11話 ー 影で嗤う者達 ー
その日の夜。
学校帰りに居住エリアにある商店街(アミューズメントエリアとは違い、普通のアーケード通り)で買い物を済ませた後、家に帰り夕飯の準備を始め、気がつけば時計の針は午後7時を指していた。
生徒会に入っている凪咲はまだ用事があるみたいだったので学校で別れている。
6時頃に帰ってきた凪咲を出迎えた時、すれ違いざまに揚げ物の香りが仄かに鼻に入ってきた。
コイツまーた買い食いしやがったな。
絶対するなとは言わんが、オレが作った料理では満足出来ていないのかとたまに心配になる。
べ、別に凪咲に食べて欲しくて料理してるワケじゃないんだからねっ!?
自分で言ってて吐き気がする。
これ以上はいけない。
シャーロットもキッチンから漂う夕食の香りに吊られたのか、婆さんの部屋から数冊の本を抱えて出てきた後、食卓の椅子に座って本を開いた……が、献立が気になるのかチラチラこちらの様子を盗み見ているのをヒシヒシと感じた。
一言言わせてくれ。
めっちゃ可愛い。
まるで昔の凪咲を見ているみたいだ。
できた料理を食卓へ並べて凪咲を呼び、オレ達は夕食を取りながら談笑した。
「…… そんなことがあったんですか」
現在、食卓で繰り広げられている話題は、本日の星見祭出店会議の事だった。
「そうそう! で、結局ハルのやつカフェを選んだのよねー。捻りがないわ捻りが」
「どれも捻るどころか捻じ切れる寸前の選択肢だったじゃねぇか。なんだよ和風カフェ『平静』って、和なのか洋なのか中なのかわかんねぇよ、内容聞いたら和洋中混合の喫茶店だったし。他のヤツも死後の世界を見せる程のお化け屋敷ってなんだよおっかねえ。流鏑馬はどうやるんだよ、ロデオマシーンでも使う気か?いかがわしい店なんていかがわしい店以外の何者でもないだろってツッコミどころ多すぎるわっ!」
結局、オレが選んだのはカフェだった。
お化け屋敷は小道具とか教室の内装作成とか大変そうだし、流鏑馬はロデオマシーンか何かを使わないとできないし、いかがわしい店はそもそも許可が降りないだろ…… って事でこの選択肢を選んだ訳だが。
「でも、流石は遥希さんです!まさか料理長に任命されるなんて!」
キラキラした目でオレを見つめるシャーロット。
果たしてオレは今笑えているだろうか?
カフェに決まってからは話がトントン拍子で進み、最初の壁であるメニューについての話題が上がった時。
「そう言えば桜庭君、料理できたよね?」
と、クラスメイトの誰かの声から話は広がり、反対派(オレ一人)の意見も虚しく料理長へと仕立て上げられ、挙句、出品するメニューの内半分はオレがレシピを考えなければならなくなってしまったのだ。
クラスメイトの殆どが小学生からの付き合いだったため、家庭科実習や宿泊学習で、オレの料理の腕前も割れていた事もあり、誰も反対してくれなかった…… 。
「まぁ当然よね?クラスで一番女子力高いのアンタなんだし」
「お前らの女子力が低すぎるんだよ…… 」
因みに本日の夕食は、早速カフェに出すメニューの試作品だ。
ペースト状にしたホウレン草、ニンジン、カボチャをそれぞれ別のタネに混ぜ込み、最後に合体させ形を整えて焼いた三色ハンバーグ。
カリカリ梅と大根とレタスを刻んで入れたシャキシャキとアクセントが効いたチャーハン。
慧神島で作られてた味噌と島の近辺で取れた昆布とトビウオの出汁を合わせた味噌汁。
「ここにお世話になってからずっと思っていましたが、遥希さんが作るご飯はとても美味しいです!今日のメニューも…… 特にハンバーグが絶品ですっ!」
モグモグと、しかしお行儀良く食べるシャーロットの姿を見てると作った甲斐があるなぁ。
「…… うわっ、何コレ梅が入ってるの? 私が嫌いなものは入れないでって言ってるじゃないっ!」
チャーハンに入ったカリカリ梅を器用に避けている凪咲の姿を見てると、母親になった気分になる。
余談だが、ハンバーグのタネに何を入れているのかまだ明かしていない。
そう、凪咲が嫌いなホウレン草とニンジンとカボチャだからだ。
未だ気がついていないのか、ハンバーグを食べている時は凄く美味しそうに食べてくれている。
ハイ、オレの勝ちっ!
ネタ…… いや、タネバラしは後にするとして、初日の案としては最高の手応えだった。
「楽しそうな学校ですね…… 私も通ってみたいです」
「シャルはここに来る前まで、学校はどうしていたの?」
「実は私、学校に通った事がないんです。おばあちゃんと色んな場所を転々と旅していましたから」
ちょっと寂しそうな笑みでシャーロットは答える。
勉強も最低限のことを祖母や知り合いに習っただけだったのだ。
「…… そっか。私達の学園に通えるようになれば、シャルもお留守番する事なく一緒にいられるんだけど」
「いえいえ、こうしてご厄介になっているだけでも…… これ以上迷惑はかけられません!」
これ以上ないくらい申し訳なさそうに手を振っているが、やはり通ってみたくあるのは間違いないだろう。
「まぁ、仕方ない問題よね…… ごめんなさい、無神経なこと言っちゃって」
「とんでもないです! それより、ナギさん達が通う学園の話をもっと聞かせて頂けませんか?」
「それならお安い御用よ! 今日なんて私の友達が…」
気を使ってくれたのか、シャーロットが当たり障りのない会話に繋げてくれたおかげで、特に暗くなることもなく夕食を終える事ができたのだった。
「…… お父様、先日のお話なのですが…… えぇ、…… 側の書類は既に纏めてあります」
10枚ほどの書類を見ながら彼女は微笑む。
「はい、早ければ今月中には…… 先ずは…… のため明日辺りに…… 案内しようかと…… はい、人選はお任せ下さい」
そう言って彼女は電話を切った。
窓の隙間から僅かに差し込む月明かりに照らされた彼女の笑みは柔らかく…… しかしどこか歪んでいる雰囲気を漂わせている。
「聞いていましたね?」
彼女の後ろに控えていた執事やメイドが一度だけ静かに頷く。
薄暗い部屋の中で、彼女の口角は更に上がった。
「…… 明日、シャーロット・ハーツの拉致を決行します」
満腹感と眠気に襲われ、スッカリだらけ切っていた遥希達が、学園生活の思い出をシャーロットに語っていた頃。
彼女が着々と計画を進めていた事を、まだ誰も知らない……




