18-5 時を超えて
10章 道化師、その正体は
「さぁ、もういいか?」
「…えぇ」
道化師は、にたっと笑う。アイリスも、つられるようににこりと笑って、後ろを向いた。
「…これで、良かったのかしらね」
道化師は、こくりと頷く。
「僕は、クロノス。この城を守る道化師。でも、僕は本当のクロノスじゃない。本当のクロノスは、愛する人の隣で、優しく笑う彼だ。僕は、クロノスが生きし頃の薄汚く、後ろめたく、嫌悪される感情を持っている。それをアリアはまだわかっていない。
クロノスはきれいなままだと、思い込んでいると思うよ
そしてその彼も…ルナも、まだ自分の前世のことは分かるけれど、きっとまだ全部は知らない。
アイリス、君がそれを解き放った時、君の存在意義は終わるよ。
魔物がもう一度復活するだろうからね。そして魔物は、ルナとアリアによって、本当の意味で終焉を迎える。
そうすれば君は、また生きる意味を探すことになるだろう。」
ひとしきり諭した後に、彼は口角をくっと上げて、にやりと笑った。
「時が来たとき、君はどの選択をするのかな」
そして、道化師───黒い感情で生きしクロノスはアイリスの頬に手を伸ばしてそっと触れる。
「────、永遠の別れ」
優しく、うそぶくような雰囲気を醸し出す彼は、そっと呟いて彼女をその空間から消し去った────。
♢♢♢
「…アリア様…いいえ、クロノス」
「…アルテミス…」
ルナのその綺麗な白銀の髪が揺れる。
結わえずにおろした髪は、風に揺れて横に流れる。
それが、アリアには、彼女の前世の記憶であるアルテミスと、重なって見えた。
「……愛してる」
「はい」
「愛してる愛してる愛してる…」
ルナは照れながら笑いながら、やめてくださいとばかりに彼を抱きしめる。アリアはその目に満杯の涙を溜め込んで、前世で言えなかった想いを彼女に痛いほどぶつける。
「お前を、戦争から守ってやれなかった…!平和を願って戦い続けるルナを、オレは止められなかった!時を越えてまで戦うルナを、見たくない……!でも、でもそうしないと…アイリスは救えないんだよ!だから………」
「アリア様、それは違います。わたしは望んで戦った。間違いであったろうと、正しかったであろうとそれは変わらない。これは、平和との代償。わたしの生きる意味であり、神との盟約のようなもの。だから………アリア様は、何も悪くないんです」
アリアはひしと彼女と抱擁する。ルナの暖かい身体を強く、放さずに。
────これは、前世の続き。あるいは、最後の戦いの記録。もしくは、一人の少女と少年の、幾度となく訪れる運命の出会い。




