4.イモムシとおっさん―7
油断していた。
野生児のようなヤツだから、川での泳ぎなど日常茶飯事なのだと思い込んでいたが。
「キット、どこにいるんだ、キットっ!!」
せっかく乾いたのに、服を着用したままグルゥは川に飛び込む。
流れは想像していた以上に速く、さらには服が水を吸って、グルゥ自身が思うように動けなくなっている。
「返事をしろ、キット――」
次に一歩踏み出した瞬間、グルゥは苔の生えた石に足を取られ、無様に川の中に転倒してしまった。
着ていた服が一気に水を吸い、手足にまとわりつき、すぐに起き上がることが出来ない。
「がぼぼぼぼぼぼ」
さらにグルゥは、元々水が得意でなかった。
有り体に言えば、金槌である。
『サタン』の血統を持つ魔人の特性として、水は苦手なものの一つなのである。
(ま、まさか助けに入った私の方が溺れてしまうとは)
思い切り水を飲み込んでしまったグルゥは、既に気を失う一歩手前であった。
いくら頑強な体と言えども、水中に沈んでしまえば何の役にも立たないと、改めて自分の取り柄のなさを実感する。
そして『憤怒』の感情がなければ、グルゥは魔獣化することも出来ない。
このままでは溺れ死ぬと、グルゥは自らの死が近付いていることをはっきりと理解した。
(あまりこの手は、使いたくなかったが)
残された酸素の量にも限界がある。
グルゥは覚悟を決めると、全身の筋肉に力を込め、ありったけの力で川底に拳を叩き込んだ。




