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その村人は、王都の「普通」がわからない  作者: 延野正行


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第19話 初めてのネストは“普通”じゃない

少し投稿が空いてしまって申し訳ない。

 村で起こった事件は、一件落着した。

 首謀者はバナシェラ王国の魔導士。

 この事実は、レジアス王国に衝撃を与えた。

 隣国が自国の村で人体実験を行っていたのだ。

 そのため、レジアス王国は即刻バナシェラ王国に抗議したそうだけど、はぐらかされてしまったらしい。

 「これはかなり尾を引く問題だぞ」と、エトヴィンは新聞を読みながら呟いていた。


 国と国同士の諍いかあ……。

 ぼくにはピンとこないなあ。

 英雄村では村人同士が喧嘩することはあっても、村同士で争いになることは少なかったし。

 非効率な兵器なんて作ってないで、お隣同士仲良くすればいいのにな。


 と、ぼくは思うのだけど、マリルーには「そうはいかないのが、大人の事情なのよ」たしなめられた。

 大人って大変だ。


 一方で、ぼくたちの功績は認められた。

 正体不明の病から村を救ったこと。

 バナシェラ王国の魔導士を倒したこと。

 国家的英雄行為として認定され、王様から勲章を授与された。

 けれど、これは非公式で、国内外には発表されていない。

 バナシェラ王国との動向を見守りつつ、後日発表になるそうだ。


 今回の功績により、マリルー、エトヴィンがBランク、ロザリムがC+ランクに昇格し、『鯨の髭』自体の評価もEランクから一気にCランクにまで上がった。


 ちなみにぼくはB+ランクに上がった。

 本来ならAランクに匹敵するほどの功績と力があるのだけど、まだ若いこともあって、研鑽してほしいという王様からお言葉を頂いた。

 ぼくとしては満足だ。

 “普通”の村人のぼくが、B+ランクなんて夢のようだった。


 それにとってもいいものをもらったしね。


「ここが私たち『鯨の髭』の本部(ネスト)になるのね」


 歓声をあげ、見上げたのはマリルーだった。


 青い瞳を赤ん坊みたいにキラキラと輝かせている。

 虹彩に映り込んでいたのは、小さな屋敷だった。


「思ったより、こじんまりとしているな」


「何をいってるの! 住めば都っていうでしょ」


 マリルーはエトヴィンの背中をバンと叩いた。

 その横で、ロザリムが恐縮しすぎて、小動物みたいに震えている。


 小さいといえど、きちんと庭もあり、2階や屋根裏部屋もある。

 紫色の屋根に、白亜の外壁。

 少し寂れた印象があるけど、使用する分には問題ない。


 そう。ぼくたちは、国から本部(ネスト)――住む場所をもらったんだ。


 冒険者が自分たちの本部を持つことは、目標であり、周りから注目されているという証だった。

 いってみれば、1つのステータスみたいなものらしい。


 早速、中に入る。

 外観こそ古さを感じさせるけど、中はまだまだ綺麗だった。

 家具なども残っていて、まだまだ使えそうだ。


 マリルーは真っ白なシーツが引かれたベッドを見つける。

 すると、ここぞとばかりにダイブした。

 若干傷んでいるとはいえ、十分スプリングが効いているらしい。

 ベッドは赤髪の少女を受け止め、跳ね返した。

 シーツの感触を確かめるように、顔を埋める。


「この前まで集合房で寝泊まりしていたとは思えないわね、私たち」


「マリルー……。そのシーツ、埃っぽいぞ。一旦洗わないと」


「わかってないわね、エトヴィン。この古くさい匂いがたまらないじゃない」


 幸せそうな表情を浮かべる。

 エトヴィンは肩を竦めた。


「はうぅ……。お掃除しないと」


「ロザリムの言うとおりだ。やるぞ、マリルー」


「は~い」


 早速、ぼくたちは屋敷の掃除を始めた。

 綺麗とはいえ、しばらく放置されていたらしい。

 家具や廊下には埃が積もっていた。


「はうぅ……。納屋ってどこですか?」


 冒険用の荷物を持ったロザリムが尋ねる。


「えっと? どこだっけ? まだ使い勝手がわからないのよねぇ」


「一旦外に出て、右奥の扉から入れますよ」


 ぼくは説明する。

 マリルーとロザリムは目を剥いた。


「エイス、やけにこの屋敷のことを詳しいわね。さっきも裏口の開け方とかも知っていたし」


「はうぅ……。さすがエイスですぅ」


 やたらと褒めてくれる。


 なんてことはない。

 実は、この屋敷は1度来たことがある。

 前にぼくが引っ越し作業をしにきたホイルさんの旧屋敷なのだ。


 今は、新居の生活にも子供さんも慣れ、つい先日屋敷を戻してほしいという依頼を受けて、再転送したのだ。


 引っ越し作業をしたから、屋敷のことは大体頭に入っている。

 種も仕掛けも、魔法もない。

 ただ単に、ぼくが最初から知っていただけだ。


 まさかこの屋敷に住むことになるなんて思わなかったけどね。


「なるほど。それは不思議な縁ね」


「はうぅ……。でも、素敵な屋敷ですぅ」


「うん。ぼくもそう思うよ」


 だから、大事にしなきゃ。

 『鯨の髭』のみんなと、長く生活するためにも。


 大方掃除も済み、荷物も運び入れた。

 みんなが一服する横で、ぼくだけが外に出て作業をする。

 外壁に次々と白銀の板を貼り付けていった。


「エイス、何をやってるの?」


 マリルーは目を丸くする。

 エトヴィンとロザリムもやって来て、呆然と見上げていた。


「アダマンタイトの板を打ち付けているんですよ」


「あ、アダマンタイト!!」


「そんなものどこから!?」


 前にもいったけど、アダマンタイトって結構地下にゴロゴロと転がっている。

 ぼくは自分で精錬して、こうして板を作ったというわけだ。


「いや、それはいいけど、なんでそんな貴重な材料を打ち付けているの?」


「補強ですよ」


「補強!?」


「このままじゃ、魔獣が来たら吹き飛んじゃいますよ」


「え……?」


「そういえば、前にそんなことをいっていたな」


「王都の建築物は無防備すぎます。土や石で建物を造るなんて。壊してくれっていっているようなものですよ」


「いや、でもそれが王都では“普通”なんだけど」


 それが“普通”だとしても改めるべきだ。

 正直、ぼくは怖くて、王都の宿屋にも泊まれなかった。

 自分で結界を張って、野宿をしてたんだ。


「王都に来てからずっと……」


「ええ……。はい。そうですけど」


「お風呂とかどうしてたの?」


「お風呂? ああ。大丈夫ですよ。主に地中の中で眠ってましたから、腐敗物は微生物が食べて――」


「そういうことじゃない!! 気持ちの問題よ」


 マリルーは烈火のごとく怒る。


 ぼくは風呂場へと連行されるのだった。


 いや、村ではこれが“普通”……。


「そんな“普通”こそ改めるべきよ!!」


 マリルーに怒られるのだった。


次回はお風呂回。


短かったので、なるべく早めに投稿します。

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