18話 ー 8つ目の星 ー
「…… それじゃシャーロットも喫茶店をやるのか」
日が経つのは早く、星見祭が今週の金曜日まで迫っていた。
本日は月曜日。
5月に入ってからの学園は、正に星見祭の準備期間と化しており、午後の授業の殆どは星見祭に向けての準備に当てられていた。
今回の星見祭を始め、体育祭、文化祭、クリスマス祭、卒業祭と年間を通して行事が多い水無星学園。
そんなんで授業日数大丈夫かと心配する意見もあるが、大丈夫だ問題ない。
普段の授業は他校と比べて内容は濃く、また進行具合も早い。
しかもお祭り好きな反面、期末、実力、学年末のテストはかなり難しい。
授業は最低限しか受けなくてもお咎めなしなのだが、高等部の場合、余りに成績が悪いと容赦なく落第を宣告されてしまう。
つまりこの学園…… 高等部のみの話ではあるが、テストの結果こそが全て。
オレのように普段授業中に寝ていたとしても、点数さえ取れれば余程のことがない限り呼び出される事はない。
まぁ、対して点を取っているわけでもないのだが。
とまぁ、このようなシステムとなっているので、大概の学園生はお祭り騒ぎを楽しみながら、学園生活をエンジョイ出来ているのだ。
現在、土日を星見祭の準備に費やしたオレ達は、その時の疲れもあってやや寝不足気味だったが、なんとか本日の日程を戦い終えた後、其々の部活も休みが重なっていたので、ステラの皆んなでシャーロットの知り合い探しをしていた。
探すと言っても、これと言って新しい情報もないので、島の案内を大義名分とした、ただの放課後の寄り道だ。
「はい! 童話喫茶…… クラスの方々が、様々な童話や物語に出てくるキャラクターの衣装を着て接客するんです! 」
「面白そうね! 因みにシャルは何のキャラクターなのかしら? 」
「私は、不思議の国のアリスの『アリス』役です」
「ほぅ…… ハマり役じゃないか。そこ、お触りとかエッチなサービスとかないの? 」
「生徒会長でも許されないと思うよ、メグ先輩? でも、僕も興味あるなぁ」
反応したのは唯我独尊の廻流と、ある種のファンタジーヲタクであるリチャードだった。
「ふぁぁぁぁ…… 」
前屈みになっている弘信の尻を蹴っておく。
ウチの子をそんな目で見るとは…… ゆ゛る゛さ゛ん゛!
「鷲峰シスターズのクラスはどうだ? 」
「アタシらはたこ焼き屋さんだぞ! 」
「チーズとかキムチとか、ロシアンたこ焼きなんてものもあってね、ホットケーキを丸く焼いたコロコロケーキもあるんだよ? 」
このメンバーのクラス、見事に飲食に偏ってるなぁ。
まぁ学生が考えることなんて似たり寄ったりだろうから仕方ないが。
「普段大人しいトモはいつになく張り切ってるな…何かあったのか? 」
「うん。私ね、最近また料理の腕が上がったなって、お父さんとお母さんから褒められたの! ハル兄さんにはまだ届かないと思うけど…… 」
「いや、トモのりょーりはうまいっ! 試作品食った男子達の顔をハル兄にも見せてやりたかったぞ! 」
そこまで美味いのか…… 休憩時間にでも行くようにするか。
「ところでメグ先輩のクラスは何すんの? 」
「…… っ、ちょっとヒロっ! 敢えて誰も聞かなかったのに、余計な事を…! 」
空気が読めない弘信が凪咲にシめられた。
オレも気になりはしたが…… 別の意味で。
と言うのも、この春夏秋冬廻流が所属するクラスは、毎度毎度とんでもない出し物をする事で有名である。
フライングうどん店や聖夜のかき氷屋やミニ四駆でトトカルチョレースなど、凡人には理解しがたい出し物で、生徒は愚か教師陣からもいろんな意味で注目を集めていたのだ。
実際、毎年廻流のクラスの出し物を心待ちにしているファンは少なくない。
多分凪咲の『聞きたくない』と言うのは、生徒会役員として頭を抱える羽目になるからと言う理由だろう。
対してオレの『聞きたくない』は、当日の楽しみとして取って置くためと言う理由から。
恐らく弘信はオレサイドの人間だろうが、早く知りたい気持ちが先行し過ぎて、つい口を開いてしまったのだろう。
「はぁ…… で、メグのクラス、どんなお頭のお悪いお店を出すんだ? 」
「人 間 射 的 ! 」
諸君らに問いたい。
未だ嘗て、これ程までにデンジャラスな出店名を聞いたことがあるだろうか?
