最終話 神様が人生を変えた
コンコン
「入ります。お父さん」
俺は形式上きちんと部屋に入るため、ちゃんとノックをする。部屋の中からは入ってきなさいというお父さんの声が聞こえる。
「どうしました。お父さん」
俺はさっそく呼ばれた件について尋ねる。お父さんは少し気まずそうに答える。
「まずいことになった」
お父さんは深刻そうに言ってきた。
「まずいこと?」
俺にはまずいことと言われても理解することができなかった。まずいこととはどういうこと何だ。
「まずいこととは一体?」
俺はお父さんに尋ねる。お父さんは深刻そうな表情を依然崩さない。そして、重い口を開いた。
「物部が宣戦布告をしてきた」
「えっ!?」
俺は驚いてしまった。これほど早く物部が動くとは想像もしていなかったからだ。
「やはり驚くか。この事態に我々はどう対応すべきか。何かいい案はあるか」
お父さんは俺に聞いてくるもお父さんに何も思いつくことがないなら俺には何にも思いつくはずがない。
「俺には……俺には何も思いつきません」
俺は正直に答える。本当に何も思いつかないんだ。どうしたって。
「そうか……」
お父さんは深刻そうな表情をする。それを見ていると事態の深刻さが伝わってくる。だが、何も俺にはできない。俺は何て無力なんだ。自分でも悲観的になってしまう。
「私達はまた歴史の敗者になるのか。我が蘇我は……」
お父さんはついに負けを認めるような発言をする。ただ、これだけ追い詰められているんだ。
「ならば私の力を使ってください」
「!」
突然部屋の外から声が聞こえた。すぐに扉が開いた。中に入ってきたのはイヨであった。
「イヨ君か」
お父さんはイヨにお願いをするつもりはなかった。それはイヨを信用していないのではない。イヨに迷惑をかけないためであった。しかし、イヨは自分から力を使ってと言ってきている。ここは素直に頼るべきではないか。俺はそう思った。お父さんはずっと頭を抱えて悩んだ末にようやくイヨの提案を受け入れた。
「わかった。受け入れましょう」
ただしと言葉を続けた。
「私達にも意地があります。全てを神様たるあなたに任せてはいられないのです。そこを理解してください」
お父さんはそう言った。俺達にもまだプライドというものは残っている。
イヨはそれを理解してくれたのかどうか分からないが最低限の手伝いはしますと言ってくれた。それだけでも俺達には力強かった。
「それにしてもいつから戦いが始まるの?」
イヨは聞いてきた。確かにそのことは俺も知っておきたい情報だ。お父さんは明日の夜に王仁学園で行うと手紙に書かれていたと言った。王仁学園ということは俺たちの学校で戦いをすることとなるのか。
王仁学園が最終決戦の場となると何だか陰謀を感じると自然に思ってしまう俺であったがとりあえずは目の前のことに集中しなければならない。まずは、物部を倒すことだけを考えよう。
俺とイヨは草薙の剣を扱う練習をしてきた。これは物凄い力だ。最初は扱うことができなかったが今となっては俺の手先のように動く。これで、これであいつらに一泡ふかしてやる。
そして、決戦の日がついにやってきた。
王仁学園には蘇我と物部の家のものが大勢やってきて広い校庭は人込みで歩く隙間もなくなっていた。
「守人!」
俺は人込みの中偶然見つけた幼馴染にして大親友そして今は敵の物部守人の名前を呼ぶ。守人は俺の姿に気が付いたが何も言わずにそのまま通り過ぎた。……あいつ。
「では、物部殿。戦いの内容は如何様なものですか」
俺の父さん蘇我入江が物部方に勝負の内容を聞く。
「もちろん、お互いの家から1人だけ代表をだしそいつを戦わせる。勝った方が神様イヨを自分の支配下におけるでどうだ」
! イヨが賞品! そんなの聞いていないぞ。そもそも神様を支配下にするとは正気なのか? あいつらは狂っている。お父さんも同じことを思ったみたいだ。
「神様は支配するものじゃない。祀るものだ。お前らは何をたくらんでいるんだ」
「別に、何も企んではいませんよ。我々は日本の神こそが正義だと思っていますので」
……セリフの割には正義に聞こえない。イヨもその言葉にたまらず叫んだ。
「あなた方は神様を軽んじているは!」
イヨは物部方に言う。物部方は全員笑って答える。
「イヨといったな。そもそもお前は神なのか? イヨという名の神など聞いたことないわ」
「!」
イヨは驚く。そして、反論もできない。確かに、俺も思ったことがある日本の神話である日本神話は古事記、日本書紀などといった書物に書かれている。しかしながらイヨという名の神は登場した記憶などない。では、イヨとは何者なのか?
