繁殖力が強みなの
随分と旅にも慣れてきたわね。談笑しながら進む余裕もできたわ。
ここは道とはいえ、林沿いの山道だから、獣が襲ってくる可能性は高いのよね。でも罠アイテムの実力は十分に確認できているもの。怖くはないわ。
「俺思うんだけれども、ベルタだったら獣人相手に戦っても勝てるんじゃね?」
本当にこいつは。言うに事を欠いて、乙女をなんだと思っているのかしら。
「なにバカ言っているのよ。かよわい乙女が戦えるわけないわ」
そりゃあんたよりはマシよ。でも獣人が相手とかありえないわ。獣人と人じゃ勝負にすらならないといわれるほどに身体能力差があるのよ。獣や賊除けの罠アイテムですら獣人相手は対象外だわ。
「我が加護で強化されておるとはいえ、ベルタの筋力は人の域を凌駕するほどに高いな」
ぶ。そんなお世辞は聞きたくないですね。むしろ侮辱の意味にすらなりかねませんよ。
「ガルマさんまで! かよわい乙女にかける言葉じゃないですよ」
そりゃ筋力だけは村でも一番でしたよ。村を出てからも鍛え続けてはいますね。でも人の域を凌駕だなんて、さすがに大げさすぎますよ。
「事実だ。純粋な筋力勝負であれば、ベルタにも勝ち目はあろう。だが戦いとなれば別だ」
筋力では獣人に勝てる可能性があるのですね。ガルマさんから頂いた加護とはそれほどまでに……
もちろん戦う気なんてありませんよ。そんなことのために身体を鍛えたわけではありませんからね。
「やっぱ獣人って強いんだな」
そっか。やっぱり記憶がないから、その辺りの認識も知識不足で弱くなっちゃうのね。
「うむ。筋肉だけみても、耐久力や瞬発力や回復力で比較にもならぬ。筋力だけでは対抗できぬのだ」
あたしも具体的には、どこがどれだけ違うのかなんて知らないのよね。獣人といってもいろいろな種がいるんだもの。でもどの種でも、人では太刀打ちできないほどの強さらしいのよね。
「モーニングスター使ってもダメか」
あぁ、武器を買っていたわね。モーニングスターという名前だったとは知らなかったわ。訳すと明けの明星ってところなのかしら。名前もいいわね。武器屋の御主人さんグッジョブよ。両手斧での酷い命名センスからは、想像しがたいほどにいい仕事ぶりだわ。
木の実や獲物の骨を砕くのに便利そうだと思ってはいたのよ。でも今のところは使う機会がなかったのよね。ガルマさんから加護を頂いた状態だと素手で十分なのよ。やっぱり武器を使ったほうが強くはなるのかしら。武器で殴るという感覚がどうにもイメージをしづらいのよね。それになにより、拳のほうが当てやすいのよ。
「攻防ともに優れておるから鈍器ひとつで覆せはせぬな。硬い毛皮に牙爪、高い五感や反射に俊敏性……」
力任せだけのあたしじゃ、攻撃を当てることすらもできないということですよね。よくわかりますよ。あたしが殴れるのはアルフと親父くらいのものよね。
「ガルマさんが認める強さってすげぇな」
そうよね。少なくとも、トカゲと大差ないとおっしゃりそうな雰囲気ではないわ。人とトカゲの差よりも、獣人と人の差のほうが遥かに大きいということなのかしら。そうだとしたら、とんでもない実力差ね。
でもそれならなぜ、人が支配する世界になっているのかしら。ほとんどの土地は人の支配下にあるわよね。獣人なら簡単に奪えそうだわ。
「竜力を断った状態であれば、我でも村の殲滅はむずかしかろうな」
ちょ。世界を滅ぼせるガルマさんが、村の殲滅すらむずかしいって、おかしくないですかね。
ん? 竜力を断った状態? ……それって矛盾していないですかね。
「え? ガルマさんて、竜力そのものとかおっしゃっていましたよね? 断てるのですか?」
竜力が竜力を断ったら消えちゃいますよね。
「うむ。竜力を生命力としてこの身体を操り、お主たちのように筋力で活動することも可能だ」
ふぇ~。つまり今は、あたしたちのようには活動しておられないのですね。
見た目じゃ全然わからないわ。まぁその力の一端は拝見させていただいたので、疑う余地なんてないですよ。
「竜力を断たねばならない状況もあるのですね」
断たずとも、こうしてふつうに同行していただいているものね。身体を操るときには断たねばならないというわけではないはずよ。
「たとえば力の満ちた地に干渉する場合、竜力で暴発しうると判断すれば断つであろうな」
うん、聞いてもわからない話よね。これは深く追求しなくてもいいはずだわ。
それにしても、今は筋力で活動をされていないとはね。歩き方とか話し方とか、不自然な様子はまったくないわ。顔を見なければ人との区別がつかないわね。
「今はその身体を使っておられないのですか? 普通に動いて見えますし、ずっと使っておられるように見えます」
歩いたり食べたり罠アイテムを使ったり、身体を使っていないようには見えないのよね。
「そうだな。今は竜力である我に身体を漬けて、時の干渉からも護っておる。ゆえに使ってはおらぬな」
