24話 ー テンション爆上げ大暴走 ー
「うわぁ…… っ! 人がたくさんですっ!」
水無星学園の星見祭が終わった翌日。
オレ達ステラは、本当の星見祭を堪能するために、ここ星見エリアに来ていた。
「ここが満零湖ですね? お日様の光がキラキラ反射しててとても綺麗…… あっ遥希さん遥希さん、アレはなんでしょうか? なんでしょうかっ!?」
基本的に静かな星見エリアだが、今日だけは普段と雰囲気がガラリと変わっていた。
星見祭。
昨日学園で行われていた星見祭は、あくまで学園が便乗して開催した行事に過ぎない。
本来の星見祭は、この星見エリア内で行われていて、毎年決まって5月の最終土曜日に開催されている。
この時期が、満零湖に映る星空が一番綺麗に見えるからだと朱里亜の婆さんから聞いたのはもう何年も前になる。
屋台やお土産やさんを初めとした出店が連なり、中には星見祭限定品の即売店や、普通のお祭りでは見られないユニークな出店まで様々だ。
「たこ焼き美味しそうです…… あっ、これはスペインのサンドイッチ "ボカディージョ" ですよ!?」
学園の星見祭とは比較にならない程の出店数とクオリティの高さに、シャーロットは我を忘れたようにはしゃぎまくる。
右に左に金糸の髪を激しく揺らしながらトテトテと店を除く様は、彼女の楽しさや嬉しさを最大限に物語っていた。
元気に動き回る美少女に振り返るのは、男性に限らず女性までもが魅了されるのか、道行く誰もがオレ達の方を振り返る。
自慢したい。
「あっ、この子ウチの子なんですよ」って自慢したいっ!
「ちょっとシャルっ、あんまり動き回ると逸れちゃうって!」
「おいおいナギ姉、あっちに的当てがあるぞ! アタシやって来ていい?」
「姉さんっ、逸れちゃうって言ったばかりでしょ!? 後で一緒に行ってあげるから、今は離れないで!」
ステラの先陣を切るのは、我らが天使シャーロットとじゃじゃ馬娘の遊七。
二人を抑えるように凪咲と智世があたふたと追いかけている。
そして最後尾には、既に両手一杯の食べ物を持った弘信と、会場入り口で購入した "満零湖の神秘が詰まったパワーリング" なる謎の指輪を満足そうに見つめているリチャード。
そして何故か般若のお面を額に付けている廻流。
と、何もしてないオレだ。
島の人口よりも観光客が多い事でも有名な慧神島だが、一年を通してこの時期が一番人が多い。
日本人だけじゃなく海外からも沢山の人が星見祭を目的として上陸しているので、聞こえてくる喧騒は最早何語を話しているのかすら判断がつかない。
現在はお昼時を少し過ぎた午後3時。
一般客なら昼前から遊んでも全てを堪能できないくらいのお祭りだが、昨日の星見祭で疲れた学園生達はこの時間帯に来ることが多い。
みんな午前中は、疲れ過ぎて寝てしまったりダラダラ過ごすのが定番なのだ。
しかし、意外とパワフルなシャーロットは、昨晩家に帰ってから今日の星見祭の事を話すと……。
「そうなんですかっ! 行きたいですっ! 明日は早起きしなくちゃ!」
と、待ちきれない様子で、今朝も早く行きましょうとオレの袖を引っ張って来たくらいだ。
危うく萌え死にそうになったね。
そしていざ星見エリアに来てみると、我が家のお姫様はご覧の通りテンション爆上げで走り回っているってワケだ。
何この可愛い生き物、一生面倒見たいんだけど。
「おいハル、シャルが可愛いのは分かるがお前、犯罪者みたいな顔してるぞ」
「般若の面被ったヤツに言われたかねェよ……」
隣で歩いていた廻流は「どう、カッコいいだろ?」と般若のお面を見せびらかしてくる。
一体どこで買ったのだろうか。
「遥希さーん!」
人混みに揉まれながらも、必死に手を振るシャーロット。
危なっかしいったらありゃしない。
最後尾組は歩く速度を上げて、仲睦まじく8人で屋台を見て回った。
「……遥希さん、あのステージはなんですか?」
屋台を一通り見て回った後、近くの広場で一息付いているとシャーロットがオレの袖を引っ張りながら尋ねてきた。
うへへぇやめろよー袖が伸びちゃうでしょ?
