cys:201 シルフィード最大の秘密
「どけ、ナターシャ」
「どかないわ!」
両手を横に広げたまま、立ち憚るナターシャ。
その瞳は涙に濡れているが、シルフィードは動じずにジッと見据える。
「ムダだ、ナターシャよ。もう分かっているハズだ」
「くっ……」
「力の差は歴然。奴の魔力クリスタルでは、この滅輝乃魔眼には敵わぬ」
「そ、そんな事……」
シルフィードを見据えたまま、額からツーっと汗を流すナターシャ。
認めたくはないが、今シルフィードが告げてきた事は痛いほど分かっていた。
───アルカナートが弱い訳じゃない。むしろ、誰よりも強いわ。でも、シルフィードの力は、もっと奥深い何かから……
ナターシャも感じているのだ。
シルフィードの力が、滅輝乃魔眼の強さや技量だけでなく、さらに深い漆黒の感情から来ている事を。
そんな中、アルカナートはボロボロの体に力を込めてググッ……と、立ち上がった。
「ナターシャ、どいてろ。コイツの相手は……この俺だ」
「アルカナート!」
ハッと振り向いたナターシャの髪が揺れ、涙が後ろに流れる。
だが、その後ろでアルカナートはシルフィードを強く見据えたままだ。
そして、ナターシャの肩に片手を乗せると、グッと背中に退げた。
「コイツは俺がカタをつける」
「無茶よアルカナート! 貴方の体は、もうボロボロじゃない!」
「フンッ、戦ってりゃこんなもん日常茶飯事だ」
吐き捨てるように答えたアルカナートを、シルフィードは苛立ちの混じった眼差しで見据える。
「貴様……まだそのような戯言を」
「戯言かどうかは、やってみりゃ分かるさ」
「どうあっても認めぬか」
「フンッ……テメェよりマシだ」
「なんだと?」
訝しむ顔を浮かべたシルフィードを、アルカナートは精悍な顔でキッ! と、睨んだ。
「テメェ自身、認めたくねぇんだろ。その、呪われた力をよ……!」
「なっ、貴様……」
シルフィードは一瞬驚き目を見開くと、スッと瞳を閉じ片手を額に当てうつむいた。
その全身から、哀しく禍々しいオーラが立ち昇ってゆく。
「クククッ……ハハハッ……」
そこまで零すと、シルフィードは片手を額に当てたままバッ! と、大きく胸を張った。
「ハーッハッハッハッハッ!!」
狂気に彩られた、悍ましい嗤い声が周囲に響き渡る。
それはまるで世界その物を憎み、そして嘲笑うかのようだ。
「ううっ……」
「チッ……」
二人が見つめる中、シルフィードは嗤い声を止め、哀しみと狂気が交叉する瞳で見下ろした。
「よかろう。ならば、死ぬ前に教えてやる。アルカナート……貴様の国スマート・ミレニアムが、どれ程の闇を隠しているかをな……!」
「闇だと……?」
「そうだ」
シルフィードの瞳がギラリと光る。
「お前達の国は、額に魔力クリスタルを埋め込む事により、皆が高度な文明を享受している」
「あぁ、その通りだ。それに、魔力クリスタルの特性の違いで、色んな奴がいるぜ」
「そうだ、アルカナート。その中でも、貴様は至高の魔力クリスタルを宿す男。それ故に分かるまい……」
「……どういう事だ」
アルカナートが訝しむ顔を浮かべると、シルフィードはギリッと顔をしかめた。
そして、射抜くような眼差しを向け、憎悪を滾らせてゆく。
「先に少し伝えた通りだ。貴様には分かるハズがない。極稀に起こる、魔力クリスタルの不適合。すなわち……全く輝かない『無色の魔力クリスタル』がある事を!!」
シルフィードがそう言い放った時、アルカナートは哀しく顔を歪めた。
先程まさかと思った最悪の考えが、当たってしまっていたのが分かったからだ。
「シルフィード、やはりお前は……」
「フッ、流石はスマート・ミレニアムの勇者ではあるようだな。察しの通りだ」
シルフィードは軽く溜め息を吐き答えると、ギュッと片手を握りしめた。
その拳が震える。
滅輝乃魔眼の力ではなく、自身の残酷な運命への怒りによって。
「そう……俺は、かつてスマート・ミレニアムで生まれ、親兄弟、クラスメイト、全ての者から忌み嫌われ迫害された『無色の魔力クリスタルを宿した者』だ!!」
シルフィードは、かつてのノーティスと同じ運命を……!