へ。ガルマさんが逆立ちをして歩き出したわ。
いや、違うわね。さかさまになって宙を歩いているのよ。まるで地面を歩いているみたいにね。それにどうみても、足元に重力があるかのように、衣服が上に垂れているわ。どういうことよ。
そっか。その身体で歩いているのではなく、歩いているように見せているだけなのですね。人のごとく振る舞うためですか……
ということはやっぱり、正面からは顔を見せておられるのも意図的なのですね。見せる意図があるとなると、今後も人からは避けられるしかなさそうだわ。
「漬けるって、お漬物みたいですね」
漬けているだけで使ってはいないから、向きをどうしようと行動に支障はないのですね。
「ベルタの着想はおもしろいな。実際そのとおりだ。長期保存が目的でお漬物にしておるのだ」
認めちゃいましたよ、このお方は。目的まで同じなのですね。でも長期保存のために漬けておくということは、寿命があるということかしら。
「ガルマさんが不老不死でも、身体には限界があるということでしょうか。身体が滅ぶと透明な竜みたいになるのですね」
いや、あのときの竜の身体が透明だったという可能性もあるのかしら。
「そのとおりだ。力に秀でておるのに着想もよい。ベルタは、生み育ててくれた親に感謝せねばな」
あはは。親までほめられちゃったわ。
「え、へへへ……」
でも、親父を縄で縛ってきたのよ。感謝しろとおっしゃるのなら言えないわね。ここは笑ってごまか――
「でもベルタの親父って、ベルタより弱いぜ。旅に出るときも、モガッ?」
甘いわね。あんたの空気を読まない言動は想定内よ。それに殴る以外で口を塞ぐ方法も考えておいたわ。
「あ~らアルフ、お腹空いていたの~? いいわよ~食べさせてあげるわね~。これも、これも!」
しゃべる気はなくしたかしら。言わなくてもいいってことはわかったみたいね。それにしても、親父があたしよりも弱いとか関係ないじゃないのよ。感謝しろという話だったんだからね。そもそもあんたは最弱なのよ。親父を弱いなんて言える立場じゃないわ。
「というか、どうしてあたしを戦わせようとするのよ」
む。口がいっぱいで話せないみたいね。いいわよ、飲み込むまでは待ってあげるわ。その間によく考えて、これ以上はあたしを怒らせないように説明しなさいよ。
「いやぁ最初会ったときに逆光で顔とか見えなくてさ。ゴリラの獣人かと勘違いしていたのを思いだし――」
ふ。ふふふ。ゴリラですって? あたしが? おもしろいことを言うわよね、アルフったら。おかしすぎて笑いが止まらないわ。
「いいわよぉ? そんなにあたしを戦わせたいなら、あんた相手に戦ってあげるわよ!」
ちっ。先に逃げられたわ。でもあんたの体力で、あたしから逃げ続けるなんて不可能なのよ。覚悟はできているわよね。
「なんでお前って、そうすぐ怒るかな~。俺、本当のことしか言っていないんだけれども」
余計に悪いわよ。本当にゴリラの獣人だなんて思わないでよね。
「思っても口にしちゃいけないことがあるのよ! なによゴリラの獣人って」
別にゴリラの獣人に悪いイメージがあるわけじゃないわよ。でも乙女のイメージからは、かけ離れているわよね。たくましい男の人に対してなら、むしろほめ言葉かもしれないわよ。でも乙女に対してはありえないわ。
「ゴリラの獣人は、お嫌いですか?」
へ。なによ今の声は。女性よね。妙だわ。ここは見晴らしがいいから、近づいてきていたなら気がついていたはずよ。さっきまでは近くに誰もいなかったわ。どういうことよ。声が届くような近くにまで、一瞬で飛んでこれたりはしないわよね。それに音もたてずによ。
……いつの間にか道の端に人が立っているわ。いや、あの風貌はもしかしてゴリラの獣人かしら。え。まさか本物だなんて……
「相変わらずアルフは偶然を必然にするというか…… これもアルフの言う、運命とやらか?」
本物なんですねー。
どうすればいいのかしら。あたしは失礼なことを言っちゃったのよね。
ゴリラの獣人をさげすむ気なんて毛頭ないわよ。でもあたしは、ゴリラの獣人呼ばわりされたことを怒っていたものね。聞いたほうからすれば、ゴリラの獣人をさげすんでいるからだと思うはずだわ。やばい、やばい、やばい。
うっわー。全身が剛毛って感じよ。しかも鋼鉄でできているんじゃないのって質感の見た目よね。そうよ、ガルマさんが認めるほどの強さなのよ。そのくらいの防御力もあるわよね。やっぱり罠アイテムも無意味そうよ。無理無理無理。襲われたら一巻の終わりだわ。
「はじめまして竜人様とお供の方々。ここはわれらが狩場なのですが、なにか御用件でしょうか?」
物腰が柔らかいのはガルマさんがおられるからよね。あたしのことは怒っているはずだわ。どうしよ、どうしよ、どうしよ。
「おー、すっげぇ本物。つよそ~。こりゃ勝てるわけねぇわ」
あんたが変なことを言い出すからあたしが困っているのに、なにをのんきに感心しているのよ。
