cys:52 メティアの登録魔法一覧
「ノーティス様、予定変更ってどういう事ですか? それに変更も何も、お店の予約の時間ギリギリなんですが……」
突然の予定変更を告げられちょっとお怒りモードのルミに、ノーティスはゴメンのポーズをして笑顔で頼み込む。
「頼むっ! ルミだけが頼りだ。このとーり」
「……もうっ、分かりましたよ、ノーティス様」
「ありがとうルミ!」
笑顔でお礼を言うノーティスに、ルミは腕を組み軽く頬を膨らませた。
───全くズルいんだから。ノーティス様からそんな笑顔で頼まれたら、私、何でも許しちゃうじゃないですか。
ルミは心でそう呟くと、魔力ポータルを起動させお店に連絡を取り始めた。
「すいません。エデン・ノーティスの名前で予約していた…… はい、そうです。はい…… あっ時間は変更無いんですが、本日三名に変更してもらっても宜しいでしょうか? ……厳しいですか。あっ、でもコースの追加ならいかがですか? ……はい、むしろそれなら大丈夫ですか? よかった! ありがとうございます! では後程」
ルミは通話を終えると魔力ポータルを切り、ノーティスに向かい微笑んだ。
「ノーティス様。変更完了致しました」
「さっすがルミ。天才っ!」
「当り前じゃないですか。私はノーティス様の執事ですから♪」
誇らしげに答えたルミの側で、メティアは少し戸惑っていた。
何だかドンドン話が進んでいるからだ。
「あの……ルミさんでしたっけ。今のは?」
「今日のノーティス様のお誕生日のお祝い、アナタも是非ご参加下さい♪」
「えっ? だってボク今出会ったばかりだし、しかも、そんな大切な日に急に参加させてもらうなんて悪いですよ……」
確かにメティアの言った事は最もなのだが、ルミからはメティアを心から歓迎するオーラが溢れている。
「いいんです♪ ノーティス様がお認めになった方ですから、むしろ是非一緒にお祝いして下さい」
「いや、でも……」
遠慮しているメティアに、ノーティスは笑顔で手を差し出した。
ノーティスからも歓迎のオーラ満載だ。
「さっ一緒に行こう。どうするかは、お店に行ってから考えればいい」
「えぇっ、何それ♪」
メティアはそう言われて、思わずクスクスっと笑ってしまった。
ノーティスが屈託の無い笑顔で、一緒に行くのが当たり前のように誘ってきたからだ。
それに、ノーティスとルミから伝わってくる雰囲気は、決して悪いモノではないと感じている。
───悪い人達ではないよね。それに、あのカフェであんな風に会ってここでまた出会うのは、運命なのかも……!
そう思ったメティアは、ノーティスの手をスッと掴んだ。
「うん。じゃあ一緒にお祝いさせてもらうよ♪」
それを見て一瞬ピキッとしたルミだが、ノーティスはそういう人なんだから仕方ないと思い直し、気持ちを落ち着かせる。
───特に今日はノーティス様のお誕生日のお祝いなんだから、笑顔笑顔。あーーーでも、私もノーティス様と手繋ぎたいなーー
心でそう葛藤したルミだが、メティアに向かい微笑んだ。
また、メティアとはまだ出会ったばかりだし、女のルミから見ても凄く可愛い女の子だが、なぜか変ないやらしさは感じないのだ。
まあ、手を繋いだ時は一瞬ピキッとしてしまったが、それはルミの条件反射の様なモノだから。
「では行きましょう、ノーティス様と……」
「あっ、すいません。ボクは『フロラキス・メティア』って言います。メティアって呼んで下さい♪」
「分かりましたメティアさん。私はノーティス様の執事のアステリア・ルミって言います。ルミでいいわ。よろしくね♪」
「はいルミさん、こちらこそよろしく♪」
二人が互いに微笑むと、ノーティスが一瞬ヤバッという顔をメティアに向けてきた。
「すまない。俺はエデン・ノーティス。ノーティスでいい」
「あっ、そういえばまだちゃんと名前聞いてなかったね。ボクはフロラキス・メティア。メティアでいいよ。って、名前も知らない内に誘ってくるなんて、ノーティスって面白いね♪」
