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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
53/55

47話 ー 目覚めた時…… ー

 





 また、一つの光が暗闇を照らす。


 赤く、何処までも(あか)く燃えるような光。


 オレはその光へと続く道を辿り、手を伸ばした。





 ー あなたにはありますか?


 貫き続けた意地 ―





 ※




 どこか遠くから声が聞こえる。

 安らぎとは程遠い、騒がしい声。


 オレは、()()()()()



「………… あれっ?」



 眼前に広がったのは見慣れない天井。

 次に埃っぽい空気と絵の具やペンキの匂いが鼻をくすぐる。

 最後に背中から伝わる妙に硬いベッドの感触によって、オレは状況を察する。


 寝てたのか?


 身体を起こして周りを見渡す。

 古く傷だらけになった机の上には、紙やら鉛筆やら絵の具やらが散乱していて、部屋の壁に沿って設置された棚の中には、見覚えのある本や道具。

 その一角には、トロフィーと一枚の写真が飾られていた。



 完全に理解した。

 ここは……… 『紙芝居部の部室』だ。



 何故だ? なぜオレはこんなところで寝ているんだ?

 さっきまで………… 何してたんだっけ?

 思い出せない。

 本を触っていたような気がしないでもないが、気がするだけで自分が一体何をしていたのかまるで思い出せない。



 時計を見ると、針は3時を指そうかと言うところ。

 窓の外が明るいことから、午後の3時だと判断できる。


 違和感。

 強烈な違和感がオレを襲う。

 つい先程まで夜だったような感覚だ。

 まだ覚醒しきっていない脳内を全力で動かそうとした時………




「ハール(にぃ)、いるかー!?」




 バターン! と勢い良く部室のドアが開け放たれたかと思うと、そこから高校生にしては小さな女の子が飛び込んで来た。




「やっと見つけた! ハル兄のクラスに行ってもいないからさ、学園中を探し回っちゃったぞ!?」




 アッハッハと遠慮なしに大声で笑うこの少女を、オレは知っている。




「………… ユウ、か?」


「どこからどう見てもアタシじゃん! 鷲峰 遊七(わしみね ゆうな)じゃん!?」




 バシッと戦隊モノのヒーローの如く、その場でポーズをキめる少女。

 うむ、間違いなく遊七だ。

 実に頭が悪い。

 日曜日の朝から放送されている少女向けバトルアニメを観ている幼女を連想させられる。




「そう、だよな? そんな恥ずかしいポーズ取れるのはお前くらいなもんだ」


「バカにしてる? ねぇ今バカにしてる?」




 ジト目で睨んでくるバカを軽くスルーする。

 会話をすることによって脳の回転に勢いがついたのか、漸く今の状況を察する。


 そう。

 今日は水無星学園の星見祭当日で、予知夢を見たオレは、まだ星も見える程真っ暗な時間の学園に忍び込んで事故を未然に防ぐために奮闘していたんだっけ?