それどころじゃないわ。弁解をしておかなくちゃね。どう言えばいいのかしら。
「え、いえ、ゴリラの獣人がどうのというんじゃなく、あたしのことがそう見えたというのがその……」
乙女として認められないなんて言ったら、ゴリラの獣人の乙女が怒るわよね。あぁ~もう。なんて言えばいいのよぉ~。
「ふふ、そんなに怯えないで。子どものおしゃべりに目くじら立てたりしないわよ」
ハァ。声が優しいし、きっと本心よね。子ども扱いされるのも、こういうときには嬉しいわ。助かったみたいよ。
まったく、アルフがしゃべると、ろくなことにならないわね。
「我らは旅の途中で通りがかっただけだが…… そうだな、よければ一晩この子たちを学ばせたい」
え。一晩? 獣人のところに泊めていただくのですか。突然すぎですよ。心の準備が……
「承りました竜人様。では村へ御案内いたします。どうぞこちらへ」
そうですよね。ガルマさんからの依頼なら獣人でも即答で受けるわよ。あ~、本当に怒ってはいませんように~。
「あれ? 消えちゃったぞ」
うん、消えたように見えたわ。どういうことよ。どこにもいないわ。
「御案内って言ったと思うわ…… ここってこと?」
村と言っていたわよね。ここはとてもそう見えないわ。ただの山道よねぇ。
「道案内してくれておるのだ。向こうへ歩いていったぞ」
へ。歩いていった?
……見えないほどの速度で歩いたということなのかしら。そうとしか解釈のしようがないわよね。そういえば、現れたときもいつの間にか近くに来ていたわ。あたしには歩く姿すらも追えない速度だというの?
「あははは、こりゃ戦う以前の問題だな」
こんなの、戦う前に死んでいるわよ確実に。
「お話で強さは知っていたわ…… でも破壊力に優れたゴリラの獣人ですら、あんな速度で移動するのね」
種によって得意な身体能力で、人を凌駕する程度だと思っていたのよね。でも全然違う、というか違い過ぎるわ。力自慢なのに、目にもとまらぬ速さってなによ。反則だわ。差別よ。たしかに身体能力では、人とトカゲとの差よりも明らかに大差があるわね。
「獣の身体能力を得た人だからな。知恵で身体能力をさらに伸ばして、活かした成果であろう」
もともと高い身体能力を知恵で伸ばした結果ですか。本当にとんでもないですわ……
ここがゴリラの獣人の村なのね。町並みの規模にみえるわ。でも村なのね。
たしかにほとんどが民家ぽい建物ばかりで、お店らしいところは見当たらないわ。建物のつくりや道具は、あたしの村と同じような感じよね。身体能力と違って、文化的には同じくらいなのかしら。
え。歓迎の宴って、もう準備されていたのですか。あたしたちが歩いている間に済ませていただなんて、手際もすごいわね。
「一晩世話になる」
そういえばゴリラの獣人の方は、ガルマさんに敬意を示していても怯えてはいないみたいね。竜人に関する知識を人よりも持っているのかしら。
「大したおもてなしはできませぬが、なんなりとお申しつけください」
いえいえ。謙遜にもほどがあるわ。とっても大したおもてなしだと思いますよ。さっきお願いしたばかりなのに、これほどの宴を用意していただいているなんてね。人の町じゃありえないですわ。
「へぇこれが獣人の村かぁ。なんかもっと獣寄りを想像していたけれども、人の村と変わんねぇな」
そうよね。違いといえば…… そういえば村なのに農具が見当たらないわ。狩猟の村かしら。でもそれらしい武器や施設も見当たらないわね。畜産の様子もないし、どうやって生計を立てているのかしら。
「獣の身体能力を得た人ってことだから当然かもね。でもこれだけの規模なら町に発展させないのかしら」
生産活動をしなくて規模があるなら、ふつうは町にするわよね。
「十分に身体能力が高ければ設備も不要になる。彼らにとっては人の町以上に発展しておるのだ」
人の町以上に発展している? お店も設備もないのにですか。どういうことかしら。
「でも食料品店くらいは欲しくないですか?」
ここから人の町まではかなり遠いもの。いかに身体能力が高いとはいえ、毎日の食材まで町へ買いに行くには不便よね。村だから拠点もないはずだわ。
「ん~、木の実でも獣でも、すぐに近くで狩れるからねぇ。置いておくとまずくなるし邪魔よね」
村なのに野宿みたいな食生活をされているのね。それで発展しているといえるのかしら。
「そっか。さっきの速さで移動するんだったら、俺が倉庫から食料取り出すより、早く狩ってきそうだな」
あぁ。たしかにそうかもね。倉庫自体が必要ないんだわ。これは人の常識が通用しそうにないわね。
「ふえぇ。じゃぁ狩れないもの、こんな武器とか必要になりません? ……ならないですよね」
うっかりと余計なことを聞いちゃったわね。ガルマさんが先ほどおっしゃっていたことを失念していたわ。牙や爪でもガルマさんが評価するほどだから、素手のほうが人の武器よりも強いはずなのよ。
