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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
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45話 ー 忘れ物 ー

 




 家に帰ると、丁度凪咲とシャーロットがリビングで静かにお茶を飲んでいた。

 隠していても仕方がないので、オレは今や見る影も形もなくなったリボンを差し出して謝る。





 …… 結果から言えば、凪咲は "ありがとう" と一言お礼を言った後、残骸とも呼べるリボンを持って部屋に閉じこもってしまったのだ。



「また新しいのを買ってやるよ」



 リビングを出て行く凪咲の背中にそう声を掛けたかったが、グッと堪える。

 そうじゃないだろ。

 彼女にとっては、()()リボンでなければ話にならない。

 例え同じものをプレゼントしたとしても、凪咲は喜ぶどころか怒るかも知れない。





 シャーロットと二人きりになってしまったリビング。


 このままでは、あの予知夢のような展開が待っているのは明らかだ。

 今はまだ、凪咲もたどたどしいながらも笑うことが出来ている。

 しかし、予知夢通りに進む道を少しずつ歩いてしまっているのが現状。

 どこかで道を捻じ曲げなければ。




「ナギさん、雰囲気は落ち着きましたが、逆にボーッとする機会が増えてしまいました」




 ボソリと報告するシャーロットの声がリビングに響く。



「…… シャーロット、コレを見てくれ」



 オレはポケットを弄って小さな布切れを取り出し、テーブルに置いた。

 体育倉庫で見つけたリボンのカケラの中でも一番小さなモノだ。




「アイツのリボンだ。コレを復元する事はできないか?」


「…… できます。形だけなら、ですが」




 やっぱりか。

 シャーロットの魔法をもってすれば、この程度の復元など朝飯前だろうとは思っていた。

 問題はリボンの中身である。

 このリボンを贈る時、オレは二つの魔法をかけたのだが、どうやらそれまでは復元出来ないようだ。


 そういえば、このリボンの話をシャーロットにしたことがなかったな。

 オレは冷め切ったお茶をちびちびと飲むシャーロットに、このリボンの事を大まかに話した。





「で、では、私が復元させるので、遥希さんがもう一度同じ魔法を掛ければ!」





 コイツは名案と言わんばかりに顔を綻ばせるシャーロット。

 だが、残念なことにそれは叶わぬ願いだ。




「…… すまん。オレはナギに嘘をついているんだ」




 このリボンに魔法をかけたのはもちろんオレ自身だが、それは朱里亜婆さんの手助けがあったからこそのものであり、その事実を凪咲に話した事はない。


 本来、オレの魔法は気休め程度の微弱なもので、()()()()()()()()()()()()などあるわけなかった。

 引っ込み思案な凪咲の事を思ってリボンを贈ろうとした際に、婆さんに協力してもらって、より強固な魔法としてリボンに付与した、と言うのが真実。


 その旨をシャーロットに伝えると、また表情を曇らせてしまった。





 ……………… 待てよ?





 オレは今、何と考えた?

 人の性格を変えるまでの力?

 確かに、凪咲の弱気が少しでも良くなるように『願いを叶える魔法』をかけた。

 もし、それが原因で今の凪咲があるとすれば?


 思い返してみる。

 あれだけ物陰に隠れながら生活していた凪咲は、いつからあんな風に笑い、行動し、生活するようになった?


 一気に変わったわけではない。

 ただ一つ言えるのは、あのリボンを付け始めた頃から徐々に前向きな姿勢になった事は確かだ。


 次第に発言する回数が増し、クラスの中で喋るようになり、友達と遊ぶようになって行く過程で、オレの記憶上、凪咲はいつもリボンを付けていたではないか。


 今まで自然に克服したのだと思っていた。

 リボンを毎日していたのも、ただ大切にしてくれているからなのだと感じていた。





 もし。

 それらが全て、あのリボンに掛けられた魔法の影響だとしたら?

 今も尚、魔法の影響のおかげで前向きな性格を保っていたのだとしたら?


 リボンが無くなった途端に性格が急激に昔のモノへと戻っていってしまっている事に説明が付くのではないか?




「遥希さん?」




 考え込んでしまっているオレを気遣う声が聞こえるが、返事ができない。

 思考回路の殆どがリボンと凪咲の事に向かって信号を発信している。


 魔法の影響であるならば、代わりの物に同じ魔法をかけて身に付けさせれば解決できる。

 いや、朱里亜がいない以上、同じ魔法は無理だ。

 しかし、今はシャーロットと言う天才を超えた魔法使いがいるし、できない事はないだろう。

 だが、仮に同じ魔法を使えたとして、果たしてそれが本当に凪咲の為になるのか?


 脳内をグルグルと巡る自問自答の数々が、まるでカーレースの様に頭の中を駆け抜ける。





 どうすればいい?

 どんな行動をすれば道を変えられる?

