35話 ー 戸惑い ー
凪咲と恋仲になって1日目、兼休日。
オレは、自室で黙々と紙芝居の製作に励んでいた。
結局、ベジタブルフェスティバルの開催は見送られ、朝食もいつも通りの献立に変更。
三人で食事を取った後は、これまた其々いつも通りの休日に戻っていく。
凪咲は魔法の練習。
シャーロットは婆さんの部屋で資料漁り。
オレは家事。
みんな極々自然に、当たり前のように解散したので、家事を始めて小一時間経ってから気がついた。
あれっ? 付き合って初めての日曜日がこれでいいの?
凪咲も何も言ってこなかったし……… まぁいっか。
今更二人でデートって間柄でもないだろう。
それから家事を済ませたオレは、こうして紙芝居製作に没頭していると言うワケだ。
シャーロットと出会ってから、余りにも早足で時が過ぎていってしまっていたので、最近は中々部室に行く事が出来なかったのだ。
今日は特にこれと言った用事はなかったので、それならばと思い画用紙と向き合って早数十分。
画用紙の中には、白、白、白。
色どころか線一本入っていない、真っ白な作品がそこにあった。
題名は『無限の可能性』。
はい、嘘です、描いてないだけです。
どうにも集中出来ない。
ペンを持ったり、置いたり、転がしたり、飛ばしたり。
そんな行動をしている時、頭の中ではずっと凪咲の事を考えていた。
今、アイツは何をしているんだろう。
魔法の練習を頑張っているだろうか?
宿題をしているのだろうか?
どんな下着を着けているのだろうか?
紙芝居の絵のビジョンは既に考えてあるのだが、いざ描こうとすると、どうしても彼女の顔が割り込んできて画用紙にペン先を立てる事が出来ない。
なんて厄介な………
傍に置いていたコーラを一気に呷る。
シュワシュワとした心地いい炭酸が口の中で弾け、喉を通っていく。
炭酸飲料大好き人間の凪咲は、そんな爽快感溢れる点を気に入っているのだろう。
…… ほら、こんな感じで何気なく思った感想からでさえ凪咲の事に繋げてしまうのだ。
彼氏と少しでも長く一緒に過ごしたい思うのって、ふ、不自然かしらっ?
今朝の会話を思い出す。
否定できない。
今まで散々一緒にいたにも関わらず、彼女と同じ時間を過ごしたいと思ってしまう。
恋の病とよく言われるが、その意味を身を以て思い知らされたような気がした。
初めて感じた自分の心情に、不安からかイライラしてくる。
握っていたペンがミシミシと音を立て始めた。
「ダメだ、一旦切り替えていこう」
ペンを握りつぶしてしまう前に、オレは作業を放り投げて部屋から出る。
昼飯を作って気分を紛らわそうと思い台所へ向かうと、テーブルの上に一枚の紙が置いてあった。
" 友だちとあそびに生きます。夕がたは帰えってるので、お昼ご飯はたべてきます。
小学生が書いたような字で記されたメモ。
日本語として若干違和感を感じる文章と、漢字の使い方、まだ慣れていないヨレヨレの字。
シャーロットが残したメッセージで間違い無いだろう。
…… どうでもいいが、" 遊びに生きる " ってなんかカッコいいな。
ケータイは既に買い与えてあるので、何かあればすぐに連絡できるだろう。
それにしても、随分とこの島に慣れてきたようだな。
安心しながら冷蔵庫を開くと、朝食に食材を多く使ってしまっていたのか、思いの外入っていたなかった。
晩飯のこともあるし、買いに行くか。
気分転換には丁度いい。
オレは部屋に財布を取りに戻り、再び部屋を出る。
「…… あっ」
そこでバッタリと凪咲と出会ってしまう。
部屋着から着替えたのか、見た感じ外行きの格好をしていた。
「は、ハルも外出?」
「あぁ、食料の買い出しに。ナギは?」
「私は…………… はっ、ハルとお出かけしたかったからっ、誘いに…… 行こうとして… 」
もじもじしながら答える凪咲の姿を直視出来ず、慌てて目を逸らす。
やばい、やばいやばいっ。
普段動かない顔の筋肉がピクピクしているのを感じる。
「なら、一緒に行くか!」
「…… っ! う、うん!」
アァァァァッ!?
まさか、まさかまさかまさか。
凪咲の笑顔に萌える日が来ようとはっ!