「そうね、正直素手のほうが強いと思うわよ」
やっぱりそうなのね。まぁその体毛が想像通りの剛毛だとしたら、あの速度で歩いているだけでも軍隊を殲滅しちゃいそうだわ。城壁でも紙のように破れるんじゃないかしら。
「じゃぁ瞬間帰還器とかのアイテムは?」
そうよね。いかに身体能力が高くても、逃げたいときや遠くへ行きたいときはあるはずよ。
「もちろんたまに欲しいときもあるけれども、必要なときに人の町まで買いに行けばいいしね」
そっか。たまにという程度であれば、町までの距離も気にならないほどの身体能力ですもんね。
ハァ。なんだか獣人って、すごすぎじゃないかしら。あたしの認識とは違い過ぎるわ。人って劣等種だったのかしら。
「なにもないみたいなのに、人よりもいい生活をされているのですね…… 人が同レベルの生活を目指すのは厳しそう」
どんなに設備を充実させても、この村の獣人よりもいい生活ができるとは思えないわ。
「落ちこまないで。人の町があるからこそ、私たちも自前で用意せずにすんでいるのよ」
それ、人がいなければ自前で用意するということですよね。なぐさめにはなっていませんよ。
「うむ。人は弱いからこそ、力を補う文明を発展させておる。身体能力が低いおかげで至った成果だ」
あぁ、そういう意味でしたのね。文明の発展は人のおかげですよと。獣人だけなら、つくろうとすら思わなかったということなのですね。
でもそれはそれで、人以外にとっては大した価値がない文明だといわれているようで、やっぱりなぐさめにはなっていないような気がしますよ。
「そうだぞ、もっともっと便利なアイテムつくればいいんだ。速く走れるアイテムとか」
やっぱり、とどめはあんたなのね。
「じゃぁ、あんたがつくってね」
ふぅ。愚痴をこぼすにはアルフが適任ね。少しすっきりしたわ。
「ベルタって俺がしゃべると怒る気がするぞ」
なんだ、わかっているのね。
「なら怒らせないように考えてしゃべってよ!」
しゃべると怒るってわかるのなら、しゃべりの内容が原因だってわかるはずだわ。怒るのはあたしのせいじゃなくて、あんたの無神経のせいなのよ。
それはさておき、人が文明で発展できたのは、身体能力が低いからこそだってことなのね。文明が発展していることは誇らしいわよ。でもそれが、身体能力の低さが原因だと言われると嬉しくはないわね。
「でも能力的に、人は下位の部類なのね。人の町が多いし、むしろ優れた種かと思っていたのよね~」
そうよ。さっきも考えていたんだったわ。どうして人の支配区域が多いのかしら。
「個々の身体能力はたしかに低いけれども、種としての総合能力が低いとは思わないわよ」
あら。人にも誇れる能力があるということよね。
「種としての総合能力? 身体能力じゃないとすると…… 少しは賢いとかあるんですか?」
いや、違うわね。個々のという表現から種としてに変わっているから、強さとか賢さとかの話じゃないはずだわ。でも個々じゃなくて種としての能力ねぇ。合体技でもあるのかしら。
「ん~、賢さって方向なら…… 理性が強いわね。獣人は強い本能が残っていることが枷になったり」
うぅ。やっぱりなぐさめようとしてくれているだけなのかしら。理性を能力とはいえないと思うわ。むしろ理性が枷になることもあるのよ。
「それって種としての総合能力が高いってことになるんですか?」
なぐさめはもういいのですよ。能力が低いのなら低いと、はっきりとおっしゃってくださいね。
「大事なことよ。たとえば獣人は繁殖期にしかその気にならないから、出生率が――」
ちょー! 本当に合体技がきたわ。
「わぁああああ! わ、わかりました、人にも長所があって嬉しーなー、もう十分です!」
アルフもいるのにそんな話はやめてくださいね。一緒に旅を続けているのですよ。おかしなことを考えるようになられては困るのですわ。
アルフの反応は…… 食べることに夢中で聞いてはいなかったみたいね。
いつもなら呆れるところだわ。でも今回だけは評価するわよ。がんがん食べていてね。
でもそっかー。人の支配区域が多い理由は数の力ということなのね。それに人は一帯を開拓しちゃうから、獣人にとっては価値の低い土地になっちゃうんだわ。獣人は自然の恵みをそのまま活用する生活をしているものね。
「この飲みもの、すんげぇうめぇ。おかわり!」
へぇ。お肉があるのに、アルフが飲みものをおかわりするだなんてよっぽどね。
「それはシュワシュワの実を絞ったものよ。採ってくるからちょっと待っててね」
いや、これだけ用意していただいているのですから、ほかの飲みもので十分ですよ。
「あ、どうかお構いな…… く?」
えーと。お断りの言葉を述べている間に採ってきちゃったわよ。きっと村を出て林から採ってきたのよね。たった一言を告げる間すらもなく……
「お待たせ。これがシュワシュワの実よ。気に入ったみたいだから、いくつか採ってきたわ」
