cys:34 王宮魔導戦士『アンディーノ・ジーク』
時は少しだけ遡り、ノーティス達がアンリと対決する少し前……
ノーティスと戦ったレイとエミリオの前に一人の大男が現れ、二人にニヤリと笑みを向けていた。
大きくガッシリと体躯に重装備を纏った、ショートウルフの男だ。
精悍な鋭い目つきからは、好戦的なオーラが溢れ出ている。
さらに背中に引っ提げているのは、大岩を大地ごと難なく叩き切る『戦斧・バハムート』だ。
「よぉレイ♪ それに、シスコンのエミリオじゃねぇか」
「ジーク、王宮魔導戦士のアナタがなぜここに? それに、突然来るなんて美しくないわね」
レイがツンとした表情でジークを見上げる側で、エミリオはイラっとした顔でジークを睨み上げた。
「なんだよジーク、お前も姉さんを狙ってるのか?」
「ん? いけねぇかい♪」
「帰れ! ボクの姉さんに気安く話しかけるな」
顔をしかめるエミリオに、ジークはニヤリと笑う。
「悪ぃけど、そういう訳にもいかねぇのさ。今日はちょっくらレイに話があるからよ」
ジークはそう言ってレイにグイッと身を乗り出した。
「聞いたぜレイ。エデン・ノーティスっていう駆け出しの小僧が、お前さんを倒したんだってな」
「あらジーク、お耳が早いのね」
「あぁ、さっきちっとばかしな。全くの無名剣士がSランクの王宮魔導士のお前さんと、互角以上の勝負をするたぁ驚きだぜ」
これは凄い事であると同時に、普通に見ればレイにとっては屈辱的な事だ。
けれど、レイは動じない。
確かに悔しさが無いと言えば嘘になるが、あの戦いでそれ以上に大切なモノを得たから。
むしろ、ジークが何を言いたいのかの方が気になる。
「で、何の用事で来たの? もしかして、この子の言う通り、私にデートの申し込みでもしに来たのかしら。フフッ♪」
「まぁ、そーしたいのも山々なんだが、それはお前さんに勝つよりも難しいだろ」
「あら、随分と察しがいいじゃない♪」
軽やかにそう告げたレイの瞳を、ジークは、ん? と、思いジッと見つめた。
「なによ?」
「いや……まぁ今日は別の用事で来たんだけどよ、今のお前さん見てると、前よりも本気でデートに誘いたくなっちまうな」
付き合いの長いジークは、レイの瞳の色が変わった事に気付いたのだ。
以前と同じくプライドの高い光は変わっていないが、それに加えて前とは別の美しさが宿っているのを感じ取ったから。
「そう♪ 光栄だわジーク。でも知ってるでしょ。いい女は常に進化するの♪」
「ハハッ、違ぇねぇ。ただレイ。お前さん、ノーティスって奴を、実技試験無しで合格にさせようとか考えてねぇか?」
ジークは今までと違い、真剣な眼差しを向けてレイに問いかけた。
これが今日の本題なのが伝わってくる。
「あらジーク、アナタ本当に今日は察しがいいのね。少し見直したわ♪」
「チッ、やっぱりか……!」
ジークは片手で頭を抱え軽くうつむいた。
そしてサッと顔を上げ、レイに懇願するような顔を向ける。
「レイ、それは勘弁してくれ!」
「なんで? あの子は……ノーティスは筆記試験も満点で、攻撃力測定試験では、ドラゴンの皮膚と同じ硬度でコーティングされた測定機を、鋼鉄製の円柱ごと破壊して、さらに、防御力測定では私を倒して合格したのよ!」
キツい眼差しで答えてきたレイに、ジークは少し顔をしかめた。
確かにレイが言った事は間違っていないから。
「だからもう、実技試験なんて必要ねぇって言いたいんだろ」
「そうよ。あの子は一刻でも早く、私達の力になってもらうべき存在なの! だから今からちょうど、実技試験の免除をギルドに提出しに行こうと思ってた所よ」
ノーティスの事を誇らしげに話してきたその姿に、ジークはノーティスの実力が本物である事をヒシヒシと感じた。
でもだからこそ、ジークにはどうしても引き下がれない理由があるのだ。
「レイ。確かにお前さんの言う事は分かるし、お前さんがギルドに申請すれば一発で通るだろうよ」
「当然でしょ♪ それの何がいけないの?」
「いや……」
一瞬口ごもったジークを、レイは両手に腰を当て強く見据える。
「ジーク、アナタだって分かっているハズよ。今、あの人が……私達の師、アルカナートがいなくなってから、トゥーラ・レヴォルトにジワジワと領土を奪われてるのを!」
レイにそうキツく言われたジークは、悔しそうに顔をしかめ軽くうつむく。
キツく言われたからではない。
実際その通りだからだ。
「……分かってらぁ、そんな事はよ。確かに先生がいなくなってから、俺達だけで何とか踏ん張っちゃいるけど、今のAランク勇者じゃ俺達と肩を並べて戦うのは無理だしな」
