また会いましょう
今朝も樹をモフモフしつつ朝食を食べていると、血縁上の父が辛そうな顔をしていた。何かあったらしい。
「どないしはりましたん?」
ヤス兄が確認すると、血縁上の父は盛大なため息を吐いた。
「………第三王子の誕生会への、招待状が来た」
「別に行ったらええやないですか」
「…ユーリフィアンにも、だ」
「「……………………」」
メガ兄とヤス兄が絶望したようなご様子だ。別に、普通じゃないか?第三王子の陣営にしてみたら、第二王子を敵にしたあたしや父を味方にしたいから急遽誘ったのだろうし。
「…行くよ?」
「いや、無理やろ!ユアンは夜会のマナーとか知らんやろ!」
「そうだな。いや、いつかにもよるか。父上、いつなんですか?」
「……………………………………今夜だ」
「無理だな」
「無理やな」
夜会のマナーぐらい、知ってるっつーの!ユーリフィアンのスペックを受け継いだあたしに、死角はない!
「……失礼ではありませんこと?いくら身内だとはいえ」
姿勢を正し、貴婦人としてのふるまいを見せた。何故だか全員が驚いている。
「ジャージやのに貴婦人っぽい!」
「すごいな。ユアン、謝罪しよう」
「だが心配だからエスコートはオコシャスに任せよう。第三王子がエスコートを申し出たが、オコシャスの方がユアン君も安心だろう」
しまった、ジャージだったわ。そりゃ兄達もこいつ無理だなと判断するわけだ。納得しつつ、あたしとは関わってない第三王子よりヤス兄の方が安心なので頷いた。
「それは、まあ…そうですわね」
というわけで、父と兄達に連れられて夜会に来たわけだ。コルセットがキツい。コルセットなしで着れるドレスとか、絶対開発してやる!
「…いいか、ユアン君。大体は笑顔で誤魔化せ。オコシャスがどうにかするはずだ。オコシャス、何かあったらすぐ呼べ」
「何かあったら即帰るから、大丈夫やろ。ボクもフォローするし、大半は兄さんの睨みで逃げるやろし」
あたしをフォローする前提で話さないでいただきたい。やればできる子なんだよ!?
「マスターをいじめる奴は、みーんな樹が丸ハゲにしてやるっきゅ!だから、大丈夫なのできゆ!」
『それはやめてください!』
チーム・ヒール公爵家の心がひとつになった瞬間だった。丸ハゲ量産は勘弁だ!!
さて、城のダンスホールに到着した。いきなり抱きつかれてビビったが、日頃から鍛えているのでどうにか転倒しなかった。
「ユーリフィアン様、お久しぶりです!」
いきなりあたしにタックルをかましたのは、第三王子ことゴウルホリウス=ショルタ=オルトメルゲ殿下。おかしいな。一歳しか違わないのに、小さい。そして可愛い。
「お久しぶりですわ、殿下」
「兄上が、本当に申し訳ございません。何度お詫びしても足りません……」
「…殿下のせいではありませんわ」
周囲が、流石はゴウルホリウス様、なんとお優しいとか言っている。ナニ?この茶番。ああ、愚かな兄のために謝る優しい弟アピール?
「…殿下、ユーリフィアンは兄上様の仕打ちに傷ついております。申し訳ございませんが、今日は……」
ヤス兄がゴウルホリウス…長いからリス殿下でいいな。なんかリスっぽいし。リス殿下とあたしの間に入って、さっさと話を切り上げようとしてくれた。
「……そうだね。また、昔みたいにお茶してくれますか?」
「……ええ。王太子殿下とは破談になりましたが、わたくしも殿下を弟のように想っております。昔のようにお茶をしましょう」
「ああ、約束だよ!」
無邪気に笑うリス殿下。彼は悪い子じゃないのだが、彼が王位についたら傀儡政権になりそうなんだよな。アピールも誘導して取り巻きがやらせたんだろうし。兄達は何故驚愕の表情なんだい?
「もしや、ユーリフィアンの記憶が?」
「ありますわ」
「はよゆうてや!」
「ごめん」
いや、うん。言ったつもりだったんだよ。ユーリフィアンの記憶があるから大丈夫だと判断したらしく、あたしは兄達から放置された。兄達も挨拶しなきゃいけなかったり、ご令嬢に絡まれたりしていたから、あたしを放置せざるをえなかったのも理解している。
しかし、そろそろ被っている猫が走り去りそうだ。なんで皆して自分の領地自慢をするんだ。別に君らの手柄じゃないし、親の領地だろ?似たような話すぎて、誰が誰だかわからんぞ。立ったまま寝ていいだろうか。私に聞かせたいってか自慢したいだけだよね?本気でどうでもいい。
「邪魔だ」
そんなあたしに救い主が現れた。皆顔をひきつらせて逃げていく。おお、モーセの割れるやつみたいだ。その先には先日会ったお兄さんがいた。
「黒モフのお兄さん!」
「…………………………………は?」
しまった。つい本音がポロリ。しかし、これは好機だ!皆彼を避けている!
「わたくし、魔族領に興味がありますの!是非お話したいですわ!あちらに座るところがありますわね!立ち話では疲れますし、座りませんこと!?」
「へ?」
「さあさあさあ!女に恥をかかせたりはしませんわよね?」
「ま、待て!わかった!歩く!」
気のいいお兄さんは素直についてきてくれた。おお、人が避けていく。二人がけのソファでお兄さんとお話することにした。
「で、何が聞きたい」
「魔族って、何を食べてますの?」
「人と変わらない…と言いたいところだが、正直種族による」
「ああ…魚人なんかは違いそうですわね」
「……知っているのか?」
「最近お見合い…のようなモノをしまして」
最近の珍お見合いについて話したら、お兄さんに爆笑された。
「やっべ、アンタ面白すぎるわ!いや、いいなー。アンタみたいなのが魔王様の婚約者になってくれたらなー」
「いいですわよ?」
「は?」
どうせ世界の破滅を防ぐには魔王に関わらねばならない。婚約者になれば都合がいい。お兄さんはエルセオルネさんというらしい。
「…でも、キチンと本人にお会いしてから決めたいですわね」
「え?いいの!?マジでいいの!?」
「とりあえず、お会いしたいですわ」
会いもせずに、いいも嫌もないだろう。必要性があるから婚約者になるつもりはあるが、結婚するかは魔王様次第だ。
「そ、そりゃそうだよな!それが普通だよな!」
エセルオルネさん…長いからエル尾さんでいいや。エル尾さんは魔王様の婚約者選定でこっちに来ているらしい。しかし魔王様の婚約者はもはや嫌がられるお仕事であるらしく、話を持っていくだけで泣かれたり…水をぶっかけられた事もあるそうな。苦労しまくっているらしい。
「わかった。アンタなら図太そうだし、大歓迎だ!魔王様のスケジュールを調整するよ!」
エル尾さんは余程魔王様が好きなのだろう。我が事のように嬉しそうだった。それから魔族領についてもたくさんお話してくれて、楽しく過ごした。
こうして、初めての夜会は無事終了したのだった。




