cys:51 魔法のハンカチ
「イクタス……それは、どういう事?」
メティアは、迫りくるイヤな予感に心臓をドクンとさせながら声を絞り出した。
しかし、イクタスはそんなメティアを嘲笑う。
「ハッ、どーもこーも今言った通りだ。俺等が睨み効かせてんだよ」
「そんな……ハッ! だからみんな!」
メティアは全てを悟り愕然とし、目を見開いて体をブルッと震わせた。
今までどんなに頑張っても、後一歩の所でどのパーティにも断られてしまった理由が分かったからだ。
「まあ、俺等の睨みの効かないA級パーティなら、仲間にしてくれるんじゃねーの? メティア。お前が特級ヒーラーならな。ヒャハハハハッ♪」
「ハハッ、その通りだな」
「よかったねーーーメティア。キャハハハッ♪」
もちろんメティアは、Aランクパーティには入れない。
Cランクだから。
けれどそれは、イクタス達が思っている理由とは全然違う。
メティアはみんなの為に、敢えてランクを抑えていたからだ。
自分がCランクだと思われていても、実際に皆を守れていればそれで良かったのだ。
「うっ……ううっ……」
でも、メティアはそれをこの期に及んでも、決してそれを言わない。
イクタス達を傷付けたくないからだ。
ただ瞳に涙を浮かべ、イクタス達に訴えるような眼差しを向ける。
「イクタス……なんで、なんでそこまでするの?! 役に立たなかったから? みんな一緒に頑張ってきた仲間……」
メティアがそこまで言うと、イクタスはメティアに上半身をグイッと突き出し、嘲る顔を近付けた。
「バーカ。まだ分かんねぇのかよ。メティア、初めからお前なんていらなかったんだよ」
「えっ? どういう事……」
「ったく、金に決まってんだろ♪」
「お、お金?」
「そーだ。初心者の冒険者を入れるとなぁ、ギルドから一定期間補助金が貰えんだよ」
「まさか……」
青ざめていくメティアに、イクタスはニヤリと嗤う。
「そう。それが切れちまったお前は、もういらねーんだわ」
「う、嘘だよねイクタス、そんな事……」
あまりの絶望に一瞬視界が真っ黒になり、蒼白な顔をして全身をカタカタ震わすメティア。
だが、そんなメティアの顔を見て、イクタスはむしろ嬉しそうに嗤う。
「本当に決まってんだろ♪ 金だよ金」
「そ、そんな事って……」
「あるんだなー、これが。まっ、もちろんこれまでの金は、俺等三人で使っちまったけどな♪」
「メティアよ、そういう事だ」
「ありがとねー♪ 補助金女。キャハッ♪」
あまりにも黒い真実を告げられ、メティアは青ざめた顔で呆然としたまま声が出てこない。
「あっ……あっ…………」
メティアはもう考える事すら出来なくなってしまい、何も言わずにその場に立ち尽くしていた。
しかし、それだけではまだ終わらなかった。
イクタスの後ろから、背の高いセクシーな女が現れたのだ。
「ねーイクタス、もうよくなーい? それ以上本当の事教えたら、この子壊れちゃうわよ♪」
「……えっ? イクタス。その人は……」
メティアが消えかけるような声で尋ねると、その女はイクタスに後ろから抱きつくように体を密着させた。
そして、メティアの方へ妖しい眼差しを向ける。
「フフッ……♪ 私はB+ランクのヒーラー『レヴィス・ハティ』よ♪ イクタスのパーティに誘われたの」
「えっ? それじゃ……まさか……」
メティアがさらなる絶望に目を丸くすると、ハティは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そーゆー事♪ メティアちゃん、アンタの居場所はもうギルドにもパーティにも、どこにも無いの」
完全に居場所を奪われ呆然とするメティアに、イクタスがトドメを刺してくる。
「そーゆー事だからよ。お前はもう特級どころか冒険者として生きれる場所はねぇんだ」
「イクタス……なんで……なんでここまで酷い事を……」
