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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
49/55

43話 ー 過去の代償 ー

 



 一時的だろうと思われていた凪咲の一連の行動は、昼になっても続き、今尚オレかシャーロットが側にいないと不安で仕方がない様子だった。


 普段ならは微笑ましく映るであろう光景も、昨日からの様子だと、真剣に考えざるを得ない。





 そもそも、凪咲は何故急に態度が変わってしまったのか。

 いや、態度と言うよりは性格と言うべきか。

 得意の魔法を使った結果がコレなので、落ち込むのは仕方がない。

 しかし、それで性格まで変わってしまう事があるのだろうか?





 仮に失敗したショックから来る精神的なダメージがそうさせるとしても、それならもう少し違う態度として現れるはずではないのか?


 疑問が疑問を呼ぶ。

 ただ、医者どころか本人すらも自覚していないっぽいので、今は彼女の回復を待つ他なかった。





「ハルっ、凪咲っ、シャーロットちゃん、大丈夫か!?」





 味もラインナップも素っ気ない、ちょっと早めの昼食を食べ終わった頃。

 ノックもなしに、いきなり病室の扉を開けて飛び込んで来る。

 オレはそんな礼儀知らずの頭を叩いて冷たく言ってやった。





「病院では静かにしろって、お母さんから習わなかったのか? なぁヒロ」


「す、すまん…… だけどよぉ!」





 礼儀知らず…… 弘信は居ても立っても居られない様子であわあわしていた。

 幸いなことに、凪咲とシャーロットは席を外していた (多分トイレだろう) ので、この病室にはオレ一人だったので被害は0に等しい。


 が、ご婦人方が着替えていたとしたらどうするんだ。

 嫁入り前の乙女の裸を見るなんて、お父さん許しません!





「いや待て、お前学園はどうした?」


「お前らの事が気がかり過ぎて勉強どころじゃねぇよ! 自主休講だ」


「後でドヤされても知らねェぞ?」


「そのくらいでお前らの無事が確認できるんなら安いもんさ」




 全く、言ってくれるじゃん。

 不覚にも、少し感動してしまった。




「その様子だと、凪咲もシャーロットちゃんも大事には至ってないみたいだな」




 一安心したのか、弘信はオレが使っているベッドの横にある椅子にドカッと座り、看護師さんが持ってきてくれた菓子を許可なく食べ始める。

 一瞬前までは友の事をこれ以上ないくらいに心配してくれていた男の行動とは思えない。





「んふぇ、ふぁんぃんはいふに…… 」


「食いながら喋るなよ」


「ひふへい…… んっ、退院はいつになるんだ?」


「明日」


「はやっ!? いいのかよそんなんで? 結構出血してたんだろ?」


「思ったよりも傷が浅くてな。検査した上での判断だから、まぁ大丈夫だろう」





 オレは喋りながらも、病室内にあるポットから茶を淹れて弘信に出した。




「お前、こんな時にまで世話焼かなくても…… 」


「いや、気がついたらもう淹れてたんだ。飲んでくれ」


「ある意味病気だな」




 軽口を叩きながら、二人で茶を啜る。

 病院は静かで、窓から聞こえる鳥の囀りとズズッと茶を飲む音がやけにハッキリと耳に届く。




「しかし、カップルに成り立てだってのに大変な事になっちまったなぁ」




 まだ熱かったのか、半分以上残っている湯呑みを机に置いた弘信が、話題を絞り出すかのように言った。




「別に大したことないって。結局恋人らしい事なんかしてないんだからな」


「何も、なんてことはないだろ? ここだけの話、付き合い始めて何したん?」




 せっかくの二枚目顔を台無しにするゲス顔で擦り寄って来る弘信を押し返す。

 黙られるのも気不味いので、生徒会の手伝いや、一緒に買い物に行った時の話などを話してやった。




「惚気かっ!」




 語り終えた後の第一声は、弘信渾身のツッコミ。

 いやいや、フツーに過ごしてただけだから。




「流石だぜハル…… 生きるエロゲー主人公の二つ名は伊達じゃないな」


「不名誉すぎるわ! 大体、オレのどこが恋愛シミュレーションゲームの主人公だってんだよ?」


「お前っ…… なら教えてやるよ、いいか目ぇかっぽじって良く聞いとけ!」




 耳だろ。




「お前は如何に自分が恵まれた環境にいるかを理解してないっ!」




 エロゲ脳の主張は熱を上げる。




「幼い頃から一緒に住んでいる家族同然の学園一人気の女の子がいて! 頑張り屋でちょっとおバカな姉と、料理上手でおっとり系の妹の双子と仲良しで! 頭脳、運動、スタイル、全てにおいて完璧だけど我儘な先輩から可愛がられている挙句! 今度は金髪ロリに慕われて一つ屋根の下で暮らすだと!?」




