01 ゲームも出会いも突然に!?
「よろしく」
目の前の男はそう言いながら、私の目をまっすぐに見つめている。
「いや、あの、、えっと??えっ、、??」
困惑する私とは対照的に、男はいたって平然としていた。
私にとって、この状況はあまりにも非日常的だった。
もっとも、非日常なのはVRの中にいることではない。
今の時代、VRに接続することは、別世界へ行くことではなかった。自宅の扉を開けて外へ出ることと、ほとんど変わらない。
そこで友人と会い、買い物をし、働き、遊ぶ。
VRの中で交わした約束も、築いた人間関係も、得た名声も、現実と同じだけの重さを持っている。
ただし、見た目や声などのキャラクターについては、かなり自由なので自身を使う者や仮想空間のための自分など様々である。
仮想と現実。
一応は別のものとして呼ばれているけれど、暮らしている私たちにとって、その境界はとっくに曖昧になっていた。
だから、驚いている理由はここがVRだからではない。
目の前にいる男が、本来なら私の人生とは一生交わらないはずの人物だからだ。
どうして、こんなことになったのだろう。
そもそもの始まりは、ほんの少し前。
接客の仕事を終え、普段どおり家に帰ってきた私、黒崎蘭夢は夕食と入浴を済ませ、寝る準備まで整えてからVRへ接続した。
あとは少し遊んで、そのまま眠るだけ。
最初は、そのくらいのつもりだった。
私はもともとゲーマーで、実力はそこら辺のゲームが好きだけどセンスは別にない。ゲームに慣れているだけだ。好んで遊ぶジャンルもRPGや牧場経営して恋愛するとか、ハンティングアクション、、とまぁ、1人でその世界を楽しむゲームが特に好きなため、VRで今世界中を占めているオンラインゲームがあるのだがそういうものは好まなかった。
しかし、今まで避けてきたゲームに挑まなければならない。友人のユキに誘われたゲームの名前は、『Vivid Horizon』――ヴィヴィッド・ホライズン。
プレイヤーの間では、単に「Vivid」と呼ばれているらしい。公式大会や掲示板では、さらに短く「VVH」と表記されることも多い。
圧倒的に美しいグラフィックと、現実と見間違えるほど鮮やかな世界が売りのオンラインRPG。
穏やかな陽光が降り注ぐ街や草原だけでなく、ネオンに染まる夜の都市、荒れ果てた大地、巨大なモンスターとの激しい戦闘まで、想像できるあらゆる景色が一つの世界に詰め込まれているという。
名前くらいは、私も知っていた。
VR内の広告やゲーム紹介で、何度も目にしたことがある。利用者も多く、世間では大会や有名プレイヤーの話題で盛り上がっているらしい。
Vivid Horizon (ヴィヴィッド・ホライズン)略してVVHでは、良くも悪くも何でもありなゲームだ
。もはや、ゲームとくくるべきではないのかもしれない。
ここでは、プロゲーマーたちが集い上位を競っていたり、誰かと出会い恋愛する人もいれば、バイトをして実際に稼いだり。もはや、ここは現実よりも現実だった。
散々断ってきたのだが、少し一緒に遊べば満足してくれるだろう。という甘い考えでしぶしぶ了解して今に至る。
「さて、時間までにキャラクリか!!」
手慣れたように設定を終えると、完成したアバターが目の前に表示された。
鮮やかな赤い髪に、コバルトブルーの瞳。
髪型や服装には多少手を加えたものの、髪と瞳の色は現実の私と変えていない。
頭上に表示される名前は、ラム。
「そんなに弄らなくてもいいや。知り合いと遊ぶだけなんだし?」
最後に決定のボタンへ触れる。
視界が白い光に包まれ、次の瞬間、私は初めて訪れるオンラインRPGの世界に立っていた。
足元から身体の感覚が消え、次に地面を踏んだときには、目の前に広大な街並みが広がっていた。
高い城壁に囲まれた、石造りの街。
中央には大きな噴水があり、その周囲を大勢のプレイヤーが行き交っている。鎧を着た者もいれば、魔法使いらしい長い杖を持った者もいる。頭上にはそれぞれの名前が表示され、少し離れた場所では、冒険へ向かう仲間を募る声も聞こえていた。
どうやら、ここが最初の街らしい。
自分の手を握ったり開いたりしながら、身体の感覚を確かめる。
操作そのものは、これまで遊んできたVRゲームと大きく変わらない。
けれど、周囲にいる人たちのほとんどが、ゲーム側で用意された住人ではなく、私と同じプレイヤーだと思うと落ち着かなかった。