絶望から滲み出てくる涙を浮かべたメティアに、イクタスは憐れむどころかウザったそうに顔を歪める。
「ムカつくからだ。よえークセに、いつもキラキラした目をして諦めないお前がよ! 二度とその面見せんな!!」
イクタスはそう吐き捨てるとサッと背を向け、いつぞやの時のように、パーティの皆と笑いながらその場を去っていった。
周りの冒険者達が哀れみや申し訳なさそうな顔で見つめる中、メティアはしばらく立ち尽くした後にギルドの施設の外に出て、道の端っこにうずくまって泣き始めた。
この前よりも更に悲しかったからだ。
「うっ……うぅっ……」
頑張っていればいつかは報われる。
メティアはこれまでそう信じて頑張ってきたし、イクタス達とも、また仲良くなれるかもしれないと思っていた。
けれど、そんな事はなかったのだ。
初めから全部嘘で、居場所なんてどこにもなかった。
「もう、いい……どんなに頑張っても、ボクは誰にも必要とされないんだ……うっ、うぅっ……もう、イヤだよ……」
メティアが道の端でうずくまったまま悲しみと絶望を抱え込んでいると、その心を映したように、雨がザアザアと降り出してきた。
でも、メティアはそのままそこにうずくまったままだ。
───もうこのまま、消えてしまいたいよ……
メティアが心でそう悲しみを零した時だった。
「キミ、大丈夫か? この雨の中、そんな所にいたら風邪引いてしまうぞ」
男はそう声をかけてきたが、メティアは顔を上げなかった。
もう、人と関わりたくなかったから。
けれどその男は、そんなメティアに優しく語りかける。
「……きっと、凄く辛い事があったんだな。俺も昔、友人だけでなく、親や兄弟からも捨てられて、今のキミのように、そうやってうずくまってた事があるから……」
するとメティアは、ピクッと反応した。
まさに今の自分、いや、それ以上に辛い話だからだ。
男はそんなメティアを、優しく見つめたまま話しを続ける。
「あの日も確か、こんな雨の日だった……もう誰も信じられない。自分なんて消えちまえばいい。そう思ってた」
メティアがチラッと瞳を上げると、その男は優しい眼差しをむけたまま、胸からそっとハンカチを取り出した。
「けどその時、名も知らぬ少女が俺にこのハンカチをくれたんだ。『アナタの味方もいるって事、覚えといてほしいから』って言ってくれてさ」
男はそこまで話すと、そのハンカチをメティアにそっと差し出す。
「俺はその子の温かさに救われた。だから今度は、キミがこのハンカチを使ってくれ。キミは1人じゃないんだから」
そう言われたメティアはハンカチを受け取ると、涙で濡れた顔にそっと当てた。
その瞬間、メティアは張りつめていた糸が切れ、心から熱いモノが込み上がってきた。
「うっ……うぅっ……うわーーーーん!!!」
メティアは大声で泣いた。
道行く人がチラッと見ていくのも憚らず。
その男の言葉が全て本当である事を、メティアは理屈ではなく心で感じたから。
するとその男の後ろから、凄く可愛い女性が男を呼びかけてきた。
そう。ノーティスの執事のルミだ。
「ノーティス様ー! 早くしないとお店の予約、間に合いませんよ!」
「あぁ、すまないルミ」
ノーティスがルミにスッと顔を振り返らすと、ルミはちょっと不思議そうな顔をして、ノーティスの背中からメティアを見た。
「あれっ、ノーティス様。この方は?」
その時メティアは、ルミの顔を見てハッと思い出した。
───あっ、この人はさっきアステール・ダストにいた素敵な執事さんだ! こんな事ってあるんだ……
メティアが心でそう振り返る中、ノーティスはルミに話をしている。
「……と、言う訳でルミ。予定変更だ」
「はいっ? 予定変更ですか」
「今から行くお店、俺とルミ。そして、この子の3名に変更してくれ」
「えっ……! えぇっ?! 今からですか?!」
辛さを知ってるからこそ、優しくいられる……
次話はメティアの辛さが報われていきます。




