cys:94 神話と疑念
ルミの運転のお陰で、ノーティスは何とか時間に間に合った。
そして車から降りたノーティスに、ルミは車のドアの前でニコッと微笑む。
「ノーティス様、いってらっしゃいませ♪」
「あぁ、行ってくる。ありがとうルミ」
どんなに忙しかったりバタバタしてても、ルミのこの笑顔があればヤル気が湧いてくる。
ノーティスはそんなルミに微笑むと、そのまま教皇の間へ向かった。
半年に一度の謁見の会ともあって、大勢の兵士も待機しているのが目に映る。
───相変わらず豪華な造りだな。
ノーティスがそう思った時、ジークが肩をガシッと組んできた。
「よぉ、ノーティス。今回は間に合ったじゃねぇか」
「まぁ、正直ルミのお陰さ」
「やっばあの嬢ちゃん、いい仕事してるよな。可愛いし嫁にしちまえばどーだい」
ニカッと笑いながら告げてきたジークに、ノーティスは顔をしかめる。
「出来る訳ないだろジーク。ルミは執事だぞ執事。職権乱用も甚だしい」
「なーに固い事言ってんだよ。あの嬢ちゃんだって待ってるハズだぜ」
「ないない。そんな夢でも……」
ノーティスは今朝の事を思い出して、ふと言葉を止めた。
「ん、どーした」
「いや、今朝見た夢の事を思い出して」
「夢? どんな夢よ」
「いや、覚えてないんだけど……」
「何じゃそりゃ。まぁでも、夢なんてそんなもんだよな」
やれやれのポーズを取るジークの側で、ノーティスは顎に手を当てて思う。
───確かに夢ってそういうモノだけど、何か引っかかるんだよな……
すると、華美な香りと共にレイが微笑みながら近づいてきた。
「フフッ♪ ノーティス、夢の話なんて素敵じゃない」
「レイ、聞いてたのか」
「えぇ、今さっきね」
「そういえば、レイは夢とか覚えてたりするか?」
ノーティスがレイにそう尋ねると、ジークがニカッと笑う。
「ノーティス、レイは夢とか見ねえよ」
「えっ?」
「夢ってのは、基本的に抑圧されたもんを解消する為に見るらしいぜ。だから、いっつもワガママ言ってる女王様には、見る事は出来ねぇのさ」
そう言ってニヤッと見下ろしてきたジークに、レイはキツイ眼差しを向け、グイッと顔を近付ける。
「なによジーク、超失礼なんだけど! 私だって夢ぐらい見るわよ」
「へぇ、どんな夢見んだよ」
ジークがそう言うと、レイはノーティスの腕にスッと抱きついてうっとりした顔を浮べた。
「決まってるでしょ♪ ノーティスとこうしてる夢よ」
「うっ……レイ、お前さん」
たじろぐジークの前で、レイは見せつけるようにノーティスに顔を近づけ、甘えたような笑みを見せる。
「ねぇノーティス、またデートしましょ♪ 別にあの子とお付き合いはしてないんでしょ?」
「まっ、まぁそうだけど……」
ちょっと顔を火照らすノーティスの耳元に、レイは口を近付けた。
「私の夢はアナタと抱き合う事よ♪」
「レ、レイ! キミにはジークが」
ノーティスが慌てながらそう声を上げると、レイは腕を組んだままジークをフフンと見下ろす。
「だってこの人ガサツなんだもん♪ 人の夢を消しちゃうような人よ」
レイにそう言われたジークは、慌てて両腕を前に広げた。
「レ、レイ、冗談に決まってるじゃねぇか」
「私、冗談通じないから」
「嘘だろおい」
「フフッ♪ 冗談よ。でも、これで分かったかしら」
妖しくセクシーな笑みを浮かべたレイ。
「チッ、やっぱお前さんには敵わねぇぜ」
ジークが額を押さえて顔をしかめると、ノーティスはちょっと話に乗る。
「でもレイ、やはり夢は大事にしなきゃな。よし、今度デートしようか」
「あら、嬉しいわノーティス♪」
「おいおいノーティス、お前さんまで勘弁してくれよーー」
ジークがそうボヤくと、ロウとメティアもやって来た。
「楽しそうだな」
「あっ、ノーティスとレイが腕組んでるー♪」
楽しそうに目を開き笑ったメティアに、ジークは助けてくれと言わんばかりの顔を向けた。
「そーなんだよメティア。このお二人さん、何とかしてくれよ」
ジークがボヤくと、後ろからアンリがジークの肩に、笑顔でポンと片手を置いてきた。
