cys:93 悪夢と愛しいルミ
「な、何だこれは?!」
ノーティスは片膝をついて彼女を抱きかかえたまま、ギョッとした表情で周りを見渡した。
世界全体が、異様な黒い紫色の磁場に覆われているからだ。
「これは、一体……」
そう零した瞬間、天空から巨大な白く神々しい光がサアアッと降り注がれ、その光の中から、この世の者とは思えない5人の巨大な超越者とも呼ぶべき存在が降臨してきた。
「な、なんだあれは!!」
ノーティスは驚愕に目を大きく開き見つめる。
まるで、世界の終わりを告げてくるような存在の彼らを。
そんな彼らは、邪悪そのものかつ神の如き絶大なオーラを放ちながらノーティスを見下ろし、神々しさと禍々しさが交叉した声で告げてくる。
「光の勇者エデン・ノーティス。これはお前の夢……しかし、同時に現実でもある」
「夢であり現実? どういう事だ!? 何よりお前達は一体……」
その瞬間、ノーティスの頭に凄まじい痛みが走る。
「うっ……! くっ、こ、これは……!」
脳内を駆け巡っていく痛みと、それに伴って溢れ出てくる大量の記憶。
ノーティスは両手で頭を抱えて顔をしかめる中で、全てを思い出した!
なぜ今自分がここにいて、彼らが誰で、これまで何をしてきたのかを!
そこから全身に駆け巡っていく。
彼らの激し過ぎる怒りが……!!
ノーティスは頭痛が収まると、彼女を抱えたままギリッと歯を食いしばり、悲壮な想いと共にゆらっと立ち上がる。
そして彼らを下からキッ!! と、睨みつけた。
「お前達のせいで俺は……いや、俺達は皆……!!」
しかし、ノーティスのその気持ちを嘲笑うかのように、彼らはその瞳を邪悪な光で輝かす。
「我らの鍵であり同時に仇名すその女。どこに行こうとも…どの世界に転生しようとも、決して逃さぬ」
「そうよぉ♪ 決して逃さないから」
「ヒヒヒヒヒッ♪ 逃さなーーーーい」
「それに光の勇者、オマエもだ。オマエの魂の逃げ場など、どこにもありはしない」
「所詮、我らの因果律から逃れる事など出来ぬ運命……諦めるがいい」
ノーティスには分かっていた。
彼らは超越者であると同時に、この世界を破滅させる事を悦ぶ悍ましき存在達だと。
けれど、ノーティスは鞘から剣をスッと抜くと、彼らに臆することなく剣を構え、精悍な眼差しを持って正面から向き合った。
師であるアルカナートが、そうしてきたように。
───師匠。俺は……
ノーティスはアルカナートに想いを馳せながら、彼らを決意と共に睨みつけた。
「因果律? 逃げ場? 諦める? お前らの勝手な基準で俺の……いや、俺達の人生を勝手に決めるなよ……俺達はお前らの玩具じゃない! 命を……生きる事を侮辱するな!!」
ノーティスは激昂しながらも、自身の心をしっかりと見据えて詠唱を行う。
必ず勝たなければいけないから。
この邪神達に、自分だけで……
「ハァァァァッ……! 光のクリスタルの名の下に、限界を超えて輝け!! 俺のクリスタルよ!!!」
ノーティスは、自らの額の魔力クリスタルから放たれるゴールドの煌めきを全身に纏い、超越者達に必殺剣で突撃していく。
「お前達を倒し……俺は、今こそ全てに決着を付ける!! 闇の彼方へ還れ!! 『アトミック・エクス・ギルスラッシュ』!!!」
ノーティスは涙を迸ながら、たった一人で彼らに立ち向かっていった。
この身が引き裂かれても消えない程の、悲しい記憶と絶望を胸に抱えて。
───ロウ……アンリ……レイ……ジーク……メティア……そして……!
「ハァァァァッ!!!」
───みんな……俺は未来を変えて、今度こそ、みんなとこの世界を……そして……キミを守り抜く!!
その想いと共に邪神達に立ち向かうノーティスの意識は、漆黒の闇に覆われていった……
◆◆◆
「……様っ」
「……ティス様っ!」
「ノーティス様っ!」
「うわっ!」
ノーティスが目を覚ましガバっと上半身を起こすと、その目に飛び込んできたのはルミの姿だった。
心配した顔でノーティスの事を見つめている。
「大丈夫ですか、ノーティス様」
「ん、あぁ……」
「大分うなされていたご様子でしたが……」
ルミからそう言われ、体中汗をぐっしょりかいている事に気付いたノーティス。
「うわっ、俺ベタベタじゃん」
そうボヤきながら、どんな夢を見たのか思い出そうとしたが全く思い出せない。
「ルミ、俺どんな夢見てたんだっけ……」
片手で頭をクシャっと掻き寝ぼけてるノーティスに、ルミは呆れた顔でやれやれのポーズを取る。
「知りませんよ。さすがに、そこまで管理は出来ません」
「まぁそうだよな……けど、何か大切な事だった気がして……」
少し考え込んでるノーティスを、ルミは何となく不思議そうに見つめた。
あまり見た事が無い表情だったから。
そしてそのまま少し見つめると、ルミは軽く諭すような表情に変えた。
「ノーティス様。夢も大切ですけど、今日は現実的に何の日かご存じですか?」
「現実的に……」
そうボヤいた瞬間、ハッと気付いたノーティス。
「ヤバッ! 今日は教皇様の謁見の日だ!」
「そーです♪ よく出来ました」
そう言って少し呆れた顔で微笑んだルミに、ノーティスは用意しながらぶつくさ文句を言ってくる。
「いやルミ、だったら何でもっと早く起こしてくれなかったんだよ」
「起こしましたよ、何度も。これで3回目です。足りませんでしたか?」
ルミがちょっと強い視線で見つめてきた時、ノーティスは悟った。
これ以上文句を言ったら怒られると。
「えっ? あっそっか……ごめんルミ。取り敢えず急ごう!」
「もう、お車は準備してあります♪」
「さっすがルミ!」
ルミにそう礼を言うや否や、ノーティスは大慌てで準備を済ませルミと車に乗り込んだ。
「ではノーティス様、行きますよ♪」
「頼むよ! ルミ」
「任せてください。私、ノーティス様の執事ですから♪」
ルミは笑顔でそう言うと、アクセルを目一杯踏んだ。
ルミの運転は、相変わらず早い上に心地がいい。
窓の外の景色が静かにドンドン移り変わっていく。
そんな車に揺られながら、ノーティスは夢の内容を思い出そうとしたが、残念ながら一切思い出せなかった。
───やっぱり無理か。でも……
ノーティスは、ルミをチラッと横目で見る。
嬉しそうに運転してくれている、ルミの頼もしく可愛い姿を。
───夢がもし悪夢であったとしても、俺はこの現実に感謝してる。
「ルミ、ありがとうな」
「な、なんですか急に」
「いや、別に♪」
ノーティスは後頭部に両手を添えてシートによたれかかると、嬉しそうな顔をして目を閉じた。
今ある現実に感謝するノーティス。
けれど、あの悪夢は一体何を告げるのか……!
次話はあの教皇からの訓示にザワつきます。
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