通知は突然に
日常の中にある、ほんの小さな違和感。
それが少しずつ広がり、やがて取り返しのつかない恐怖へと変わっていく。
そんな“逃げ場のない恐怖”を描いた作品です。
「お疲れ様です…!」
少し緊張しながら、ナースステーションに入る。
「お、今日も頑張ろうね」
先輩の田中さんが優しく笑う。
「今日は3人夜勤やけん、安心していいよ」
その一言に、少しだけ肩の力が抜けた。
「よろしくお願いします」
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申し送りを受ける。
301号室、安定。
302号室、夜間トイレあり。
304号室、不穏気味。
「304だけちょっと気をつけてね」
「はい…!」
まだ慣れない業務に、必死にメモを取る。
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夜勤が始まる。
病棟は、ゆっくりと静かになっていく。
患者さんたちも眠り、
廊下には白い光だけが残る。
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「美咲ちゃん、見回り一緒に行く?」
「はい、お願いします」
先輩と一緒に歩く廊下。
少しだけ安心する。
⸻
304号室。
そっとドアを開ける。
患者さんは、静かに眠っていた。
「……よかった」
小さく息を吐く。
「大丈夫そうやね」
「はい…」
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ナースステーションに戻ると、
もう一人の先輩もいて、少し雑談が始まる。
「慣れてきた?」
「まだ全然です…」
「大丈夫、そのうち慣れるって」
その言葉に、少しだけ笑えた。
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23時50分。
「休憩どうする?」
「順番で行こっか」
いつも通り。
何も変わらない夜。
——のはずだった。
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そのとき。
——ピロン
スマホが鳴った。
驚いて見ると、
田中さんも、もう一人の先輩も、同時にスマホを見ていた。
「……え?」
全員、同じ顔。
ゆっくり画面を見る。
『あなたは選ばれました』
「なにこれ……」
声が震える。
意味がわからない。
怖い。
⸻
ピロン
また通知。
『選択を開始してください』
空気が、変わる。
さっきまでの安心感が、一瞬で消えた。
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画面を開く。
そこに表示されたのは——
患者さんの名前。
部屋番号と一緒に、ずらっと並んでいる。
そして、その横にチェックボックス。
「……やめてよ」
思わず口に出た。
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『制限時間:5分』
『選択しなかった場合、全員が対象になります』
「……全員?」
頭が真っ白になる。
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そのとき。
——ピンポーン
ナースコール。
304号室。
モニターを見ると、異常な数値。
「急変…!?」
「行くよ!」
先輩が走り出す。
美咲も慌てて後を追う。
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でも、そのとき。
スマホが、手の中で震えた。
『残り時間:4分』
画面を見る。
304号室の名前が、赤く光っている。
⸻
「……やだ」
足が止まる。
心臓がうるさい。
これって、
もしかして——
⸻
“選ばないといけないの?”
ここから、“選ぶ物語”が始まります。
命を救う側の人間が、命を選ぶことになったとき、
その選択は本当に“自分の意思”と言えるのでしょうか。
次回、第2話「最初の選択」。
ぜひ続きを読んでいただけたら嬉しいです。