待ちたくても待てませんでしたよ。速すぎて。
「あ、あはは、本当にお店どころか倉庫すら要らないですね」
常識という言葉がむなしく感じるわ。理屈ではわかっていたわよ。でも実際に目の前でやられるとあまりの能力差に哀しくなっちゃうわね。だってあたしが直接林に転移できたとしても、あんな速度では採ってこれないわよ。動体視力とか判断速度とか、総合的にけた違いの能力差があるんだわ。
「かってー。これどうやって食うの」
それ、絞って飲むと説明されていたわよね。どうして食べようとしているのよ。
でも、かじれないほどに硬い実を絞れるのかしら。どれどれ。握りやすそうな大きさではあるわね。
「これはね、こうやって握り潰して絞るのよ」
ふむ。へたを上に向けて…… 牛の乳しぼりみたいな感じね。
「おぉ~、さっきの飲みものになった」
あはは。絞る感触が気持ちいいわね。
「なるほど、握り潰したときの感触がシュワシュワって感じですね」
安直な命名とはいえぴったりだわ。口当たりもシュワシュワなのかしら。
「え?」
へ。なんですかその驚いたような反応は。
あたしを凝視しているわよね。あたしが変なことをしたのかしら。言われたとおりにシュワシュワの実を絞っただけのはずよ。
「え? 違うんですか」
なにか手順を見落としていたのかしら。まさか素手で絞ると危険、とかじゃないわよね。いやゴリラの獣人の方も素手だったわ。驚かれるようなことなんて思いつかないわよ。
「あなた、それ素手で握り潰したの」
やっぱり素手でやったのがまずかったみたいだわ。でもそちらも素手でしたよね。
「え? えぇ、真似しただけなのです。いけませんでした?」
真似をさせるために実演して見せてくれたと思ったのよね。
「これを素手で握り潰せるのは、ゴリラの獣人だけだと言われていたんだけれどもねぇ。違っていたわね」
……へ?
「えぇええええ」
あたしの握力がゴリラの獣人並みだということよね。ガルマさんもそうおっしゃってはいたわ。でもこれだけ身体能力差を見せつけられたあとじゃ、冗談だったとしか思えなかったわよ。
「ほかの種は、力持ちの獣人でも絞り器具を使っているわよ」
獣人の中でもトップクラスだというのですね。
「さすがベルタだ」
鍛えてきた成果よ。報われたんだわ。でも、でも……
「なにか嬉しくない」
まさか筋力においては本当に、ゴリラの獣人並みの乙女だなんてね。語呂が悪すぎるわよ。あたしのイメージがぁぁぁ。
「ねぇ。竜人がいるんだったら竜獣人もいるの?」
突拍子もない質問だわ。でもそうよね。獣人を御父上とする方も、きっとおられるわよ。まさか、ガルマさんよりも強かったりするのかしら。いや、力は竜神様そのものというお話だったわよね。
「おらぬな。獣人も因子は人なのだ。獣の身体能力を得た人だと説明したであろう」
同じ人なのに、この能力格差は一体…… ハァ、落ち込んでいても仕方がないわね。
獣人ですら人だとおっしゃるのであれば、外見の近い種はみんな人ということになるのかしら。
「もしかして、エルフやドワーフも同様ですか」
こちらもやっぱり人とは別格の存在なのよね。お話では魔法や技能面で秀でていると聞いたわ。でも力特化のはずのゴリラの獣人が、異常な高速移動をしているのよね。となれば、エルフやドワーフも、人とは総合能力で大差がありそうな気がするわ。
「うむ。亜人はすべて人の因子だな。魔物扱いしておるゴブリンやオークなどもそうだ」
「ぶ」
やっぱり外見の近い種はすべて該当しそうだわ。それにしても魔物までとはね。人よりも下がいたことには喜ぶべきなのかしら。いや、下が魔物だけだとしたらやっぱり哀しむべきだわ。
「先ほどゴリラの獣人が、理性の強さは重要だと言っておったろう」
ここでその話ということは、魔物と理性が関係するということなのかしら。
「もしかして、理性が呑まれると、人とは呼べぬ魔物に堕ちてしまうということですか」
たしかに、ゴブリンに知能はあっても理性はないと思うわ。人が理性を失えばあのようになるとおっしゃるのであれば納得できるかしら。
「うむ。亜人たちは無意識にも、常に理性を保つべく本能と戦っておる。見た目ほどに楽ではないのだ」
本能を理性で抑えるということよね。空腹でも食事をしばらくは我慢するみたいなことかしら。そうだとすれば人も本能に抗ってはいるわ。
でもおそらくは、そんな生やさしい程度じゃないということなのよね。空腹よりも強い衝動が常に襲ってくるとしたらきついわ。しかも本能に流されれば魔物になっちゃうというのなら、たしかにすごく大変よ。
「そっかー。みんな獣人になったほうが楽ってわけじゃないんですね」
常に戦っているとおっしゃったわよね。寝ている間もなのかしら。そんなのは神経が休まらないわよね。想像もしがたいわ。
「人は理性を失っても狂人にすぎぬ。だが獣人はまさに怪物となる。それゆえの厳しいおきてもあろうな」