そう言って楽しそうに笑ったメティアの前で、ノーティスは思わず片手で頭を掻いた。
「ハハッ、確かにそうだな」
「まっ、それでも誘いに乗ったボクもボクだけど♪」
「メティア、それでいいのさ。人生名より実なんだから」
「アハハッ♪ ノーティス、確かにそーかもしれないけど、都合よすぎじゃない」
「うん。でも、都合が悪いよりいいさ」
「なにそれーーーそんなん初めて聞いたよ♪」
メティアが楽しそうに笑っていると、ルミがちょっとすまなそうな顔を向けてきた。
まだメティアとは初対面なのに、少し砕けすぎかもと思ったから。
「メティアさん、すいません。ノーティス様はこういう方ですが、思った通り言ってるだけですので気にしないで下さい」
「いーよ、ルミさん。むしろ楽しくてなんかほぐれたよ」
「そっか。それならよかったです♪」
ルミがニコッと笑うと、ノーティスが二人に元気よく告げる。
「よしっ、じゃあ行こうかルミ。お店まで運転宜しく頼む」
「はいっ♪ 任せてくださいノーティス様」
「うん。よろしくね、ノーティス、ルミさん」
そして、三人は一緒に車に乗りお店に向かった。
◆◆◆
『スマート・ミレニアム・ゴールドエリア。レストランAPXS』
「乾杯っ♪」
レストランの店内に、三人のグラスが合わさる音と明るい声が響いた。
「ノーティス様、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、ルミ」
「えっと……ノリで一緒に乾杯しちゃったけど、ボク、本当にこんな場にいていいの?」
まだ緊張が少し抜けないメティアに、ノーティスは優しく微笑んだ。
「当たり前だろメティア」
「そーですよメティアさん。ノーティス様はこういう方ですし、乾杯したんだから遠慮せず一緒に楽しみましょう♪」
「んーーー分かりました! じゃあ、ボクも遠慮せず楽しんじゃいますね♪」
メティアはそう言ってニッコリ笑うと、グラスシャンパンをクイッと飲んだ。
可愛いらしいメティアとシャンパングラスが、絶妙な雰囲気を醸し出している。
「美味しー♪ ボクお 酒はあんましだけど、これは好きー♪」
正直まだお酒は飲みなれていないようだが、メティアの口には合ったらしい。
もちろん、ノーティスもルミも満足気な顔を浮かべている。
「うん、確かに美味いな」
「ノーティス様の誕生日に相応しい味ですね♪」
三人の喉を幸せで満たした高級店のワインは、確かに凄く美味しかった。
けど、お酒にはあまり強くないメティアは、もう顔を赤くして少しまどろんでいる。
「ノーティス、ルミさ〜ん。今日はボクなんかをここに連れてきてくれて、ありがとうございま〜〜す♪」
メティアは火照った顔でお礼を告げると、そのままの口調で問いかける。
「ちなみに、お二人は付き合ってるんですか〜?」
「いやっ、違う違う。ルミは俺の執事だよ」
「つ、付き合ってるだなんて、そんな……♪ 私はノーティス様の執事ですから」
「そうそう。俺とルミは全くそんなんじゃないって。なぁ? ルミ」
「はいそーです。そーですとも……」
ルミはそう答えながら、心の中でヤキモキしていた。
───もうっ、そんなに念押ししなくてもいいじゃないですか。ノーティス様のバカっ! 鈍感っ! あっ、そうだ。ノーティス様は、女心れ~点の人だった……
またノーティスも、実は内心ちょっとモヤモヤしている。
───いや、ルミを好きか嫌いかっていったら凄く好きだけど、執事と付き合ったりしたらダメだよな。楽しそうだけど……いかん。邪な考えはしちゃいけない。
メティアは、そんなノーティスを見つめながら可愛らしく首を傾げた。
「でもさノーティス、どうして突然見ず知らずのボクを誘ってくれたの?」
「イヤな事があった時は、美味しい物を食べた方がいいのさ。俺もそうだった……」
少し懐かしそうに昔を振り返りながら、話を進めるノーティス。
「辛くて寒くて凍えそうな時に、セイラという女性から作ってもらったスープの味……俺は一生忘れる事が無い」