 胸倉を掴まれてガクガクとシェイクされる。

 こうなってしまったヒロを止める術は暴力しかないので、病院内で手を出すわけにはいかず、されるがままを貫く。

 後で覚えてろよ……




「なんだお前は、恋愛企業の社長様か!? ラブ株主の優待者か!? この世界のロマンス王か!? 何にせよお前は贅沢な環境に置かれているのは間違いないんだよ!」


「お、おいっ、いい加減に……」




 更にヒートアップした弘信は、オレをベッドに押し倒して馬乗りになる。




「俺達モテないヲタク系男子の希望であり、憎っくき敵でもあるんだよ! なぁ、お前のそのパワーを少しでいいから分けてくれよぉ!」


「どうしようもないだろ!? つかどうやったら分けられるんだよ!」




 顔だけで言えばオレよりもコイツの方がカッコいいのに、なんて勿体ない。




「ちょっとだけだから!」


「ちょっとも何もあるか!」


「そんな立派なモンがあるんだから、少しくらいいじゃん!」


「前から思ってたけど、なんでお前はそこまで恋愛に執着するんだ!?」




「ツベコベ言うな! 俺は、お前の『愛の力』が欲しいんだよ!」




 ガタリっ





 病室の入り口付近で何かが落ちる音が聞こえる。

 ゆっくりそちらを見ると、今朝ナースコールを押した時に来てくれた、あの新人看護師さんが、えらいこっちゃと両手で顔を隠している。





「「いや、違うんです」」


「あっ大丈夫です、私こう見えてBLには明るくて…… これは冬コミの同人誌のネタとして使わせて頂きますね!」




 早口でそう言い残すと、タッタカターっと部屋を出て行ってしまった。




「……… すまん」


「お前も入院していけ」




 一先ず、馬乗りになっている弘信の顔面に、鉄拳わめり込ませてやった。

 その勢いで、弘信は病室の窓側の方へと転がり落ちる。

 天誅だ。




「遥希さん、どなたかいらっしゃるんですか?」




 その時、タイミングが良いのか悪いのか、シャーロット達が帰って来た。




「あぁ、衆道家が…… 」


「やめろぉ!」




 ガバリとベッドの下から顔を出す弘信。

 最早妖怪の類である。




「シュードー…… 柔道とは違うスポーツですか?」


「シャーロットちゃんには縁のない道だよー? 君は綺麗なままでいてね? 凪咲もなんか言ってやっ…… て…… 」




 真っ先に凪咲の罵声が飛んでくるかと思っていた弘信が見た光景。

 それは、まるで弘信から隠れるように、シャーロットの背中にしがみついている凪咲の姿だった。




「な、凪咲? まさか本気で俺のことをBLだと思っているんじゃ…… 」




 おいおい冗談キツイぜ、といつもの調子で凪咲の方に近づいていく。




「こっ、こないでっ!」




 悲痛とも取れる叫びが、病室にこだます。

 冗談ではない、本気の拒否。




「あっ……… す、すまん」




 弘信もそれを察したのか、いつものヘラヘラした顔の広角が下がっていく。

 もう夏だと言うのに、部屋の気温は冬の到来を感じるくらい下がった気がした。





「すまん、うるさくし過ぎたよな…… ただまぁ、凪咲もシャーロットちゃんも、何事もなさそうでよかっ」


「…… いって」


「えっ?」


「出て行って! 私は()()()()()()()()()()()!!」




「…… っ」




 弘信の表情が歪む。

 怒りではない。

 後悔がにじみ出るような顔だ。




「…… ヒロ。ナギは昨日の件以来、少し精神的に不安定なんだ。場所を変えて話す」


「…… わかった。ごめんな、シャーロットちゃん……… 凪咲」




 オレ達は、二人と目を合わせないようにして退出した。

 すれ違いざま、シャーロットに凪咲の事を託した。









「…… ってことだ」



 場所を屋上庭園に移した後、弘信に凪咲の様子がおかしい事を話した。




「そっか…… そこまでショックだったんだな。昨日の事も、昔の事も」




 自販機で買った缶コーヒーを開けもせずに空を仰ぐ弘信。




「今はちょっと混乱しているだけさ。もう気にするなよ」


「でも、少なからず気にしているってのは確かだろ?」




 何も言えなかった。

 どんなフォローも、今は虚空に響くだけ。




「昔の悪事が、今になってツケを払いに来たのさ。言われてもしょうがないって思ってたけどさ、結構ダメージ受けるわコレ! こりゃ俺も入院かなぁ?」




 無理矢理笑う弘信の姿は痛々しく、見ていられなかった。




「そんな俺が言うのもなんだけどさ」




 目を逸らしたオレに、警告する口調で。




「今のままじゃ、()()()()()()突入だぜ?」




 そう言ってきた。




「…… わかってるよ」




 あの予知夢を思い出す。

 まるで誰も生きていない家の中。

 シャーロットの表情。

 凪咲の状態。


 何としてでも回避しなければならなかった。




「焦りは禁物だぜ? ()()()()()()()んだからさ、俺も出来る限り協力するからよ!」


「頼りにしてるよ。マジでな」




 オレの言葉を聞いて、ようやく弘信は缶コーヒーのタブを開けて一気に煽った。




「…… っはぁっ! んじゃ取り敢えず、見舞いは大人数じゃ無い方がいいだろ? 学園に帰ったら、ステラのヤツらやいんちょとか見舞いに来そうな連中に、それとなく伝えとくよー」




 空になった缶をゴミ箱に投げ入れた弘信は、屋上から出て行こうとした。




「……… ()()()、また来てくれよ? 今度は病室じゃなくて、オレんちだけどな」


「あぁ、今やってるエロゲーのロリキャラを堕としたら様子を見にいくよ」





 そう言って、オレに背を向けながらフラフラと手を振る弘信。



 その背中は、どこか遠くに行ってしまうように感じたのだった………



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