5.異世界勇者とおっさん―1
その夜、キット主催の焼き魚パーティーを終えた一行は、川の近くの木陰で夜営を行っていた。
昼間から存分に川で体を動かしたため、すっかり疲れてしまったのだろう。
キットは胡坐を掻くグルゥの膝の上に頭を乗せ、穏やかな寝息を立てて寝ていた。
その頭を優しく撫でながら、グルゥは焚き火を眺めつつ、これからどうするべきか、思案をしていた。
「結局、俺様まで自己紹介をさせられて、尚更仲良くなっただけじゃねーか」
「……ああ、そうだな」
ミルププの指摘に、グルゥはガクッとうなだれる。
自分のことを親父と慕い、すっかり娘になった気分でいるキットと共に旅をするのは楽しいが、一方で、この関係を続けていては駄目だとも感じていた。
「今のうちに、コイツを置いてさっさとズラかった方がいいんじゃねーのか? そうすりゃ、この偽者の親子関係も清算できんだろ」
偽者の、という言葉が、グルゥの胸に重くのしかかる。
このままキットと一緒に、のどかに暮らしていくのであればそれも良いのかもしれないが……グルゥには、娘を助け出すという大事な目的があった。
「ここまで関わって、キットを見捨てるようなことはしないさ」
「へぇ……って、言うと?」
「あの若者が言っていただろう。子供の人権を無視して、こき使うような行いは……“お館様”の命令だと」
やっぱりな、とミルププは嘆息する。
どうしようもなくお人好しで、困っているものを見捨てることが出来ない性分のグルゥだ。
「キットと別れるのであれば……彼女の安全をしっかり確保してから、それからだ」
「カチ込むっていうのか?」
「馬鹿を言え。……正々堂々、真正面から話し合いに臨むだけだ。暴力を用いての解決なんて、何の救いにもならない」
綺麗事だとミルププは言った。
だが、例えそうだとしても、初めから力に任せて支配するのであればあの異世界勇者と同じだと。
グルゥは、あの全てを失った日の記憶を、思い返し――
「むにゃー……もう食えねぇよぉ……まぁ食うけどぉ……」
――かけたところで、キットの能天気な寝言で現実に引き戻される。
「ふふ……まあ、今日のところはこれでいいか」
その晩、グルゥはキットを起こさないよう、胡坐のまま夜を明かしたのだった。




