので、高レベルキャラがいても経験値分配に変化はない。
これを踏まえてパワーレベリングをすると、あたしが広範囲魔法で敵をチクッとしてヘイトを集め、広いところまで誘導(今ここ)ヤス兄が心配してついてきたのでおびただしい数の魔物から一緒に追われているなう。
そしてそれをひらけた場所で待ち受ける魔王様が瞬殺。これをひたすら繰り返し、ひたっすらにレベルアップを………。
「ふにゃ?」
「あ、なんか無理……」
「レベルアップ酔いだな」
一気にレベルが上がることで、一時的に負荷がかかるんだそうだ。え、そんな設定なかったよね!?
それはいいが、いやよくないけど!魔王様の攻撃範囲外だった魔物がめっちゃこっち来てるんだけど!なのに動けないとか怖いんだけど!?
「安心しろ、我が妻には指一本触れさせん!」
「まだ嫁入りしてへんけどオナシャス!」
そこはツッコまなくてもいいんじゃないかな、ヤス兄。そして、時折レベルアップ酔いで動けなくなったりしつつ、繰り返すことしばし。
「あ」
「げ」
ちょっと触っただけで木がへし折れた。数時間でゴリラにクラスチェンジ。異世界って恐ろしい。
「まあ、一気に上がるとそうなるな。しばらく力の調整をするといい」
異世界あるあるなんだそうだ。しばらくすれば多分なれたような気がしないでもない。人死が出るかもしれないし、力加減は大事だよね!
せっかくの素材を破砕したら泣くに泣けないし!ヤス兄最強装備の素材集めも兼ねてるからねぇ。
それからまたパワーレベリングをして、上がりにくくなるところまで頑張った。
「では、次は素材を集めましょう」
「ユアンはボクをどうするつもりなん?」
「やるなら最善を尽くしたいんだよ!あたしの思いつきでヤス兄が怪我したら嫌だし」
「ユアン……」
ヤス兄も納得してくれたので、装備を作り調整し、ヤス兄の有用な攻撃スキルの大半を取得して、ついに決戦の日は来た。
瞬殺だった。
まさかの出落ち。強そうな魔族がワンパン。武器、使ってすらいない。某有名なアンマンパンチまたは一撃で倒す系ヒーローを彷彿とさせるレベルの一撃が決まり、対戦者はキリモミしつつ宙を舞った。
「樹はこうなると思ってたっきゅ……。予想通りのオーバーキルできゅ……」
「樹たぁぁぁぁん!?」
「よかったわね、優音!これならお義兄様は絡まれないどころか、魔族から尊敬されちゃうわよ!さっきブッ飛ばした奴、獣人族でも一二を争う奴なのよ」
あれ、よく見たら四天王の一人……つまりあたしと同ポジのキャラだった男ではなかろうか……??
ヤス兄がこちらを見た。その瞳は『どう見ても鍛えすぎたんちゃうか?』と問いかけているように見えた。
「お兄様、素敵ー!」
あたしは歓声を上げて誤魔化したのだが、その後もヤス兄は一撃で倒しちゃうヒーローのように勝ち続けた。
「なんかもう弱い者いじめしてるみたいな気持ちになってきたんやけど……」
「薄々感じていたけど……育てすぎたな」
「気がついてたんなら、はよ言うてや!!」
「気がついていたなら、早く言ってよ!!」
もはやヤス兄、第二の魔王様よ!?牛耳っちゃうぞー!
「まあ、強いにこしたことはないかなと。これだけ強ければ逆らおうというバカも出ないだろうから、他の人間達はやりやすいと思うよ?人間はありえないぐらい強いって勘違いするだろうし」
「なるほど」
仕方がないのでヤス兄には尊い犠牲になってもらおう。強さがすべての魔族領において、一目置かれるのは悪いことではない。あたしなんか見た目が弱そうだから舐められて意地悪されまくってたもんな。
「まあ、とりあえず優勝めざすわ」
結局、ヤス兄はワンパンで優勝し伝説を作った。
その後観戦していた同僚にドン引きされて涙目だったのは、言うまでもない。強くなりすぎた弊害ってやつかな……。
兄がワンパンで勝利するヒーロー並みの益荒男になり、実は妹も……なのだが、まだ本人は気がついていません。




