4.イモムシとおっさん―9
何故自分が抱き締められているのか、あまり意味を理解していないキットだったが、
「あ、臭くなくなったな、親父」
ヒクヒクと鼻を働かせて、改めてグルゥに感想を述べる。
「それなら、良かった。こうして、長い時間お前と一緒にいることが出来る」
「え!? きゅ、急になんだよ。……でも、オレも嬉しいから、まあいいか」
そう言って、ビチビチと跳ねる魚を手に持ちながら抱き合う二人は、傍から見ると非常に滑稽な姿だった。
そして、互いの温もりをしっかりと確かめ合った、その後のことだ。
「ん……待てよ親父、何か聞こえないか?」
ひとしきり雨が振り注いだ後、流れを取り戻した川から、キットは妙な音が聞こえてくるのに気が付いた、
その指摘に、グルゥは黙って耳を澄ます。
――怒りの声は、遥か下流の方から聞こえてきた。
「ふーざーけーるーなー、おっさーーーん、たーすーけーろー…………」
「あーーーーー!! しまった!!」
今にも力尽きそうな叫び声に、グルゥは慌てて水を掻き分け下流へと進んでいく。
だが、
「がぼぼぼぼぼぼ」
もちろん水は苦手のため、改めてしっかりと溺れた。
「もう! 何やってんだよ親父! 今の声の主を、助けに行けばいいんだな!?」
状況を理解してくれたキットに、グルゥは水の中から親指を突きたてた拳を掲げ合図した。
キットが戻ってくる頃には、グルゥは背中だけ浮かんだ状態で、再び死にかけるのだった。