オレはない。
「メグ先輩…… それ、ちゃんと許可出てるんですか? 」
「あぁ許可は出た…… 最も、許可申請書に承認を押したのもこの私だがな! 」
とんだ茶番である。
そりゃ許可が下りないはずがない。
その後もワイワイと喋りながら街をぶらつく。
シャーロットもクラスの友達から案内を受けているらしく、目ぼしい場所は既に知っていたので、今日は趣向を変えて季節公園を散歩していた。
「それにしても綺麗な場所ですね…… 風も気持ちいいですし、咲いているお花もとっても可愛いです! 」
シャーロットは公園に来てからは、会話をする時以外はずーっと上や下に咲き乱れている花々を見ていた。
「…… あっ、もうこんな場所まで歩いてきたのね」
不意に凪咲が足を止めた。
その目線の先にあるのは…… ブランコと滑り台、そして小さなジャングルジムがある子供の遊び場だった。
「この公園に何かあるんですか? 」
「…… 子供の頃、ここでよくみんなで遊んだのさ」
可愛らしく首を傾げながら訪ねてくるシャーロットにそう返した。
「なっつかしいなぁ…… みんなここで出会って、仲良くなったんだよな? 」
「アンタが成敗された場所でもあるけどね…… ヒロ、私ずっと忘れないから」
「な、凪咲ぁ…… もう許してくれよぉ〜」
「ナギさんと弘信さん…… どうしたんです? 」
「あぁナギのヤツな、昔ヒロに…… 」
「ハルぅ〜? 」
「なんでもないです。すまんシャーロット、オレも命が惜しい…… 今の質問はもうしてやらないでくれ」
は、はぁ……? と、とりあえず納得してくれたシャーロット。
聞き分けが良くて助かった。
「…… あっ、遥希さん遥希さん! あそこ、黒いフードの方がいますよ! ? 」
公園を眺めていたシャーロットは、奥のベンチに腰掛けて数人の子供達を相手に紙芝居を読んでいる語り部を見つけた。
「…… ステキですよね。この島の人々は、皆さん老若男女問わず、暖かな人ばかりです」
そんなもんなのか?
ずっとこの島で暮らしているから、これが普通だと思っているのだけど。
「珍しいと思うよ? 一昔前の日本なら全国にチラホラ紙芝居をする人がいたと思うけど、今となってはここくらいなものさ、見ず知らずの人間に物語を聞かせる人がいるのは」
島の外から来たリッちゃんが言うならそうなのだろう。
…… あれ、じゃあ語り部目指してるオレって結構異端者…?
「い、いいと思いますっ! 遥希さんの絵本、私大好きですし、お優しい遥希さんにはピッタリの…… 職、じゃなくて…… えっと、ぼ、ボランティア? ですよ! 」
気を使われてしまった。
「そーいやアタシらもここで出会ったんだよなー? 」
「そうだね。あの時は確か…… 姉さんがお父さんと喧嘩して、家を飛び出しちゃったんだっけ? 」
「…… ありゃ、あん時なんでトモもいたんだ? 」
「姉さんが出て行く時に、私も無理矢理引っ張っていったんじゃない! 一人は嫌だからって…… もう」
え、そうだったの…… ?