ジークがそう嘆くと、レイも残念そうに瞳を軽く伏せる。
「そうよ……この前のあの子も、半年前の戦いであんな事に……」
「アイツはいいヤツだったけど、荷が重すぎたぜ……」
レイもジークも戦場で散ってしまった彼を思い出し、瞳に悲しみを湛えた。
「えぇ……彼らトゥーラ・レヴォルトは、五英傑の作りった魔力クリスタルの救いを拒んだ蛮族のクセに、何か不思議な力を持っているから」
レイがそう零すと、隣で話を聞いていたエミリオは目を丸くして声を上げる。
「えっ? アイツら魔力クリスタルを埋め込んでいないのに、そんなに強いの?!」
「えぇ、そうよエミリオ。きっとアレは悪魔の力」
「あ、悪魔の力?」
ギョッとした顔を向けたエミリオに、レイは凛とした顔を向けた。
いずれ、エミリオも彼らと戦う事になるからだ。
Aランク勇者を一瞬で葬り去った、あの強敵達と。
「そう。あの国は悪魔に支配されてるの。百年前に突如現れた『アーロス』にね。そして、幾度となくこのスマート・ミレニアムに侵攻を繰り返してきてるわ。私達の神聖樹『ユグドラシル』を奪おうとして……!」
レイはエミリオにそう答えると、再びジークをキッと睨んだ。
「ジーク、だから一刻でも早くあの子が必要なの!」
「分ーーかってる。だがなレイ、このまま実技試験を免除されると困るんだよ」
「なんでよ!」
レイが少し身を乗り出すとジークは一瞬身体を引いたが、すぐにグイッと前に乗り出した。
譲れない想いがあるから。
「……戦えなくなっちまうだろ! 仲間になったらよ!」
ジークの大きな声が周囲に響くと、レイは呆れたような顔をしながらハァッとため息を吐き、ジークをキツく睨んだ。
「ジーク。そんなの、仲間になってから稽古の時にすればいいでしょ!」
「いや、それじゃダメなんだよ! 俺は本気のアイツと戦いてぇんだ。戦士としての血が騒ぐんだよ!」
拳を握りしめたままそう叫んだジークに、レイは怒りの眼差しで返す。
ジークも退けない想いがあるが、レイもそれは同じだ。
「アナタ、そもそも何を言ってるの? もしそれで万が一あの子に重傷を負わせたら、どう責任取るつもりなのよ!」
そう言って怒鳴られたジークは、不満気な顔でジトッと見つめる。
レイの言う事が正しいのは分かるが、ここで引き下がる訳にはいかないし、何よりジークにも言い分があるからだ。
「レイ、そりゃそうだけど……お前さんは全力でアイツと戦ったんだろ?」
「そ、それは、まだあの子の力を知らなかったから……」
少し分が悪そうに視線を斜め下に逸らしたレイ。
痛い所を突かれて、返す言葉が無い。
そしてジークは、この瞬間を逃さず強く告げる。
ここを逃しちゃダメだと思ったからだ。
「知らなかったとしてもレイ、お前さんも試験以上の気持と力で、アイツと戦ったのには変わりねぇよな!」
「くっ……! 言うわね」
痛い所を突かれ少し顔をしかめたレイを、ジークはニヤリと見下ろした。
「俺とお前さんは職種は違っても、同じ王国直属の王宮魔導Sランクだ。お前さんだけよくて俺はダメだってのは、美しくねぇんじゃないか?」
「うっ……ジーク、アナタ本当に今日はどうしたのよ。凄いじゃない。なんかムカつくわ……!」
レイは悔しそうにジークを睨みつけると、プイっと顔を逸らした。
こう言われた以上、レイからは何も言えない。
「フンッ、好きにしたらいいじゃない。行くわよエミリオ」
「はいっ、お姉様」
エミリオはサッとレイの側に寄ると、ジークの事をイラっとした目で睨んだ。
「ジーク、今のは姉様の優しさだからな。勘違いするなよ」
「へぃへぃ、わーかったよ」
「……フンッ!」
エミリオがしかめっ面を向ける中、レイは背中のマントを靡かせたままジークに告げる。
「ジーク。あの子と……ノーティスと戦うなら、アルカナートと戦うつもりで挑む事ね。でなければ、アナタも無事ではすまないから……」
するとジークは、マジか?! と、いう顔で目を大きく見開き、歓喜と共に全身を震わせた。
ジークは根っからの戦士。
相手が強ければ強い程、その闘志は燃え上がるタイプだから。
「くぅ~~~~~っ、そいつは腕が鳴るぜ!」
背中でジークの悦びの声を感じたレイは、颯爽と歩きながら心の中でジークに宣言する。
───ジーク。アナタには悪いけど、ノーティスは私が守るわ。彼は、あの人が教えてくれた、私の運命の人なんだから……!
ジークは根っからの戦士であるが故に……
次話はレイがノーティスに迫ります。




