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夜空を映したユメsteXllar -ステラ-  作者: 渚桜
ゲームスタート
39/55

33話 ー いつものオレ達 ー

 




「……私は、あなたの事が……好きです」




 静寂。


 波の音が、風の音が、心音が。

 普段よりも良く聴こえる。



 既に夕焼けは藍色に支配されつつあるのにも関わらず。


 目の前にいる少女の顔は、今まで見たどんな夕焼けよりも赤く染まっていた。




「…… あっ、なっ」




 上手く言葉が出ない。

 何を言えば良いのかすら分からない。




「家族としてじゃない。一人の女の子として、ハルが好き…… ずっと好きだった」




 凪咲との距離は数歩ほど離れているのに、まるで耳元で囁かれたような感覚に陥る。


 あぁ、オレは今、凪咲から想いを打ち明けられたんだ。



「……… っ!!」



 理解した瞬間、体全体が熱くなる。

 心拍数が跳ね上がり、脈打つ鼓動が鼓膜を叩く。

 全力疾走した後ですら感じたことのない、胸の高鳴りは、尚もペースを早めている。



「…… ハル?」



 凪咲がこちらに寄ってきて、心配そうにオレの顔を覗いてくる。

 咄嗟に腕で隠した。



「なっ、なんで隠すの!? まさか…… 冗談だと思って笑ってるんじゃないでしょうね!?」


「お、おいやめっ、今はやめろっ!」



 無理やりオレの顔を見ようとしてくるので、激しく抵抗する。

 今どんな顔をしているか分からないが、決して人に見せてはいけない顔であることを、本能的に悟ったからだ。



「見せなさいっ! 見せなさいよぉ…… 」


「いやだぁっ、見せるもんかぁっ!」



 取っ組み合いになってしまう。

 その結果……



「ひゃっ!?」

「うわっ!?」



 いつかと同じように、二人して躓いて転んでしまう。

 旧校舎と全く同じ体勢。

 シチュエーション的に男女逆だろ!


 馬乗りになった凪咲の両手は、オレの両手を大地に抑え込んでしまっていた。

 …… これでは顔が丸見えだ。



「……………」


「…… な、なんか言えよ……」



 一体、どんな顔をしているのだろうか、オレは…… 。




「ハル、すごく嬉しそうな顔……してるよ?」



 悪戯っ子な顔をして、オレの顔を指摘してきた。

 は、恥ずかしすぎるっ!



「ダメっ!」



 目を逸らそうとしたら、顔を両手で固定される。

 逃げ場がない。



「きょ、今日は…… 逃がさないんだからっ」



 手から伝わる震えは、恥ずかしさからか、緊張からか。

 少なくとも、真剣さはこれ以上ないくらい伝わってくる。



「いつも、いつも、はぐらかしてばっかり。これでも私、最近勇気を出してたんだよ?」



 …… 知ってるよ。

 本当は、ずっと知っていた。

 いや、()()()()()



「ハルはさ、そんな私を見ても…… 手を繋いでも…… ち、ちゅーしそうになっても、ドキドキしなかった?」



 ずっと、そうだったらいいなと、心の何処かで思っていた。

 いつからだろう。

 婆さんに言われたからではなく。

 ただ、目の前にいる女の子と一緒にいたいと思い始めたのは。



「私、今まで甘えていたの。家族っていう関係に、ハルの妹って言うポジションに」


 ポツリ、ポツリと独り言の様な告白。



 甘えていたのは…… オレの方だ。

 兄妹という関係が心地よかった。

 少しでも亀裂を入れたくなかった。



「冗談だと思っているんなら、力づくでも教えてあげるわ。私の本気を…… 」


「ナギ…… オレは…… 」



 甘い吐息を纏った柔らかそうな唇が近づいてくる。

 このままではダメだ!