鷲峰姉妹と最初に出会った時、二人ともわんわん泣いてたからてっきり迷子かと思ってた。
どうにか泣き止ませて一緒に遊んだ後、ブルーバードに二人を送り届けたんだっけ。
雷火もかなり心配してたから…… 迷子だと思っちゃうよね。
「メグ先輩との出会いはどんな感じだったんですか? 」
「私か? そうだなぁ…… 私は家庭の事情で学校以外で外にあまり出られなかったのさ、習い事とかやっててな。そんな時、偶然私の屋敷に迷い込んで来たコイツらが私を外へ連れ出したんだ。オレ達と遊ぼうぜってな」
あの時の事を語る廻流の顔は、いつもの怪しい微笑みではなく、まるで子供の頃の写真を見るかのような優しい目をしていた。
「同年代の連中と遊んだ事がなかった私は、親に黙ってコイツらについて行った…… で、この公園で遊んだのさ。結局親にはバレたが、勉強をこれまで以上に頑張るからまた遊びたいって言ったら、案外すんなり許可してくれてな。で、今に至るってワケさ」
あーあ、余計なこと話しちまった。
廻流はそう言って頭の後ろで手を組み、そっぽを向いたが、ほんのりと赤く染まった耳までは隠しきれていなかった。
コイツも案外可愛いとこ、あるんだよなぁ。
「…… じゃあさ、ちょっと遊んでいかない? シャーロットが私達の仲間になった記念に! ちょっとタイミング的には遅いけどね」
「えっ、今からですか? 」
「おういいなそれ! なら鬼ごっこ、合法的に女の子にタッチできる鬼ごっこがいいと思います! 」
「ヒロ…… お前はまた自分から死にに行くような事を。僕には理解出来ないよ」
「いやお前だって秘境探索とかしてるだろ。危険性で言ったらチャドだって同じじゃん? 」
「えー、メグ先輩の方が危険じゃね? 言動や行動パターン的な意味でさ! 」
「姉さんっ、言いたいことは分かるけど、本人の前で言っちゃダメだよぉ……! 」
「この姉妹容赦ねェ…… 」
などと言いながら、オレ達は遊具の方へ歩いて行く……
「…… そうだ。ちょっと待ってろ」
オレは遊具よりももっと奥の方に見えたワゴン型の屋台を見つけてダッシュで駆け寄り、そこでお目当てのモノを全員分買ってきた。
「…… ははっ! ハル、コイツはまた懐かしいモノを買ってきたな。お姉ちゃん嬉しいゾ」
「ホント、久しぶりね…… コレ」
「うひょーっ! アタシ、アタシいちごがいいっ! 」
「慌てて落とさないでね、姉さん…… 」
「でもまだあったんだなぁコレ…って店員さんも変わってねェし! ? 」
「コレは…… ハルが僕と始めて遊んだ時も買ってくれたモノだね? 」
皆が思い思いに見つめるソレは、様々な種類のアイスキャンデーだった。
あのアイスキャンデーの屋台は、少なくとも10年前からはある屋台で、この公園で遊ぶ時はいつも買ってい食べたものだ。
オレはバナナ。
凪咲はオレンジ。
遊七はイチゴ。
智世はパイン。
廻流はグレープ。
弘信はアップル。
これがいつものチョイスだった。
リチャードにはメロンを買ってあげたっけ。
そして……
「シャーロットには…… ほれ、新作だそうだ」
新しいメンバーには、新作である『マンゴー』を進呈した。
「い、いいんですか? 」
「ああ、仲間の証さ」
オレは自分のアイスキャンデーを前に出した。
すると凪咲もオレのアイスキャンデーにくっつけるように前に出す。
一人、また一人とキャンデーを繋げて、一つの輪になる。
最後に、みんなにつられたシャーロットも、おずおずとキャンデーをくっつけた。
今までちゃんと言ってなかった言葉をシャーロットに伝えた。
「…… 遅くなっちゃったけど…… ようこそ、慧神島へ! 仲間として歓迎するぜ! 」
「…… はいっ、よろしくお願いします! 」
今日、星は8つとなった。
stella Ⅷ。
オレ達はいつまでも、誰一人欠ける事のない未来を信じながら、アイスを頬張った。