あの身体能力で魔物になったら、まさに脅威ですね…… 人の世界なんてすぐに消されちゃいそうだわ。
「では精霊や、人以外の動物の因子をもつ竜はおられるのですか」
物語に出てくる竜絡みって、竜神様と竜と竜人だけなのよね。でも人の因子を診るために竜人をつくられているのであれば、人以外の種でもつくられているはずだわ。人には知られていないだけなのかしら。
「おらぬ」
即答ですね。人限定なんだわ。
「なんで? 竜精霊とか名前だけでも格好いいぞ」
おかしいと思うわよね。人とトカゲが大差ないとおっしゃりながらも、人だけを特別扱いしておられるのだもの。
「因子を診る必要がないからだ」
「人は診る必要があるということですね」
なんだかんだおっしゃりながらも、やはり人には期待をされているということなのかしら。
「うむ。人は導かねば、破滅の道を選びかねぬ」
ぐは。特別扱いなのは、要注意で監視対象という意味なのですね。高く評価されているわけではなかったわ。
「……そうでしたね。納得しました」
人は生態系の頂点に立つと学んできたのよ。よもや現実は真逆だったなんてね。一番の落ちこぼれということなのかしら。
「人は半端な知識をもつゆえ、その知識が正しくすべてだと錯覚する。それが愚かさの元凶であろうな」
それはなんとなくわかるかしら。学んだことが正しいと思いこんじゃうわね。あとで間違いに気づいたことは多々あるわ。
「人だけバカってこと?」
あいもかわらずに単刀直入ね。
「そうだな。人は最も愚かな種だ。だが愚かさを克服できれば、最も優れた種にもなりうる」
肯定されちゃったじゃないのよ。最悪だわ。それにしても、最も愚かな種ということは、虫にすらも劣るということよね。きっついわ。
でも克服できれば、最も優れたとおっしゃっていただけるほどにまで、なれるかもしれないのですね。
「克服できるのですか」
バカを治す方法はないと聞いているわ。でもその知識が正しいとは限らないということなのよね。ガルマさんなら、もしかしたら……
「人というものが愚かな種である以上、人のままではなしえぬだろう」
やっぱりダメなのねー。
「では、いつかは滅ぶしかないのですね」
愚かなら護りの大切さも、いずれは見失っちゃうわよ。今まで滅ぼされ続けてきた原因が愚かさだったなんてね。そんなのは、どうしようもないわ。
「そうではない。より上位の種へ進化すればよいのだ」
はい? 人のままでは、なしえぬとおっしゃいましたよね。
あ。人であること超えろとおっしゃるのかしら。
「進化…… そんなことが可能なのですか」
不死化や転生のような、とんでもない話なら聞いておりますね。でも、人が進化できるなんて話は聞いたこともありませんよ。
「さぁな。ただ不可能だと決めるつける理由もないということだ」
はっきりとはおっしゃらないのですね。ガルマさんにしては珍しいわ。
というか、進化すればよいとおっしゃりながらも、その方法どころか可能性すらをも明言されないのは変ね。引っかかるわ。
ん~。人があまりにも愚かすぎて、可能だとは断言できないということなのかしら。わかんないわね。でも進化すればよいとおっしゃった以上は、諦めてはおられないはずだわ。
「だから人の世界を滅ぼしたあとも、人の再興を導いておられるのですね」
バカは治らないと諦めておられるのであれば、導く意味がないものね。ましてあたしたちの面倒をみるなんて、ムダにしかならないことをするはずがないわ。
「実に察しのよい娘だな。お主を見ておると人の未来に希望を感じるわ」
「そ、そんな」
ほ、ほめられちゃったわ。でも喜んでいる場合じゃないのよね。あたしとしては見捨てられないように結構必死なのよ。これは人の存亡に関わる話なのよね。
要点を整理しなおしておくわよ。人が愚かであり、その愚かさが破壊をもたらす芽を育む。つまり愚かさを克服しなければ、いずれは滅びることになる。そして愚かさを克服するには進化するほかない。というところよね。ならば、なんとしても進化についてはしっかりとお聞きしておかなければならないわ。
「でも進化って、人にとっては、とても大切なことなのですよね。直接に教えてはいないのですか」
進化なんて手段が用意されている理由は、おそらく大願とやらへ至るためよね。だって、世界が、つまりは人がつくられたのは大願を果たすためというお話だったもの。ならば、人が大願に至れないとみなされたら終わりということよ。愚かさの問題がなかったとしても進化は必要なはずよね。
であれば、ガルマさんは率先して教えようとなさるはずだわ。それなのに進化の可能性すらも明言されなかったのよ。
到底理解できそうにないことすらも教えてくださるガルマさんにしては妙なのよね。教えられない、もしくは教えるべきではない理由でもあるのかしら。
仮にそうだとしても、進化は、人が滅ぼされるかどうかに関わる最優先課題のはずなのよ。徹底的にお聞きするしかないわ。