「さあ、お前は何者なのだ。答えよ、この似非神!」
物部方の誰かが叫んだ。
イヨは今にも泣きそうだった。そうだ、イヨだって神様とはいえ俺と同級生ぐらいの女の子。やっぱり耐えられないこともある。今のイヨは仲間がいない。周りの人全員が敵である状態だ。では、誰が今味方になってあげられるか。そうだ、俺しかいない。
「物部ども!」
俺は声を張り上げる。物部方はその声に驚く。その中にはもちろん守人も含まれていた。
「イヨが自分は神と言っている。ならば神なんだろ。違うか!」
俺は叫ぶ。俺の後に蘇我の俺の家族たちは歓声をする。
「「「そうだそうだ」」」
後ろから俺に賛同する声が湧き上がる。これで蘇我の方が気合だけでも勝っている。
「みんな……ありがとう」
イヨは泣き始める。
「泣くなよ。俺達は味方だから」
俺はイヨを諭す。イヨも泣き止んでくれた。涙で真っ赤になった目がまだ潤んでおりとてもドキッと男心を揺さぶるようなものであった。
「ありがとう。でも、本当のことを言います。私は神様じゃないのです。いいえ、神様ではなかったけど神様に神様もどきになったのです」
イヨは正直に語る。その言葉を俺も俺達蘇我も相手の物部も静かに聞く。王仁学園には静寂が訪れた。静寂の中イヨの話は続く。
「私は、邪馬台国の女王壱与の霊とでも言った方が正しい存在なのです」
壱与。それは邪馬台国のかの有名な女王卑弥呼の後に立てられた女王の名前だ。卑弥呼の後にまた男が王になったら争いが始まったので13歳にして女王となった子。それが数少ない邪馬台国の資料からわかる壱与の情報だ。
ただ、この結果イヨは神様ではないと物部は言ってくると思ったが奴らはなぜか何も言わなかった。
「イヨは神様ではないが尊大な方だということか」
物部の中からそんな声が聞こえた。どうやらイヨが邪馬台国の女王だという話を聞いてむしろ納得をしたようだ。
「それでは蘇我、物部両者はどう戦うのですか?」
俺達の間に急に驚くべき人が割り込んできた。その人とは昼休みに守人と会話をしていた大伴加奈子先輩であった。つまりは第三の勢力ともいっていい大伴だ。
「大伴はこの戦いには関与しないのでは?」
お父さんが不機嫌そうに言う。その通りだ、あいつらに加勢されてはこっちとしては困る。
「あなた方だって最大のパートナーがいるではありませんか」
大伴加奈子はそう言う。最大のパートナー? それは何だ。
「最大のパートナーとはイヨのことか」
俺は尋ねる。それ以外には何も思いつかないからだ。
「なるほど。あなた方は彼女の正体に気づいていないようだ」
「?」
俺はもちろん蘇我の人たち全員がこの言葉の意味を理解していなかった。大伴加奈子はそれを見ておもしろそうに笑う。笑ってから言う。
「そろそろ出てきなさいよ。ずっと隠れているのでしょ。あなたはいつまで自分の正体を隠しているのかな」
大伴加奈子は誰かに向かって話しかけた。その誰かは王仁学園の校庭にある木の後ろから出てきた。最初は黒い影で誰だかわからなかったが月明りでその顔が明らかとなってきた。その顔は俺のよく知る人物であった。
「美月!?」
それは俺の幼馴染にして思い人炊屋美月であった。何でこんなところに俺は思った。
「すいません。みなさん。今まで黙っていましたが私は私はあなた方を裏で監視する役割を持っていたのです。私の家炊屋家は炊屋姫様の末裔の一族です」
この場がザワッと騒がしくなった。蘇我も物部もだ。炊屋姫は推古天皇のことだ。つまり、美月は天皇家の末裔だ。俺達には正当性がなくなる。いや、物部にはもう正当性がなくなる。これが最大のパートナーだという理由がよくわかった。
「だが、俺達は引かない」
守人が前に出てきた。そして、続けて言う。
「勝負だ、稲目!」
宣言された。俺はそれを肯定する。
「いいだろう。受けて立つ!」
俺も前に出ていく。これが俺達の最終決戦だ。これで長き因縁に決着をつけられる。
「イナ……」
美月が心配そうに見守っている。それは隣りにいるイヨも同様だ。俺は2人に対して言う。
「勝ってくるから心配するなよ」
2人は無言であったが俺にはそれだけで十分であった。俺は、守人の前に行く再び対面をする。
「行くぞ守人!」
「受けてやる」
「「はあああ」」
俺達蘇我と物部の関係はある日神様が突然現れて変化した。俺の人生も変化した。神様は人の人生を変えるものである。俺達はそれに導かれただけなのだ。
(完)
やや打ち切りとなってしまいました。今まで読んでくれた方はありがとうございます。これからもがんばっていきたいと思いますのでよろしくお願いします。