 いくら考えても答えは出ない。


 そして悩み悩んだ挙句、一つの結論が出る。




 やはり、凪咲には自身の力で前向きになって貰いたかった。

 魔法も何もない、そのままの凪咲。

 でもそれを言ってしまうと、今の状態も彼女自身ではないか?

 いや、少なくとも今の彼女は違うはずだ。





 現状維持。





 結局、今すぐどうにかなる問題ではない。

 ならば、これ以上悪化しない様に気をつけつつ、時間をかけて解決策を練るのが最善だろう。





「今のところ解決案はない。時間は掛かるかもしれないが、これからゆっくり解決策を探して…… 」


「イヤです!」





 オレの言葉を遮ったのは、紛れもないシャーロットの拒否。

 これまでの彼女はどんな提案でも一考してから答えを出して、拒否する時もやんわりと別の考えを提示していた。


 そんなシャーロットが、オレが言い終わる前に、ハッキリと『NO』を突き付けた。




「イヤですっ! あんなナギさん、見ていられません!」


「だったらどうするんだよ? 今のオレ達があれこれ考えたところでどうにもならんだろ? オレはただ、解決するには時間が掛かるって言ってるだけで…… 」


「私はっ! 魔法はみんなを笑顔にするものだと教わりました」




 シャーロットは時たま言っていた。

「誰かの役に立てる魔法使いになりたい」と。

 多分それは、その誰かに笑顔になって欲しいからと言う心情から来ていた目標なのだろう。

 優しいシャーロットらしい道だ。


 が、現実はそう上手くはいかない。

 役に立ちたくてもどうしようもない時だってある。

 地道に答えを探して行かなくてはならない期間だってある。

 今、シャーロットにはそれが見えていないのだ。


 …… そもそも、中3になったばかりの女の子がそんな考えに行き着くのもおかしな話。

 普段からしっかり者で、オレ達が知らない世界のことを見て、学んで、経験しているシャーロットを見ていると、どうしても求めるハードルが上がってしまう。




「シャーロット。オレは断じて諦めたワケじゃないんだ。オレだって一刻も早くナギの笑顔が見たいさ! でも現段階では解決策がない以上、これから見つけていかなきゃいけないんだよ」




 諭す様に彼女に語りかけるが、それでも首を振られる。




「ナギさん頑張ってました! 夜も魔法の練習をして、生徒会のお仕事も一生懸命やってました! それなのに…… こんなのって、ないですよっ」




 膝の上で拳を握る姿が痛々しかった。

 見ていられないのはオレだって同じだよ。

 だが、オレはシャーロットの様に感情が爆発することは無かった。



「物事に対して無頓着…… 友達だろうと恋人だろうと、どこか無関心に感じるの」



 中川さんに言われた言葉が、今になってリフレインする。


 あぁ、こういうところか。

 恋人が塞ぎ込んでいるのに。

 それを想い悲しむ友や家族がいるのに。


 オレはどこかで他人事のように捉えているからこそ、結局は落ち着いて、冷静になってしまうのかも知れない。


 …… ほら。

 こんな状況でも、自分の事を客観的に診断出来ている。

 ()()()から変わっていないんだ。

 オレも、凪咲も。





「…… 何度も言ったが、魔法を最初から当てにしたくはない。特に今回は、凪咲が自分自身の力で立ち上がるまで見守るべきだ」


「私はナギさんに笑って欲しいだけなんですっ! その為なら、魔法にだって頼ります!」





 シャーロットの一言で、再びリビングに静寂が生まれる。


 そうか。

 シャーロットはそこまで凪咲の事を想ってくれていたのか。





「…… 今はどうにもならないんだって、どこかでは分かっているんです。ただ、私は、居ても立っても居られないくて」





 その静寂の中で少し頭が冷えたのか、声のトーンを落としてポツリポツリと思いを零した。




「少し散歩して頭を冷やして来ます。先程はすみませんでした」


「…… オレも言い方が悪かったのかも知れないからお互い様だ。あんまり遠くへ行くなよ?」




 シャーロットはコクリと頷くと、静かに席を立った。




「シャーロット!」




 リビングを出て行こうとする背中を呼び止める。




「オレも、ナギの笑顔を見たいのは同じだ。それを忘れないでくれ」


「…… 分かってますよ。遥希さん、ナギさんといる時が一番楽しそうですから」




 そ、そうか、表に出ちゃってたか……




「すぐに戻りますね?」

 



 シャーロットはそう言って、リビングの扉を閉めた。

 その後、玄関の開閉の音が聞こえてくる。


 それを合図に今まで溜め込んでいた肺の中の空気を一気に吐き出した。




「オレも、やれる事をやろう」




 勢い良く立ち上がり、リビングを出る。



 行く先は……… 朱里亜の部屋だ。


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