「ノーティス……」
「それに、メティアは頑張ったからあそこにいたんだろ? だから、美味い物食べる権利があるんだよ」
「いや……ボクなんて、そんな権利なんて無いよ」
メティアは伏目がちにそう答えたが、ノーティスとルミはメティアを優しく見つめている。
「いや、大いにあるさ。本気で頑張った事でなきゃ、あそこまで落ち込めないハズから」
「そうですよメティアさん。あそこにいた事が、メティアさんが本気で頑張った証拠です♪」
二人の優しさを真正面から受けたメティアは胸がジーンと温かくなったが、逆に自分がイクタス達から理不尽に追放された事を思い出した。
「二人とも優しいね……だから言っちゃうけど、ボク本当は……特級ヒーラーになって活躍するのが夢なんだ!」
メティアはノーティスとルミにそう告げると、そこから堰を切った様にこれまでの事を話始めた。
ギルド検定試験に合格したばかりの頃、イクタスのパーティーに誘われた事。
皆がダメージを受けないように、みんなに常に支援の魔法をかけていた事。
そこから皆で冒険を進めて、パーティーが成長してきた事。
そして、役立たずだと言われてパーティーを追放された後、自分で様々な魔法を使って依頼もこなしながら仲間集めをした事……
メティアはこれらを話していると、ワインの効果もあり涙が溢れてきてしまった。
「だから、ボクなんてダメなんですよ……」
けれどそんなメティアを前に、ノーティスとルミはビックリした顏で見つめ合っている。
「なぁルミ……こんな事ってあるんだな」
「はい、ノーティス様。私もそう思います」
「えっ? 二人とも、どういう事……?」
メティアが涙を浮かべながら二人を見つめると、ノーティスはメティアに興味深そうな表情を向けていた。
「メティア、悪いんだけど『登録魔法一覧』を見せてもらってもいいかな?」
「えっ? 習得した魔法と、そのレベルが一覧になっているデータの事だよね?」
「あぁ、そうだ」
スマート・ミレニアムでは、魔力クリスタルにそのデータが登録されるようになっている。
なので、魔力ポータルを開きそこにパスワードと暗証番号を入れれば、閲覧可能になっているのだ。
ノーティスとルミはメティアの話を聞き、それに嘘や誇張を感じた訳ではない。
むしろ、全く感じなかったからこそ確認したくなったのだ。
「いいけど……でもどうして?」
少し不安げな表情を浮かべるメティアに、ノーティスは凛とした顔で答える。
「メティア。キミはもしかしたら、もう夢を叶えられるかもしれないからだ」
「えっ、夢を?!」
「あぁ。悪いようにはしないから、少し確認させてくれ」
「う〜ん……」
メティアは悩んだ。
二人には今日まだ出会ったばかりだから。
───どうしよう……見せていいのかな?
メティアはそう思い、軽くうつむきながらノーティスとルミをチラッと見た。
───二人ともいい人だよね。それにボク、もうこれ以上下がる事なんて無いんだし……
そう思ったメティアは姿勢を正し、ノーティスを真っ直ぐ見つめた。
「うん、いいよ」
「ありがとう、メティア」
「メティアさん。ありがとうございます♪」
ノーティスとルミは礼を告げ、メティアの登録魔法一覧の中身を確認してゆく。
すると、二人は嬉しさに顔をほころばせて見つめ合った。
「ルミ……!」
「ノーティス様!」
「えっ、どうしたの二人とも」
メティアがそう尋ねた時、ノーティスは凛とした微笑みをメティアに向けた。
無論、ルミもそうだ。
ワクワクした雰囲気が、二人から溢れ出ている。
「メティア、今度ロウ達に一度会ってほしい」
「ロウ? えっ、ロウってまさか……」
「あぁ、Sランク王宮魔導軍士のアルカディア・ロウ。俺の仲間だ」
「えっ…… えぇっ?!」
ノーティスの普通は凄すぎて……
次話は、ざまぁの始まりです。
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