艶やかなその姿
ユーリフィアンと婚約破棄した王太子視点になります。
今日の夜会で、本当ならジュリアとの婚約発表をするはずだった。だが、ジュリアも私の身分を込みで見ていたのだと理解したときから、彼女への恋情と興味が一気に色褪せた。
今はもう、ジュリアにかまっている暇などない。欲しくないと思っていた王位を弟に奪われないためにも、努力しなければならないからだ。
彼女が……ユーリフィアンが居なくなって、その有能さと気遣いに……無くしたものの大きさに……自らがいかに愚かだったかを理解した。それでも私に、悔いる権利はない。彼女を失った原因は、間違いなく私なのだから。
ザワザワと騒がしくなってきた。騒ぎの中心へ目を向ける。
「え……?」
一瞬誰だかわからなかった。誰だって高潔な白百合が華やかな大輪の薔薇に変われば驚くだろう。やはり、彼女は別人なのだ。その容姿は確かにユーリフィアンのものだが、笑顔やしぐさ……何より、ユーリフィアンと違うのは自信だろう。ユーリフィアンは美しかったが、自らの価値を知らなかった。父のせいで、己は無価値であると信じてしまった。ユーリフィアンは、あんな風に背筋を伸ばして堂々と振る舞わない。あんな忌避色である黒を、纏ったりしない。
大輪の薔薇。誰もが目を向ける華やかさ。そして、健康的な色香。何故か女性達に囲まれているが、誰もが見蕩れる美しさ。人混みにまぎれていたってわかる。
彼女は、ユーリフィアンじゃない。
それなのに、何故こんなにも彼女が気になるのだろう。私を忌み嫌う彼女に……なぜこんなにも惹かれるのだろう。誰もが彼女に目を奪われている。外見だけでなく、内面の輝きがよりいっそう彼女を引き立てる。
そして、彼女の隣にありえない人物を見つけてしまった。
「あに、うえ………?」
魔族領に引きこもって、ここ数年会っていないが……あの姿は確かに兄だ。対の衣装を纏った二人を見て、理解した。
ユーリフィアン…いや、ユアンは、私を本気で廃嫡するつもりなのだ。そのために兄をこの場に連れてきたのだ。妙な格好さえしていなければ、忌避色と獣の部分があっても、兄にはカリスマと抜きん出た能力がある。兄はそれを覆すためにあんな格好をしていたのだ。
ユーリフィアンはそれほどまでに私を……憎んでいるのだ。それは、不思議な感覚だった。怒り、悲しみ、喜び……様々な感情がごちゃ混ぜになっていた。
「オル、久しぶりだな」
そんな私に気がつかず、兄の方がこちらに近寄ってきた。兄は美しい。成長して、さらに美しくなった。並び立つユーリフィアンにも負けていない。
「は、はい……」
「紹介するよ。まだ正式な婚約者ではないのだが、婚約者候補のユーリフィアン=ヒール嬢だ」
「「………………」」
私とユーリフィアンに妙な沈黙が落ちた。この時、私は初めて目線のみで会話が成立すると知った。ちなみに、内容は以下の通り。
『お前、兄上に(婚約破棄の事を)言ってないのか?』
『気まずくなるから、わざわざ言いませんよ!兄弟なんだから、そっちからは伝えてないんですか!?』
『兄上には久しぶりに会ったんだ!それに、わざわざ失態を伝えたいとは思わない!』
『でも、オルネース様が知らないのもおかしいですよね。誰かが情報規制をした、とか………』
そこで私達は同時に国王夫妻を見た。間違いない。二人が情報規制の犯人だろうな。
「……ユーリフィアンを……ヒール家を放さないつもり、か………」
ヒール家を敵に回すのは下策だ。他の王族をユーリフィアンが気に入れば、それが誰であろうと差し出すだろう。繋がりを強化する必要があるからこそ、私達の婚約は成されていたのだから。
「あ、はは……」
「二人は親しいのか?」
「正確には、親しかった……ですね」
ユーリフィアン…いや、ユアンが冷たく微笑んだ。淡々と簡潔に婚約破棄の件を語る。冷静になって聞けば聞くほど酷い話だ。兄の美しい顔が歪み、蒼白になっていく。
「オル、お前ちょっと顔貸せや」
そして、凶悪な笑顔で命令してきた。私は無言で頷く。
「すまない。私は少し弟と話さなければならないようだ。ユーリフィアンは必ず兄君達と居てくれ。すぐに戻る」
「………いえ、わたくしもキチンとお伝えしていなかったですから。おまちしておりますので、早く帰ってきてくださいませね」
「ああ、必ず」
「みゃっ!?」
兄はさりげなくユーリフィアンの頬にキスをしてから、私と別室へ移動した。
「もう、あんた何て事をしてくれたのよ!」
そして、兄に泣かれた。
「え………すいません」
「謝罪する相手が違うでしょ!あんたもなんで平然と会話してるのよ!あんの狸夫婦……後で問い詰めてやるんだから!あたしはね、あんたと違ってあの子と結婚できなきゃ生涯独身確定なんだから!この縁談が上手くいかなかったら、一生恨むからね!」
今度は怒られた。なんだろう。すごくモヤモヤする。
「兄上には関係ないでしょう。ユーリフィアンには今、償っているところですから」
慰謝料の話やこれまでの事を大まかに話したら、呆れられた。ユアンの事は伏せた。彼女の許可なしに話すべきではないと思ったから。
「馬鹿じゃないの?そんなはした金で彼女への罪を償っているつもりなの?」
「……………いえ」
本当に償いたい人は、もうここにいない。金も……ヒール家からしたら大した額ではない。
「まあいいわ。後でまた聞く。ユーリフィアン嬢をあんまり待たせられないからね」
どうしていいのか解らず、ただ兄の背中を見送っていた。そうだな。償っている気になっていた。ユーリフィアンへの贖罪に、自分は何をするべきか。ただ、途方にくれるしかなかった。
ついに一回更新を抜いてしまいました……最近本職が忙しくて………昼休みが削られると厳しいんですよね(-_-;)
明日からはまた一日一回ペースをキープしたいと思います。