不安そうな顔から一気に花を咲かせたその笑顔は、破壊力抜群だった。
「…… ハル、その顔はどんな表情なの…… ?」
「えっ、どんな顔してる?」
「とても人間とは思えない顔」
彼氏に向かって人外発言とは。
辛口が心に染みる。
「ほっとけ! さっさと行きますよ」
「…… ほら、また敬語っ」
「るっせーなはよ靴履けや!」
今までよりもかなりマイルドになったどつき合いをしながら、オレ達は家を出た。
結局、外に出てもオレ達はオレ達だった。
いつもの様に目的もなくブラブラしたり、コンビニに出ている新商品のパックジュースに一喜一憂したり、話題になっている漫画を買うかどうかで揉めたり、たい焼きを二人で半分こしたり。
まるで恋人らしいことはしていない…… と思う。
ってか、恋人らしいことって何だ?
どれだけ考えても、如何わしい事しか思いつかない。
男の子だもん。
考えすぎて思考回路がイカれてしまう。
挙句の果てには何を血迷ったのか、凪咲がトイレに行ったタイミングで、今まで数多くの女の子を堕としてきた実績を持つ大親友に電話してしまった。
『…… ようハル! お前から電話してくるなんて珍しいじゃん? 』
「恋愛マスターであるお前を見込んで頼みたい。ヒロインが主人公に告白して晴れて恋仲になったとしよう。二人は次に何をする?」
『そりゃもちろん、エッチシーンに突入よ!』
ノータイムで答えが返ってくる。
流石弘信だ、実に参考にならない。
『告白した勢いでヤッちゃうか、初デートの時にヤッちゃうかでしょ! 』
尚も弘信の解説は続く。
『いや待て、条件…… 条件は何だ? ルートに入ってから自然と告白まで至ったのか? その直前の選択肢によって告白するかしないかが分かれるのか!?』
「あっ、いや…… 」
『もし後者なら差分CGとかあるから気を付けろ? セーブはこまめに、選択肢が出たら必ずしろ! あと、全員攻略した後じゃないと選択肢が出ない作品もあ』
堪らず電話を切る。
オレもそこそこゲームをやる方だが、今の話には殆どついていけなかった。
RRR……、 RRR…… 、
電話が掛かってきたので出る。
『なんで途中で切るんだよ!?」』
「すまん、話しの途中から日本語として処理できなくなった。もしかしてヒロのケータイって今、通訳機能壊れてる状態?」
『さっきから日本語しか喋ってねぇよ! ってか "今 " ってそれ、普段の通話でも通訳機能を使わないと理解して貰えない状態だったってことだよなぁっ!?』
うるさい。
『…… まぁいいや。で、わざわざオレに電話してきたのには理由があるんだろ? 』
「わかるか?」
『何年友達やってると思ってるんだよ。お前は用事がない限り、電話やメールどころかケータイそのものすら触らないヤツだって事は知ってるさ』
失敬な。
時刻は基本的にケータイで確認しているので、頻繁に画面を見てるぞ!?
…… ロックは外さないが。
しかしそこにツッコミを入れてしまうと長くなりそうだったので、さっさと本題に入る。
「昨日、凪咲に告白された」
『マジかぁ、おめでとよ! よかったじゃねぇか!!』
まるで我が事のように喜んでくれる。
早く、誰でもいいからコイツの良さに気がついてくれる可愛い女の子が現れる事を、そっと祈った。
「今一緒に出かけているんだ、ナギはちょっと席を外しているけど。オレはどんな行動をとれば良い?」
『スムーズにエッチルートに入る手段を模索してるのか?』
「あぁ」
『…… マジかよ冗談のつもりだったんだが。参考までに最近お前が取ってきた行動を教えてくれ!』
ちょっと恥ずかしかったが、洗いざらい話した。
『ん〜…… 、これは通常ルートだな』
「なんでそう思う?」
『だって大した問題があったワケじゃないじゃん? ゲームではヒロインが障害を乗り越えて、初めてハッピーエンドになるワケよ。今の状態だとただイチャイチャしてエンディングに入るね』
現実じゃどうかはまだ知らないけどな、とヒロは付け加えた。
『何にせよ、よかったよ。俺、凪咲には…… 』
「それはいい、ナギももう気にしてないんだ。じゃないと、一緒に遊んだりしない筈だろ?」
『…… そうだな。兎に角おめでとう! 精々付き合い始めの初々しいバカップル体験を楽しんでろ、このリア充野郎! 』
「明日、逆に見せつけてやるぜ。じゃあな」
今度こそ通話を切った。
通常ルート…… か。
普通が一番じゃないか。
何事もなく一緒にいられるのであれば、それに越したことはない。
どうやら、少し焦っていたようだ。
恋人だから何かをしなくちゃいけない、なんてモノはない…… はず。
自然に、ゆっくり、凪咲と少しずつ変わっていけばいい。
ケータイをポケットに入れて前を見ると、丁度凪咲の姿を遠目に確認できた。
オレは軽く手を振り、自分がここにいることをアピールしたのだった………




