まさかの危機に
カラン、と金物と何かが触れ合った音がした。壁に背をつけていた誠は瞳だけ動かしてドアノブを見て、すっと目を閉じた。
今の音は、きっと香が動いた音だ。なんの為に? それはわからない。防音加工が施されているであろうドアはなんの音も発さない。何故あの音が聞こえたのだろうか。もしかしたらドアに触れていた指から伝わった振動か、幻聴かもしれない。だが気になる。香になにかあれば一大事だ。なんとなくイヤな予感がする。
どうしようか、ドアを蹴破ろうか。ドアは鍵がかかった音がしたから、きっと開かないだろう。
「なんやなんや、片付けんのはアンタかいな」
声がしてハッと目を開けると、髪を太い三つ編みにして肩に垂らした、拓人に似て美形の男が腕を組んで立っていた。
「なんだお前は」
「俺か? 俺はなぁ、拓人の弟、千早組次男の海人っちゅーもんや。さて、兄ちゃんには死んでもらわなアカンねんけど……どうしよか」
「それは出来ないな。俺には守らなきゃいけない妹がここにいる。お前が俺を殺しに来たってことは、香は危険な目にあっているということだろ?」
「鋭いなぁ兄ちゃん、せやで。でも兄ちゃんの出番はここまでや。残念やったなぁ」
そう言ってニヤッと笑う海人の顔になんとなく悪寒を感じて、グッと睨みつける。クソ、ふざけんな。香はこん中で大変な目に合ってると言うのに、こんな野郎の相手もしなきゃならないのか。
「ハイハイお兄さん! いじめはそこまで!」
「……それなー」
な、紅と葉!? なんでここに……。しかも紅がカタコトじゃないし、2人とも格好が煌びやかと言うか……アイドルみたいだ。特に葉に至っては、白いタキシード……新郎かってツッコミたいレベルの完璧な格好だ。
「なんや、Sweet Poisonかいな。Mapleちゃん、Breathくん、ちょっとさがっててな」
なんだ? Mapleが紅で、Breathが葉か? 紛らわしい名前だな。てかなんでここに?
「あれー! いじめられてるお兄さん、僕らの事知らないのー?」
「え、俺か?」
「そーそー! 教えてあげるよ!」
そう言って紅が近づいてくる。俺がちょっとしゃがみ、紅が背伸びする形で耳元でバレないように話をする。
「僕らSweet Poisonとしてココに呼ばれてた、僕と誠でアイツの相手、葉が助けに行く」
右手で足に触れてOKサインを出すと、紅はすっと離れた。
「あぁ、なるほどな! そういうアイドルもあったんだなぁ……」
「というわけや、最後に人気アイドルに会えたんやから心残りないやろ?」
「それがあるんだな、死ぬわけにはいかない。Mapleさん、助けてくれないか?」
「いいよいいよー! ナニー? 喧嘩ー?」
「はぁ、戯れかいな。遊んだるわ」
海人はまたニヤッと笑い、細身の刀を手に取る。
「おい、俺達には武器無しか?」
「しゃあ無いなぁ。その代わり死んでも知らんで?」
そう言って鞘に収まったままの日本刀を投げてよこす。足元に転がったソレを受け取ると、紅は足に巻き付けたベルトから投げナイフを取り出してみせる。
「僕はこれ使うけど、文句ないよね?」
「もちろんや! 素人には負けんで?」