「幾度も導いてはおる。だが愚かであるがゆえに、己の愚かさを認められぬのだ」
導いていただいてもダメなほどに愚かなのですね。
「そういうものですか……」
己の愚かさを認められぬ、ね。あたしは自分が愚かだと自覚しているわ。ほかにもそう言っている人はいるのにねぇ。そういう意味じゃないのかしら。
「具体的な方法を説明するわけにもゆかぬしな」
……へ。具体的な方法? それってやっぱり、確実に進化できるということですよね。
「え、進化は可能性だけの話ではなかったのですか? 具体的に方法を説明できるのですか」
さっきとはおっしゃっていることが違いませんかね。
あら。なにか困惑なされているみたいよ。やっぱり矛盾しているわよね。
「……たとえば、愚かではない人、というものをつくることも可能だ」
は? それって、まさか。
「わざわざ人を愚かに創造されたということですか」
それなのに、愚かだから滅ぼすだなんて、さすがに酷すぎるわ。
「我が生まれる前に、人は竜神によってつくられた。愚かにつくったわけではない。無から意思をつくったのだ」
なにかむずかしそうだわ。でも大切なお話だから、ごまかされないようにしっかりと聞かなきゃね。
「無ですか。なにもない、なにも知らないから愚かってことではないですよね」
無知と愚かさは違うわ。無知は学べば正せるもの。治せない愚かさとは別だものね。
「無からつくったのは、自ら進化を選択させるためだ。弱さも愚かさも、人が自ら選んだ進化の過程なのだ」
弱さというのは、人の身体能力が低いことかしら。一番問題になっている愚かさも、人が自ら選んだとおっしゃるのですかね。
どういうことよ。すべての種の中で、人だけが愚かさを選んだということよね。それに愚かさって、どう考えても退化よ。どうして進化の過程なんておっしゃっているのかしら。愚かさを突き詰めれば進化できる、なんてわけがないわよね。
いや…… 愚かであることの愚かさを、身をもって知るために愚かになったとかかしら。あぁ、もう自分でもなにを考えているのかがわからないわね。
ガルマさんのお言葉を思い返して…… そういえば愚かさの元凶は半端な知識だとおっしゃっていたわよね。進化の過程で知識が半端だからということなのかしら。だとすれば愚かさを選んだという言葉とは矛盾が……
あぁ、きっとそうだわ。愚かさを選んだとはおっしゃっていなかったわね。人が選んだのは知識に重点を置いた進化なのよ。その過程として愚かさがあるんだわ。
頭がパンクしそうね。でもやっぱり、ガルマさんはごまかそうとしているわけじゃないとわかるわ。あたしに、そう、自ら考えるように仕向けているのよ。
「自ら選ぶ…… それが進化の方法を説明できない理由でもあるわけですか」
愚かな人が自ら選ぶよりも、正しい選択を教えてくださったほうが早いわよね。やっぱり教えられない理由がなにかあるんだわ。
「そのとおりだ。進化の道へ導くことは可能だ。だが定められた道をひたすら歩ませても傀儡にしかならぬ」
傀儡って操り人形のことよね。進化の方法を教えていただくと人形になっちゃうということかしら。教えてくださらない理由をようやく答えていただけたとはいえ理解不能だわ。
「……ごめんなさい、よくわからないです」
ただ、いじわるで教えない、というわけではないのですね。それはわかりましたよ。教えて進化させても傀儡とやらになってしまうというのが問題なのですね。
「よい。人の側から意識することではないからな」
そちらからは意識されているということよね。直接には教えられずとも、人の進化に期待はしてくださっているんだわ。つまりは、教えないことこそが期待の証なのよ、きっと。
「未来や並列世界の知識を与えることも可能だ。だが教えた時点で、自ら生み出す機会を失うことになる」
並列世界とやらはさておき、未来ってなんですかね。今は存在していない未来の知識をどうやって得られるというのよ。未来がわかるのなら、人が進化するのかどうかもわかるはずだわ。おっしゃっていることからは矛盾ばかりを感じるわね。
でもそうじゃないのであろうことは、なんとなくわかるわ。できもしないことをおっしゃる動機がないものね。きっと、あたしの知識が圧倒的に足りないのよ。人の歴史を何千回も繰り返すほどに生きてこられたガルマさんの言葉を疑う余地はないわ。あたしには理解できないことだらけだから、矛盾を感じちゃうのでしょうね。
となると…… 大切なのは矛盾点を悩むことじゃないわ。どうにかして理解することよ。未来の知識を得ることも可能、うん、そうなんですよね、きっと! で? そうすると自ら知識を生み出す機会が消える、か。そりゃそうよね。
「要は教えてもらうばかりじゃダメってことなのですよね」
教えられないというのは、そういう理由なのね。自らなにかを生み出す能力を磨かなきゃいけないということなんだわ。
