適わない
目の前に拓人の顔がある。逸らしたくても、どれだけ力を込めても、ビクリとも動かない。幸い手が自由なので、拓人の手を持って思い切り引っ張る。だが引き剥がそうと藻掻けば藻掻くほど、拓人の手に力が入って、指が皮膚に食い込む。
「痛っ……い」
「あぁ、我が神、なんて美しいのでしょう」
拓人の手の力が緩んで安堵したのもつかの間。指が首にまとわりついて、ゆっくり締め上げていく。本当にゆっくり、ゆっくり、締め上げられて、息が、出来なくて、苦しい。
「やめっ、拓人さ……い、あ、あぁぁあ……」
「はぁ、永遠にその美しさを閉じ込めてしまいたい」
「いた、い、く……るし……やぁ……」
「ふふ、我が神。何も怖くありませんよ」
ダメだ、コイツ話が通じねぇ……! 通じねぇ所か殺される、頭がイカれてるんじゃないか? 痛い、痛い痛い痛い! 引き剥がせない、くっそ、力強すぎだろコイツ。……どうしよう、ぼーっとして来た。指にも力が入らない。演技に努めすぎて、チャンスを失ってしまった。……いや、まだ。まだ、ナイフがある……!
「何しようとしてるんですか、悪い子」
耳元でそう聞こえると、左手を叩かれ、ナイフを落とした。少し指の力が緩んで、息を思い切り吸い込む。……はぁ、死ぬかと思った……。その隙に腕を引き剥がし、胸を蹴り飛ばしてドアに向かって駆ける。
「だから、何しようとしてるんですか、と聞いてるじゃないですか」
痛っ……! 足元に鋭い痛みを感じて、前のめりに倒れ込む。ジンジンと疼く腕で這いつくばって進もうとするも、足を掴まれて後ろに引きずられる。咄嗟にナイフを投げるが、ドアに向かって飛んで、カランと音を立てて落ちた。
「どうして逃げるんです? 悪い子にはお仕置きを……って教えて貰いませんでしたか?」
「やめて、嫌だ、放して」
「ダメですよ」
ビリッと嫌な音がして、急に背中がスースーする。指が這うような感覚がして、思わず背を反らせる。
「あはは、可愛い反応ですね」
「何してるんですか! やめてくださいよ!」
「こうしたら逃げられないでしょう?」
肩を鷲掴みにされて、グルッと上に向けさせられる。どうして、どうして、適わないんだ……? 力も、機転も。悔しい、嫌だ、怖いよ、誠! 胸元の生地に手をかけられて、慌てて上から抑える。ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい……! もうダメだ、耐えきれないよ……!




