第5話 蘇我入江
蘇我本家最深部当主の間。蘇我家の長い長い廊下の先にある部屋の装飾が他とは違い厳正な作りとなっている部屋だ。最深部といわれるように玄関から一番奥に位置している。その部屋の前の空気はいくら自分の家だとしても慣れるようなものではなく苦手だ。そして、俺はこの部屋のドアをたたいた。
「父さん入るよ」
「入っていいぞ」
俺が言うと、この部屋の持ち主は返事をした。俺は、イヨと美月にこの部屋に入るように促して部屋の中へ足を踏み入れた。
『失礼します』
そう言うと、この部屋の中心にちょうど位置する机の前に座っていた一人の男性が笑顔で出迎えてくれた。この人物こそが俺の父さん蘇我入江。ちょうど蘇我本家直系34代に位置する。つまり、俺は35代目だ。
「やあ、美月ちゃん久しぶり。あとそちらのお嬢さんはどなたかな。家に来るのは初めてだね」
父さんがよく家に来る美月のことは知っているが始めて家に来たイヨのことは知らずに自己紹介を求めた。
「父さん……いや、蘇我本家現当主蘇我入江様。こちらはイヨという者でどうやら高天原からやってきた神様だそうです」
「神様だとっ!? それは本当か稲目」
父さんは、俺がイヨのことを神様だと紹介すると一瞬で顔色が変わり声を荒げて真かといった。
「はい、本当です。物部が狙っているのでほぼ間違いないと」
「そうか………ついに現れたのか神様、そして物部」
父さんはどうやら、この事態について多少は知っていたみたいでぼそぼそと考え事を呟いていた。
「私は蘇我の皆さん方が悪いとは思っていません。なので蘇我の本家にいてもいいですか?」
イヨの目が潤んで俺と父さんに訴えているのを見て俺はあいまいに答えることしかできなかった。
「もちろん俺はいいけど父さんは………」
父さんの方を恐る恐る見てみた。父さんは何か考えが終わったみたいでついに口を開いた。
「ああ、私は蘇我の当主としてぜひあなたをお守りしたいと思います」
「そんな堅苦しくしないでください。私は神様といっても末端の者ですから」
イヨが謙遜して手を振った。
「そんなことありません。神様には末端も何もありません。蘇我は日本の神も外国の神も平等に信仰する一族ですから大丈夫です」
「ありがとうございます。私なんかのことを思ってくださり丁重に扱ってくれまして。蘇我側について良かったです」
「ありがとうございます。こちらとしては有り難いです。稲目、イヨ様を例の部屋に連れて行って」
父さんがものすごい発言をした。何がものすごい発言だというと、
「父さん……例の部屋ってもしかしてあれ!?」
「イナ、例の部屋って?」
「私も気になる。どこに連れていってくれるの」
「それはね……」
俺は一言おいて言った。その部屋の名前を、わが家の最高機密である。
「蘇我本家真の最深部神の間」