それで進化の可能性についても、あたし自身に探求をさせたくて明言はされなかったのかしら。
結局はしつこくお聞きしちゃったから御期待に沿えなかったということよね。それでさっきは困惑なされた様子だったのかしら。でもこれは仕方がないわよ。今後は気を付けるわ。
「そうだ。我らが優れた人をつくったとしても、それは我らの思い通りの行動をするだけ。つまり傀儡だ」
あぁ。あやつり人形ってそういうことなのですね。人工知能みたいなつくりものになっちゃうということなのよ。知識を増やすことはできても、それを活用する知能が設計通りにしか働かないということなんだわ。
つまりは、言われたことしかできないような、竜神様のイエスマンにしかならないということなのよね。そんなものはお話し相手になりえないわ。なんとなくわかってきたかしら。
「そっか。決められたこと以外をするには、自分で考えないといけないのですね」
たしかに、愚かさを治せるとしても、そんなものにはなりたくないわ。
「うむ。学んで得られる知識には経験がともなわぬ」
「知識だけではなく経験が必要なのはなんとなくわかります」
本で読むのと実際にやってみるのとでは、全然違うことだらけだものね。
「経験も他者に習うのと自ら切り開くのではまったく異なる。発想や着想を磨くうえで天地の差が出る」
これもわかるわね。習って実践しても発想する機会がないもの。
自分で発想する力が大切なこともわかるわ。
「前例のない状況から、自分の思いつきで対処できるかどうかに関わるという感じですかね」
いざ未知の困難に直面したときに、まさにおっしゃるとおり、生死をも分かつような天地の差が出るでしょうね。
それだけじゃないわ。答えに至る過程を、試行錯誤の果てに自分で見つけていれば、理解の深さが違うのよ。状況に応じて知識の応用が利くようになるわ。
「うむ。そこまでできてこそ、傀儡ではないと言えよう」
なるほどねぇ。進化すれば愚かさを克服できるというよりも、愚かさを克服すれば進化できるという感じなのかしら。そして愚かさを克服するには、教えられて学ぶことではなく、自ら答えを見つけ出す力を鍛えねばならないということよね。
そうなると、むやみやたらとガルマさんに質問をするのはよろしくないのかしら。まずは自分で考えて答えを出すべきだということよね。
イメージとしては理解できたと思うわ。でも具体的にはどうすればいいのかしら。人の進化なんて聞いたこともなかったから前例がないはずなのよね。自ら考えて発想力を磨けばいいというのであれば、研究者の方々とかが進化されていそうなものよ。それだけじゃ足りないということなのかしら。
「何億年かけても進化できていないんじゃ、あたしが生きている間は無理そうですね」
頂いた知識を子孫に伝えるくらいのことしかできそうにないわ。
「それはわからぬな。時間がかかっておるのは道を違えてきたからであろう。今の人ならあるいは……」
え。進化って、そんなすぐにできるものなのかしら。切っ掛けさえつかめればすぐということみたいよね。
「ガルマさんがそうおっしゃるのなら、やる気出てきました。どうすればいいのかは、今はわかりませんが」
どうすればいいのか。それをここでお聞きせずに、自分で考えるべきなのですよね。それこそが進化への道筋であると理解しましたよ。
「それでよい。成すべきことも為すべきことも、自分で探して決めるのだ。それこそが人のあり様である」
成すべきことも、なのですね。つまりは、大願の前提となるであろう、進化を目指すことすらも強要はされないのだわ。それすらも自分で判断しろとおっしゃっているのですよね。進化の可能性すらも最初は明言されなかったのだから間違いがないわ。そこまで自由に判断させないと大願には至れないということなのかしらね。
ハァ。とんでもなく重いお話だったわ。でも人の未来に希望はみえたわよ。あたしが生きている間にということは、あたしたちか、将来につくるであろう子どもか孫くらいでも進化を目指せるはずだわ。
まぁ、長い歴史の中で、誰にもなせていない偉業を、あたしたちになせるとは思えないわね。
でもあたしたちは、ガルマさんが同行してくださる旅をしているのよ。これは誰にも経験がないようなことのはずだわ。だってそんなお話は聞いたことがないし、出会った人たちはみんながガルマさんをおそれていたみたいだものね。
だからあたしたちが、できるところまでは目指して、成果を伝えるくらいのことはしなくちゃいけないのよ。
それはアルフにもわかって…… 寝ているわ。超大切なお話だったというのに困ったものよ。明日はみっちりと教えなきゃいけないわね。
さて、眠りに落ちる前に、しっかりと整理をしておかなくちゃいけないわ。一番大切そうなのは、進化をしなくちゃいけないということで、そのためには愚かさを……
横になってむずかしいことを考えていると…… ね…… む…… くぅ。