デレっとした顔を隠しきれずに、シャーロットが指した方に目をやる………
「……………」
顔が引きつる。
フニャフニャした顔は、まるでダイヤモンドのように硬直したのを自覚した。
「あれは……星見祭のイベント『ミスコン』のステージね」
オレの代わりに凪咲が答える。
やめろ、これ以上はいけない。
「みすこん……ですか?」
「あぁ、ミスター&ミスコンテスト。略してミスコンだ。男女混合でな、優勝者には豪華景品と『星見の魔法使い』の称号が与えられるんだ」
廻流が余計な知識を与えているっ!?
止めなければ……
「まぁ待てよブラザー、一旦落ち着け?」
「観念しなよ、ハル」
立ち上がろうとした瞬間、両脇からぐっと肩を抑えられる。
弘信とリチャードだ。
「テメェら……」
「なんだい? いいじゃないか、たかがイベントの説明じゃないか」
爽やかな笑顔を浮かべるリチャードの目は、新しいおもちゃを見つけた子供のようにキラキラしていた。
「そのコンテストでは何をするんですか?」
「参加者はお洒落なカッコーしてステージに立つんだ! 最初は人気投票で4人まで振るい落とされて、残り四人でバトルロイヤルだぞ!」
「違うでしょ姉さん…… 人気投票で勝ち残った4名は、質疑応答と特技の披露、そして最後に一言コメントを残すんだよ?」
「んで、審査員が誰が一番輝いてたかを決めるんだ。昨年の優勝者はなぁ……ヒヒヒッ」
嫌らしい顔でほくそ笑む弘信を殴り飛ばしてやりたい。
「どんな方だったんでしょう……」
「写真あるわよ? 見てみる?」
「ばっ、おまナギむぐぐっ!?」
リチャード貴様ぁぁっ!!
体格の差や力の差があり、口元を抑える手を振り解くことができない。
「……うわぁっ、可愛らしい女の人ですね!」
………… 見てしまったか。
ケータイの中に写っているのは、ステラのみんなの中心に水無星学園の制服を着た桜色の髪を靡かせる生徒。
しかしソイツは俯き加減で、どこか機嫌が悪そうだった。
当然である。
「でしょでしょ?」
「皆さんも一緒に写ってますね、お知り合いなんですか?」
「私らの大切な大切な幼馴染みさ」
「へぇ〜……、でも遥希さんがいませんね。もしかしてこの写真を撮ったのは遥希さんですか?」
「いや、ハル兄は写真撮るのヘタっぴだからこんなに綺麗に撮れないぞ?」
「シャーロットちゃん、この写真には全員写っているんだぜ?」
「えっ? で、でも遥希さんは……………… えっ!?」
「第22回、星見祭ミスコン優勝者の『謎の美少女η』こと、桜庭春子ちゃんでーす!」
「やめてくれぇぇ……」
「えっ、いやですが…… えぇっ!?」
去年の星見祭ミスコンの優勝賞品は、高級お料理セット。
食事を作るのにマンネリ化していて、少し刺激が欲しかったオレは、ついステージの前で「欲しいなぁ」と呟いてしまったのが事の発端。
それを聞き逃さなかった廻流に捕まり、強制的にミスコンにエントリーされた挙句、どうせなら女装させようぜ、なんて誰かが考えなしに発言したおかげで、あれよあれよと言う間に女装させられてステージにほっぽり出されたのだ。
女装が趣味だなんて思われたくなかったから、オレは普段の自分のキャラクターとはかけ離れたキャラを演じて『桜庭遥希』を隠した。
その結果、どんな琴線に触れたのかはわからないが、優勝してしまったのだ。
多分、去年の審査員の皆さんはどこか頭のネジが外れてしまっていたイカレポンチだったのだろう…… と自分に言い聞かせている。
「……遥希さん」
「やめろシャーロット、うっとりした目で見るのはやめろ!」
やめろめろめろ、シャルル、めろ。
「いやぁ、いつカミングアウトしてやろうかと思ったが、バッチリのタイミングだったな! シャル、実は春夏秋冬の屋敷に春子の写真集があるのだが見に来ないか?」
「はい、是非っ!」
「メグテメェっ! 鬼、悪魔! シャーロットも即答するな!」
「ひゃー美少女ηが起こったー! みんな散り散りになって逃げろー!」
「お前ら…… 一人残らずお尻ペンペンしてやる!」
突如始まった鬼ごっこ。
オレは怒りながらも楽しんでいた。
そんなオレの瞳は………
「あはははっ! どうしたのハルぅ、もうバテちゃったのー?」
何故か、凪咲の姿ばかりを追っていたんだ。