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「ああ、なっちゃん」
ジャージにTシャツという部屋着で立っていたのは祥平。離れたところにいた私はほっとした。
「とりあえず話があるから、中に入れてくれる?」
視線を私に向け、開口一番そういう藤崎。いや、それは突然すぎなんじゃ・・・
「えーと・・・」
祥平が私を見て、ようやく私の存在に気付いたようだった。そして祥平の顔が曇り始めるのを私は見逃さなかった。
「いや、また今度じゃだめか?」
どうやら私から逃れたいようだったが、
「いい加減、腹くくれば?」
藤崎の冷たい一言に
「分かったよ・・・」
と苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
祥平の家の居間に通され、机を挟んで向かい合わせに座っている。祥平が向かいに座り、私の横には藤崎が座っている。隣は台所なのだろうか。ポツンと水道から雫が垂れているような音がする。あと、聞こえるのは、外にいるピチチ・・・という鳥のさえずり。
そんな些細な音までが耳に入るということは、それだけこの場が静寂だということだ。
まるで面接でも始まるのか、という雰囲気そのものだった。
その重苦しい空気に耐え切れなくなり、私が口を開いた。
「祥平、風邪はもう大丈夫なの?」
「ああ、俺は大丈夫だけど」
「じゃあ、なんで学校を休んでたの?」
勝手に心配していたのは私だが、ついきつい口調になってしまった。
「いや、ごめん・・・母さんが寝込んでいたから」
「お母さんが・・・?」
不意に担任の言葉が頭に浮かんだ。風邪が長引いているらしい、というのは祥平のことではなく、母親のことだったのか。祥平の父親は単身赴任で県外にいる。たまには帰って来るらしいが基本的に祥平は母親と二人暮らしだ。
殊勝な様子の祥平に申し訳なくなった。
「ごめんなさい・・心配だったから」
「いや、別にいい」
なんだか謝罪がお互いに成立したことで、穏やかな雰囲気に戻ってきた。
些細なすれ違いが元通りになり、まあこれで良かったかな――――と思い始めていた。