4.イモムシとおっさん―5
「まあ、お前がそこまで言うなら、しょうがないか……」
根負けしたグルゥは、最終的にキットの好きなように任せることにした。
「だけど最後に一言、パパって言ってみてくれないか?」
「パパ」
「ちがああああああうっ!! 感情が、全然感情がこもってなぁぁぁいっ!!」
妙なこだわりを見せるグルゥに、キットは若干引いていた。
だが、どうしても――グルゥは時に、最愛の娘から呼ばれていた“パパ”という言葉の響きを、聞きたくなることが無性にあるのだ。
(まあ、それをこの子に求めるのも何か違うか……)
少し冷静になったグルゥは、キットと娘の性格が全然違うことに気付き、そう自分に言い聞かせることにした。
「サンキュな、親父! ……大好きっ」
「ンなっ……!?」
親父呼びが認められて嬉しくてしょうがないキットは、喜びのあまり、グルゥの胸に飛び込んで抱きついた。
そして、大好きな髭をぎゅーっと引っ張ると、ゴツゴツした頬骨の辺りをぺろっと一舐めする。
「ななななななななっ!? 何をやってるんだお前はっ!?」
「だって、嬉しいんだもーんっ。嬉しかったらぺろぺろするだろ、ふつー」
「せん!! 断じてせん!! お前は犬か!? 狼にでも育てられたのか!?」
グルゥの渾身のツッコミはキットにまったく伝わらず、キットは構わずにグルゥの髭で遊ぶのだった。
――が。
「うげ」
突如として、鼻をヒクヒクと動かしたキットは、グルゥを突き飛ばして後ずさる。
「親父、めちゃめちゃ臭いぞ」
「……仕方ないだろ、洗ってない服なんだから。というか、お前はやっぱ犬なのか?」
急に冷静になったキットに若干傷ついたグルゥだが、こうして、ひとまず次の目的地が決まったのだった。