いつもなら、街の住人に話しかける時間も、次の目的地へ向かうタイミングも、すべて自分で決められる。
しかし、オンラインゲームではそうはいかない。
黙ったまま立っている人にも、その向こうに自分と同じ人間がいる。
そう考えるだけで、意味もなく緊張してしまう。
私は人の流れを避けるように噴水の端へ移動し、友人から指定されていた待ち合わせ場所を確認した。
場所は間違っていない。
約束の時間にも、まだ少し余裕がある。
先に着いたことを知らせようとメニューを開いたところで、友人からメッセージが届いた。
内容を確認し、私は思わず眉を寄せる。
「は???」
急用ができて、ログインするのが遅くなるらしい。
ここまでは仕方がない。
問題は、そのあとに続いていた一文だった。
自分が到着するまでの間、代わりの人にゲームを案内してもらえるよう頼んでおいたという。
「代わりの人って……誰?」
もちろん、独り言に答える者はいない。
私は友人以外のプレイヤーと一緒に遊ぶつもりなどなかった。
初めてのオンラインRPGで、いきなり知らない人と二人きりにされるなんて聞いていない。
今からでもログアウトしてしまおうか。
そう考えたとき、噴水の反対側が急に騒がしくなった。
何人ものプレイヤーが、同じ方向を見ている。
「なんだろ?」
誰かが小声で名前を呼び、その声を聞いた別の誰かが驚いたように振り返る。少しずつ人が集まり始め、遠巻きに何かを見つめていた。
有名な配信者でもいるのだろうか。
それとも、珍しい装備を持ったプレイヤーが現れたのかもしれない。
けれど、私には関係のないことだった。
このゲームを始めるまで、プレイヤーのランキングを調べたことは一度もない。大会の結果にも、有名なプレイヤーにも興味がなかった。
そもそも、今日初めて遊ぶゲームなのだ。
誰が強くて、誰が有名なのかなど、知っているはずがない。
人だかりを避けて別の場所へ移動しようとした、そのときだった。
集まっていた人たちの間から、一人の男が出てくる。
男は周囲から向けられる視線を気にすることもなく、まっすぐこちらへ歩いてきた。
どうして、こっちへ来るのだろう。
私の近くに待ち合わせ相手でもいるのかと思い、後ろを振り返る。
誰もいない。
視線を戻したときには、男はすぐ目の前まで来ていた。
近い。
一歩手を伸ばせば届いてしまいそうな距離だった。
男は私の頭上に表示された名前を確認すると、短く尋ねた。
「ラム?」
突然名前を呼ばれ、私は反射的にうなずいた。
その反応を確認した男は、わずかに目を細める。
「よろしく」
男はそう言った。
目の前に立っている。
近い。
「いや、あの……えっと? えっ……?」
柔らかく流れる金色の髪。その下には、澄み切ったコバルトブルーの瞳があった。
整いすぎていると感じるほど端正な顔立ちで、物語の中から抜け出してきた王子様のように見える。
頭上に表示されている名前は、レオ。
名前を見ても、私には何の心当たりもなかった。
このゲームを始めたばかりの私が知っているはずもない。それ以前に、ランキングや有名プレイヤーに興味を持ったことさえなかった。
ただ一つ気になったのは、彼の瞳だった。
私と同じ、コバルトブルー。
綺麗な色だと思うより先に、その瞳がまっすぐこちらへ向けられていることに気づき、身体が固まった。
一歩手を伸ばせば届いてしまいそうな距離なのに、私の身体はまるで動かなかった。
友人が言っていた代わりの案内役が、この人なのだろうか。
周囲のプレイヤーたちは、先ほどよりも騒がしくなっていた。
どうして彼が初心者の街にいるのか。
なぜ見たこともない女に話しかけているのか。
そんな声が、途切れ途切れに聞こえてくる。
けれど、私には彼らが騒いでいる理由がまったくわからなかった。
目の前の男が、この『Vivid Horizon』で一位の座に立つ有名なランカーだと知るのは、もう少しあとのことになる。
初めまして、紅桜歌といいます。
この物語は、自分の夢で起きたことを形つくるために書き始めました。
なんなら、ほぼ夢の種の部分まで、いろいろ考えながら書くのですが最後まで書ききれるよう頑張ります。
綴る言葉の雰囲気とか書き方がバレてるのは初心者め!で、生暖かく流してもらえたら嬉しいです、、、。
最後までありがとうございました。