 触れ合うその前に伝えたい。


 オレも、ずっと前から……… 好…………





「…… ドキドキドキドキっ」




 凪咲が動きを止めた。

 さっきまで熱い眼差しでオレを見ていた視線は、いつのまにか右を向いている。

 オレもゆっくりとその視線を辿ると……





「……あわっ、あわわっ」





 目を両手で隠した我が家の姫君が、至近距離で見ていた。

 指の間からその綺麗な碧眼を覗かせて。




 舞台は夕暮れ時の水平線が見えるステキスポット。

 倒れている高校男児。

 その上に抱きつくように乗っかるポニテ女子。

 それを傍でガン見する金髪幼女。




 …………… なんだこの状況は。


 ふと冷静になる。

 すると、今まで凪咲と二人きりの空間に沢山の情報が頭の中に入ってくる。



 道行く人々。

 ヒソヒソ話。

 こちらを指差して『お母さん、あの人達はどーしてだきあっているの?』と無邪気に親御さんに訊ねるお子さん。



 注目の的と言うのは、まさにこの状況の事を差すのだろう。



「「ゴッ、ゴメンっ!?」」



 凪咲も同時に理解したようで、同じタイミングで謝り、身体を離した。



「わっ、私、なんて事を…… っ!?」



 慌てて顔を手で覆う凪咲。



「すす、すみませんっ! 絶好のタイミングでお邪魔してしまい…… で、でも気になって見ていたら、いつの間にかお二人の側に…… っ!?」



 慌てて顔を手で覆うシャーロット。



「…… 何してんだ、オレ」



 慌てて顔を手で覆うオレ。



 三人とも同じ行動をしているのに、その行動原理や心情はまるで違う感じがするのはなんでだろう。





 やがて。


 誰かが堪えきれなかくなったように笑い出す。

 オレも笑った。

 そして、三人一緒に大笑いした。



 ホント、何をやっているのだろうか。

 やはり、オレ達がシリアスシーンを保てるのは精々5分が限界なのだろう。


 何がおかしいと言うワケでもない。

 でも、何故か笑いが止まらなかったんだ。





「…… 疲れた」



 一頻り笑った後、一番最初に立ち上がった凪咲がそう漏らした。



「全く、最後の最後でどっと疲れたわ」



 そんな事を言う割に、彼女の顔は晴れ晴れとしたものだった。



「ハル……… 私、本気なんだよ?」



 さっきに比べると穏やかな表情になっていたが、その目はかつてないほど澄んでいて、しっかりとオレの目を見つめている。

 …… なら、オレも答えてやらないとな。


 兄として……… いや、男として。


 ゆっくりと立ち上がって、深呼吸をする。



「…… あぁ、いいぜ」



 すんなりと、言葉が出た。

 …… なんだ、認めてしまえば簡単な事じゃないか。



 婆さんに言われたから凪咲を守っているんじゃない。

 守ってやらないといけないから、凪咲と一緒にいるんじゃない。


 好きだから、一緒にいたいんだ。



 オレも真剣に向き合った。


 これでオレ達は晴れて恋人同士……





「…… わかった。返事はいつでもいいから、待ってるわよ?」





 ズコーッ!



 歓喜のあまり飛び込んでくるかと思いきや、凪咲の口から出た言葉はあまりにも予想外な一言だった。



「いやいやいや! なんでそうなるんだよっ!」


「えっ? だっていいぜって…… 考えてくれるって事じゃないの?」


「ちげーよアンポンタン! さっきのいいぜってのはなぁ………… 」


「…… ってのは?」


「……… いっちょ、清い交際を始めてみようぜって言う、いいぜだ!」


「あー、なるほどねぇ……… ってえぇぇっ!?」



 ビックリ仰天と言う単語がここまでピッタリ当てはまる人間も少ないだろうってくらいビックリしていた。



「えっ、でも…… 私、そんな意味で言ったワケじゃ…… ただ、ハルの事が好きって気持ちを伝えたくなっただ…… っぷ!?」



 言い終わる前に、凪咲を抱きしめた。



「オレも好きなの! 家族じゃなくて、女の子として! だから…… オレと付き合ってきゅだしゃいっ!」



 めっちゃ噛んだ。

 慣れないことはするもんじゃないな……。



「…… 何よ、私達って、ホント、こう言うのばっかり…… ッグズッ…… なんだからぁ… っ!」



 笑っていた凪咲の声が、次第に涙声になる。



「不安だった…… ハルに嫌われたらどうしようって、今までみたいに過ごせなくなったらどうしようって…… っ! 怖かった、怖かったんだよぉ〜っ!」


「えぇぇっ、ちょっ、ここで泣くのは、オレはたから見ると女を泣かした酷いやつみたいじゃん!」



 予想以上にわんわん泣いてしまった凪咲を見て焦る。

 かなり焦る。



「シャーロットもなんかフォローしてくれぇっ!」




「よ゛か゛っ゛た゛て゛す゛ね゛ぇ…… ナ゛キ゛さ゛ぁん!」




 ってシャーロットの方が大号泣してるぅっ!?


 まて、こんな現場を見られたんじゃあ、二人の女の子を泣かした男として明日の新聞の一面を飾ってしまいかねない!




 オレは泣きじゃくる二人の女の子の手を引いて、何とか家まで帰った。

 途中で、何事かと島民の皆様の視線を独り占めしてしまった事を、オレは忘れないだろう。






 何がともあれ。



 こうしてオレと凪咲は、恋人同士になったのだった。




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