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酔いどれ腐れ  作者: フロード【fload】
第壱章〜潜入捜査〜
39/59

適わない

 目の前に拓人の顔がある。逸らしたくても、どれだけ力を込めても、ビクリとも動かない。幸い手が自由なので、拓人の手を持って思い切り引っ張る。だが引き剥がそうと藻掻(もが)けば藻掻(もが)くほど、拓人の手に力が入って、指が皮膚に食い込む。


「痛っ……い」

「あぁ、我が神、なんて美しいのでしょう」


 拓人の手の力が緩んで安堵したのもつかの間。指が首にまとわりついて、ゆっくり締め上げていく。本当にゆっくり、ゆっくり、締め上げられて、息が、出来なくて、苦しい。


「やめっ、拓人さ……い、あ、あぁぁあ……」

「はぁ、永遠にその美しさを閉じ込めてしまいたい」

「いた、い、く……るし……やぁ……」

「ふふ、我が神。何も怖くありませんよ」


 ダメだ、コイツ話が通じねぇ……! 通じねぇ所か殺される、頭がイカれてるんじゃないか? 痛い、痛い痛い痛い! 引き剥がせない、くっそ、力強すぎだろコイツ。……どうしよう、ぼーっとして来た。指にも力が入らない。演技に努めすぎて、チャンスを失ってしまった。……いや、まだ。まだ、ナイフがある……!


「何しようとしてるんですか、悪い子」


 耳元でそう聞こえると、左手を叩かれ、ナイフを落とした。少し指の力が緩んで、息を思い切り吸い込む。……はぁ、死ぬかと思った……。その隙に腕を引き剥がし、胸を蹴り飛ばしてドアに向かって駆ける。


「だから、何しようとしてるんですか、と聞いてるじゃないですか」


 痛っ……! 足元に鋭い痛みを感じて、前のめりに倒れ込む。ジンジンと疼く腕で這いつくばって進もうとするも、足を掴まれて後ろに引きずられる。咄嗟にナイフを投げるが、ドアに向かって飛んで、カランと音を立てて落ちた。


「どうして逃げるんです? 悪い子にはお仕置きを……って教えて貰いませんでしたか?」

「やめて、嫌だ、放して」

「ダメですよ」


 ビリッと嫌な音がして、急に背中がスースーする。指が這うような感覚がして、思わず背を反らせる。


「あはは、可愛い反応ですね」

「何してるんですか! やめてくださいよ!」

「こうしたら逃げられないでしょう?」


 肩を鷲掴みにされて、グルッと上に向けさせられる。どうして、どうして、適わないんだ……? 力も、機転も。悔しい、嫌だ、怖いよ、誠! 胸元の生地に手をかけられて、慌てて上から抑える。ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい……! もうダメだ、耐えきれないよ……!

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