「ニャハハ♪ 聞いておったぞ。口は災いの元ニャ♪」
「アンリーー」
振り返って嘆くジークに、アンリはニコニコ笑う。
「まぁまぁ、気にするでない。それにお主のガサツな所と、レイのプライド高い所は、同じ様なもんじゃがのう♪」
アンリがそう言うと、レイはアンリに向けて口を尖らした。
「ちょっとアンリ、勝手な事言わないでくれる。私のプライドとこの人のガサツさは別物よ」
「そーかのう? お主ら似合ってると思うけどニャ♪」
アンリがそう言った時、大臣の声が広間に響く。
「今から教皇様がお見えになる。静まれ!」
大臣がそう告げた瞬間に教皇の間は静まり返り、ノーティス達は襟を正した。
すると大きな天幕の裏の左右から、2人の仮面の騎士が現れた。
それぞれ纏っている漆黒の鎧と黄金の鎧の下から、凄まじいオーラを放っている。
彼らを見て、小声でザワつくノーティス達。
(おいノーティス、なんだアイツら。半端ねーぞ)
(あぁ……さすが教皇の側近だ)
(私達と互角……いや、それ以上かもしれないわね)
(何か怖いよ……)
(アンリ、彼はらまさか……)
(ロウ、今はまだ確証は持てんが……恐らく)
ノーティス達が静かにザワつく中、天幕の中央から教皇がスッと姿を現し、玉座の前で皆を見下ろした。
「ユグドラシルとクリスタルに、永遠の忠誠を!」
教皇の号令に、ノーティス達は手の平と拳を胸の前で合わせ教皇に続く。
「ユグドラシルとクリスタルに、永遠の忠誠を!」
それを確認した教皇は、玉座にスッと腰を下ろした。
教皇は、側近の2人とはまた違う、謎に満ちた荘厳なオーラを放っている。
「あの大戦から100年が過ぎようとしている。悪魔カターディアよりもたらされた悪魔の呪い。それを防ぐ為に五英傑が戦った時からだ」
そこで教皇は皆を見渡し、話を続ける。
「五英傑が創りし魔力クリスタルによって、悪魔の呪いの感染は防止出来るようになった」
そこまで告げ、拳をギュッと握る教皇。
「しかし、ヤツはトゥーラ・レヴォルトを操り、武力によりこのスマート・ミレニアムを、そして、神聖樹ユグドラシルを奪おうと、幾度となく攻撃を仕掛けてきている」
今教皇が話しているのは、神話であり真実。
感染防止と、ユグドラシルからの力を使う為に、皆が額に埋め込んでいる魔力クリスタル。
ノーティスが昔、無色の魔力クリスタルと判明した時に、皆から悪魔扱いされたのがこの理由だ。
もちろん、ある意味そのお陰で真の力に目覚めたのだから、人生は何が吉と出るか分からないのだが……
───あれから本当に色々あったな……
また教皇の言う通り、トゥーラ・レヴォルトはこのユグドラシルを奪おうと何度も攻め入ってきている。
ユグドラシルの放つ絶大な魔力を欲するが故に。
そんなトゥーラ・レヴォルトについては、教皇も常に目を光らせているのだ。
「無論、勇者エデン・ノーティス率いる王宮魔導士達によってトゥーラ・レヴォルトの脅威は幾度となく退けてはいるが、徐々に奴らが領土を拡大しているのは否めない」
教皇はそこまで告げると、ギロッと皆を見渡した。
「奴らは魔力クリスタルの救いを拒み、悪魔に操られし蛮族! どれだけ強かろうとも、愚かな民族である事に変わりないのだ!」
教皇の言う事に皆が賛同し誓いを新たにする中、ノーティスは疑念を胸に抱えていた。
───シド………キミは決して蛮族なんかじゃなかった。
あれから2年過ぎたが、ノーティスの心の中には、あの日の事がずっと残っている。
───キミは誰よりも優しく誇り高い戦士だ。でもなぜ魔力クリスタルの救いを拒否したんだ……
ノーティスがそんな思いに耽っていると、1人の兵士が凄まじい形相で入口に駆けつけ、サッと跪いた。
「恐れながら申し上げます! たった今、トゥーラ・レヴォルト軍が我が国に向い侵攻を開始しました!」
突然の襲来は何を意味するのか……
次話はノーティスが異変をいち早く察知します。
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