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ヒーローの指揮者 〜ロートルヒーローの勝たせ方〜  作者: MIYA
第2章 指揮者の才能

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第37話 同期

仮想戦闘施設を出たところで、ガイが足を止めた。


 レンは二歩ほど先へ進んでから振り返る。


 廊下の向こうから、大柄な男が歩いてきていた。


 年齢はガイと同じくらいだろう。短く刈った髪には白いものが混じり、左眉の上に古い傷が一本走っている。


 その横を、若い男が端末を抱えて歩いていた。


 大柄な男はガイを見るなり口角を上げた。


 「まだいたのか、グリット」


 ガイも少しだけ顎を上げる。


 「お前もな、リベット」


 レンは二人を見比べた。


 知り合いらしい。


 それだけなら珍しくない。


 ガイは二十年もヒーローをやっている。


 問題は、ガイの方から相手の名前をすぐに返したことだった。


 リベットが近づき、右肩の防具を見る。


 「またそこか」


 「今回は切っただけだ」


 「七針をだけで済ますなよ」


 レンがガイを見る。


 「知ってるんですか」


 リベットが答えた。


 「こいつがどこ怪我するかくらいな」


 「余計なこと言うな」


 ガイが歩き出そうとする。


 リベットはその横へ並んだ。


 「相変わらず愛想ねえな。二十年前から変わらん」


 レンの足が止まった。


 「二十年前?」


 今度は若い男が答えた。


 「同期らしいですよ」


 彼は抱えていた端末を持ち直した。


 「今年からリベット担当の佐伯です」


 レンも名乗る。


 「天城です。グリット担当」


 佐伯の視線がレンの胸元へ落ちた。


 Eランク表示を見たのだろう。


 驚いた様子はなかった。


 逆にレンは佐伯の表示を見る。


 E。


 「そっちも新人?」


 「四月登録です」


 同じだった。


 四人はそのまま施設内の休憩所へ入った。


 リベットは自販機で水を二本買い、そのうち一本を佐伯へ渡す。


 ガイは何も買わずに椅子へ座った。


 レンも向かいに腰を下ろす。


 リベットの現在ランクはC。


 ヒーロー歴二十年。


 登録年はガイと同じ。


 レンは端末で公開情報を確認してから顔を上げた。


 「CなのにEランクが担当なんですね」


 佐伯が苦笑した。


 リベットは水を飲む。


 「三十越えりゃ、そんなもんだ」


 ガイも何も言わない。


 制度上は珍しくない。


 三十歳を越えたヒーローには、新人指揮者が回ってくる。


 能力が落ちたかどうかとは別の話だった。


 「佐伯で何人目?」


 ガイが聞く。


 リベットは天井を見た。


 「忘れた」


 「嘘つけ」


 「七……いや、八か」


 佐伯が横から言う。


 「九人目です」


 「そうだったか?」


 「担当履歴くらい覚えてくださいよ」


 レンは思わずガイを見る。


 ガイは黙っている。


 「ガイさんは?」


 聞くと、ガイは少し考えた。


 「何がだ」


 「俺で何人目です?」


 「知らん」


 「リベットのことは二十年前から覚えてるのに?」


 「一緒に戦ったからな」


 レンは一瞬黙った。


 ガイはそれ以上説明しなかった。


 リベットの能力は固定だった。


 触れた二つの物体を、一定時間だけその位置関係のまま留める。


 崩れかけた梁を壁へ固定する。


 転倒した車体を道路へ留める。


 ヴィランの服と床を一時的に固定する。


 攻撃力そのものは高くない。


 その代わり、救助現場の実績が多かった。


 レンは公開記録を流していく。


 「救助多いですね」


 リベットが水の蓋を閉める。


 「壊すの苦手だからな」


 「ランキング、もっと上でもよくないです?」


 佐伯が先に笑った。


 「俺も最初それ言いました」


 リベットは肩をすくめた。


 「人を一人押さえるより、ヴィラン一人倒した方が数字が太い」


 レンは画面を見る。


 救助実績。


 拘束補助。


 倒壊防止。


 撃破数は少ない。


 ガイの記録と並べたら、似たような形になるのかもしれない。


 そこまで考えて、レンは画面を閉じた。


 「二人とも、昔からこんな感じだったんですか」


 佐伯が興味を示す。


 「それ俺も聞きたいです」


 リベットがガイを見る。


 ガイは嫌そうな顔をした。


 「何もない」


 「あるだろ」


 「ない」


 「登録初日に訓練施設の壁へめり込んだ」


 レンがガイを見る。


 「ガイさんが?」


 「こいつだ」


 ガイがリベットを指した。


 「お前が押したんだろ!」


 「固定する前に来るからだ」


 「試験官が始めって言ったんだよ!」


 「俺には言ってない」


 「同じ場所にいただろ!」


 レンは二人を交互に見た。


 ガイがこれだけ続けて話しているところを、初めて見た気がした。


 普段なら二言目には面倒そうな顔をする。


 リベットが笑う。


 「こいつ、昔はもっと喋ったぞ」


 ガイの目が細くなった。


 「黙れ」


 「今の三倍くらい」


 「佐伯。こいつ連れて帰れ」


 佐伯が困った顔をする。


 「俺、指揮者なんで運搬までは業務外です」


 レンは少し笑った。


 ガイに睨まれたのでやめた。


 休憩を終え、リベットたちとは施設入口で別れた。


 佐伯は翌日も別の訓練があるらしい。


 リベットは最後にガイの右肩を見た。


 「無理すんなよ」


 「お前に言われたくない」


 「俺は受けねえからな」


 「建物に挟まれた回数ならお前の方が多い」


 「数えてんのかよ」


 ガイは答えなかった。


 リベットが手を上げ、そのまま佐伯と歩いていく。


 レンは隣を見る。


 「本当に覚えてるんですね」


 「何を」


 「一緒に戦った人」


 「普通だろ」


 ガイは出口へ向かう。


 レンも後を追った。


 「二十年前のことまで?」


 「必要ならな」


 「俺、この前の試験問題もう半分忘れましたけど」


 「それはお前が覚えろ」


 「必要ないんで」


 自動扉が開いた。


 外はもう暗くなり始めていた。


 ガイが先に出る。


 レンは少し遅れて、その背中を見る。


 今までガイについて知っていた二十年は、負傷記録と戦績の数字ばかりだった。


 その数字の隣にいた人間まで見たのは、今日が初めてだった。


 翌日の予定を確認すると、第九分署へ通常待機の指示が入っている。


 合同訓練はこれで終わりだった。


 レンは端末をしまった。


 そのときガイが前を向いたまま言う。


 「リベットの能力、覚えとけ」


 「何でです?」


 「また一緒になる」


 レンは少し間を置いた。


 「同期だから?」


 「ヒーローだからだ」


 ガイはそれ以上言わなかった。

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