 で、星見祭が始まるまで部室で仮眠を取っていたら寝過ごして………



「って3時!? 星見祭もう終わっちまうじゃねェか!」


「いつまで寝ぼけてんのさ! せっかくアタシの休憩時間にハル兄と星見祭見て回ろうと思ってたのに教室にいないんだもん!」



 似たようなやり取りをしたようなデジャヴを感じながらも、もう待ちきれない! とばかりに早口で捲したてる遊七を見て、そんなデジャヴの事なんかどうでも良くなった。

 そういえば、コイツは高等部になって初めてのイベントなんだよなぁ。

 同じ学園内とは言え、中学生から見れば一つ上の存在である高校生のイベント。

 いつも以上にテンションが上がってしまうのも頷ける話だ。



 さて、オレも本日の予定は無いに等しいので、一丁付き合ってやるか。




「わかったよ…… 今からでもあと一軒くらいは見て回れるか」




 遊七が喜びそうな出し物。

 オレが提案したのは………




 1.シャーロットの童話喫茶。

 2.ユウ & トモのたこ焼き。

 3.最後くらい自分のクラスを覗いてみる。

 4.人間射的をやってみる。




「そういや、メグのヤツが人間射的をやる…… みたいなこと言ってたな」


「あっ、それチョー気になってたんだよ! 今からでも間に合うかなぁ…… ねっ、早く行こ!」




 ぐいっとオレの腕を抱いて引っ張り出す遊七。

 シャーロットのじゃれつきを子猫だと例えるなら、コイツのソレは虎やライオンの戯れに近い。


 聞いた話によれば、ライオンが兎などを捕食する際の思考と言うのは、人間の思考に例えると 『その動物が可愛くて可愛くてついつい食べちゃう』 と言う感覚に近いらしい。

 オレもいつかは遊七に捕食されるのかも知れん。




「…… どしたのハル兄? なんかさっきからボーッとしてるぞ?」



 一旦引っ張るのをやめた遊七が、心配そうに顔を覗き込んでくる。

 彼女との身長差はかなりあるので、ほぼ真上を見るようにしてオレの顔を確認していた。

 シャンプーの匂いだろうか。

 凪咲やシャーロットとはまた違った、女の子特有の匂いがオレの鼻にフワリと舞い込んでくる。

 小さい顔に付いている大きな瞳には一切の濁りを感じさせないくらい澄んでいて、自惚れかもしれないけど、自分に対する信頼が伝わってきた。



 なんだろう、普段一緒にいて接する距離も近い分、あまり意識する機会もなかったのだが。

 改めて見ると、コイツは凄く可愛い分類にカテゴライズされるのではないだろうか。

 小さい身体で元気な娘であり、何よりも一生懸命な人間というのは魅力的だと思う。




「…… 今まで寝てたからな。なんか随分と長い夢を見てた様な気もするし、それでまだ頭が働いてないんだろ」




 意識してしまうとなんだか気恥ずかしくなってしまい、ついぶっきら棒な返事をしてしまった。



「ならしゃーないな! ってか早く行かないとホントに星見祭終わっちゃうってば!」



 そんなオレの態度を機にする様子もなく、オレの手を握り部室から出ようと引っ張って来た。

 彼女の手の平から感じたのは、凪咲やシャーロットの様な柔らかな感覚ではなく。

 男のオレよりも硬くゴツゴツとしたもの。

 昔野球を始めて以来、常に努力を重ねて来た跡を感じる手だったのだ。



「ハールーにーいーっ!」


「わかった! わかったからいきなり引っ張るなって!」



 強引なパワーによって現実へと引き戻されたオレは、改めて彼女の手を握って部室を出た。




「…… ハルっ!」




 と、部室を出たところで生徒と鉢合わせる。

 息を切らして汗を拭いている…… 凪咲だった。




「…… ?」



 オレの顔を見るなり、何故か首を傾げる凪咲。

 何か機にくわないことでもあったのだろうか。

 しかしそれも数秒程の反応。

「まぁいっか」と自身で納得していた。



「私、今休憩時間だから、よかったら一緒に星見祭を見て回らない…… って言おうとしてたんだけどね。一足遅かったみたい」



 凪咲の視線の先には、オレと手を繋いでいる遊七。



「ナギ姉も一緒に行こ行こ! 人間射的だぞ!」



 遊七は予想通りの反応を見せる。

 かく言うオレも同意見だ。



「あぁ、みんなで見て回ろうぜ? 時間はないけどな」



 しかし、凪咲は首を振った。



「いえ、二人で行って来て頂戴? ユウに悪いもの」


「えーっ!? なんでさ、一緒に行こーよー、ナギ姉っ!」


「ユウ……… アンタって子は……」



 食い下がる遊七に対して呆れた態度を見せる凪咲。



「とにかくっ、私はいいのよ! ハル、ちゃんとユウをエスコートするのよ?」


「たかが文化祭モドキにエスコートも何もないだろ」


「うるさいわねっ! 女の子は誰でもね、お祭りやイベントを男の人にエスコートしてもらいたい願望があるのよ!」


「そうなのか、ユウ?」


「ん、エスカルゴがなんだって?」


「ユウ……… アンタって子は……っ!」



 ワナワナと握り拳を作った凪咲だったが、はぁっと一息ついた後にそっと強く握られた手を下ろした。



「出遅れちゃったか…… 全く、ヒロに構ってやるんじゃなかったわ」


「アイツが何かしたのか?」


「こっちにくる前にね。私が休憩に入った時に呼び止められたのよ。クラスのことで話があるのかと思って話を聞いてあげたんだけど……」



 と、せっかく解いた手を再び握る。

 余程頭にきていたのか、今回はスカートの裾も巻き込んでいた。

 下手すればシワになってしまいかねないので、彼女の服を洗ったりアイロンがけしているオレの身からすれば一刻も早くやめて頂きたい行動である。



「まぁしょーもない話でねぇ、今度買うエロゲーは幼馴染から攻略しょうか妹的存在から攻略しようか迷ってるから相談に乗ってくれ、ですって!」



 ヒロ…… 流石である。



「どっちでもいいわよそんなもんっ! 幼馴染にしときなさいよって言ってやったら、『でも、妹も捨てがたいんだよぉ』って! それで色々話し込んでて遅れたのよっ!」



 怒りは手から足にまで及び、ダンダンと廊下を踏みつけている。

 およそ女の子がする行動とは思えない。

 が、今突っ込んでしまうと身の安全が危ぶまれるので見なかったことにする。



「…… ってことで、私はシャーロットの様子を見てくるわ。アンタ達はその人間射的とやらで精々はしゃいできなさい」



 言い終わると、こちらの返事も待たずに来た道を引き返して行く。



「なっ、ナギ姉っ! 明日はみんなであそぼーねー!?」



 途中まで呆然と話を聞いていた遊七は、凪咲の背中に声をかける。

 凪咲は立ち止まらずに、軽く手を上げて角を曲がって行った。




「アタシ、ナギ姉を怒らせる様なことしたかなぁ?」


「いや、どちらかと言えばヒロだろうな、原因は」


「そっか…… それじゃ、アタシ達も早くメグ先輩んとこで人間射的やろー!」


「あぁ。このままじゃマジで時間がなくなるからな。急ぐぞ、ユウ!」




 既にほんのりと赤みがかった空と、祭りの終わりを感じさせまいとしている生徒の声。

 差し込む日差しにより温められた教室を後にする。


 オレ達は、もう誰もいない旧校舎の廊下を全力疾走したのだった。





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