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ゆすられる俺達

どれだけこの森に入っていたのだろうか。

辺りはすでに闇に包まれており、昼間の森よりも不気味さを増していた。


俺達は大猪の首を討伐の証明品として刈り取り、森を出る。


月が出ていることを考えると真夜中のようで、実際にこの間露店で購入した懐中時計の短針は、11時を指し示していた。



道中 サラとユリに散々「アンタ達は何者なのよ?」と聞かれたが、俺達は沈黙を貫いた。

勿論宿に着き、落ち着いたら話してやるつもりである。


一時間程歩くと俺達の前に篝火が、姿を現した。


サルヴァの町の門番の一人の「ベガ」は言葉を失った。


ついこの前、この町にふらりとやってきたオークとハイエルフが、大猪の首を肩に担いでやってきたからである。


後ろには長槍を抱えた少女と、黒髪の小柄な少女がいた。


ただならぬ雰囲気を醸し出しているその一行を、オレは震える声で引き止めた。


「止・・・止まれッ!!」


膝小僧が笑い、第六感が「コイツ等に関わるな!」と警笛を鳴らしている。


「どうした?」


大猪の首を担いでいるオークが答える。

その声には威圧や敵意は感じられず、ただ止められた事を疑問に思っている様子だった。


「その肩の“モノ”はどうしたのだ!? 言えッ!!」


オレの声が裏返っていたが、そんな事はお構いなしにオークは答える。


「アーマードボアーだよ。 森で衰弱しているところを4人で仕留めたんだ。

今から冒険者ギルドへ報告しに行く所だ。 通してくれないか?」


そう言ってオークはギルドカードを掲示する。

その言葉に嘘偽りはないと判断し、オレは町の門を開いた。


「感謝する。」


オークがそう言うと奴らはスタスタと町に入っていた。

その姿を見届けるとオレの体を脱力感が襲った。



「ディオール、めっちゃ警戒されてたじゃんwww」


町の門を潜ると、となりでモナカが話しかけてきたが、姉妹は黙っていた


「まぁ、確かにビビるだろうな。 しかしこんな時間だ、この町の人間に見られずに済んだ。」


俺達は誰もいない広場を通り抜け、冒険者ギルドへ向かった。


冒険者ギルドの扉を開けて中を見渡すが、誰もいなかった。


カウンターに備え付けてある呼び鈴を鳴らし、受付の者を呼んだ。

暫くすると、いつもの茶髪の男性が「申し訳ありません!」と言いながらカウンター奥の扉から出てきた。


すると男性は俺の肩に担がれている“モノ”を見るとギョッとした。


「それはアーマードボアーですかッ!?」


俺がそうだと答えると、男性は「支部長を呼んできます!」と言って奥に駆けていった。


数分程経ったところで、俺達4人は2階の会議室の様な部屋に通された。


大きな木のテーブルに椅子が十脚、上座には身なりの良い屈強な男性が座っていた。


「ここの支部長を務めている、ダリオだ。 君たちがアーマードボアーを倒した冒険者なのだろう? すまないがその首を少し見せてくれ。」


俺が首をテーブルの上にドスンと置くと、ダリオは一瞬だけ首を見て、もう結構だ。という手振りをした。


「確かに本物のアーマードボアーの首だ。通常ならここで君たちに褒賞金を渡して帰ってもらうのが、今回はそうは行かない。

 アーマードボアーの討伐は『Cランク』相当の依頼だ。 しかし君たちは『Fランク』。

どうやってコイツを倒した?」


そうダリオは聞き、いまだ立ったままの俺の顔をまじまじと見た。

おそらくダリオは、『一番屈強な体格をしている俺が仕留めた。』 そう判断したのだろう。



「俺達は今日、ダーティーウルフの討伐をしに森へ向かった。

そこの森の奥で、ダーティーウルフ数十匹とコイツが縄張り争いをしていたんだ。

ダーティーウルフの群れは壊滅していて、コイツも満身創痍の怪我を負っていた。

俺達は名を上げるチャンスだと思ってコイツに切りかかり、死闘の末コイツを仕留めた。」


少し考えれば分かるバレバレの嘘である。

ダーティーウルフが束になって襲ってこようが、ア-マードボアーなら楽々と撃退できたことであろう。


俺はこんな駆け引きをしたことは一度もなかったし、背中に伝わる冷たい汗を抑え、ダリオから目を逸らさない様にするのが精一杯だった。


するとダリオはニヤリと笑い、俺達に言った。


「ふむ。手負いにしても君達はアーマードボアーを倒せる実力があると見た。

どうだ、昇格試験を受けてはみないか?

まぁ今日はもう遅い。 詳細は明日またと言うことでどうかな?

おっと、まだ名前を聞いていなかったね。教えてくれるかい。」


俺達はそれぞれ名前を言いギルドを後にした。


「ディオール。上手く騙せたみたいだね!!」


脳天気なモナカのその言葉を俺は否定した。


「いや、あのダリオとか言う男は俺が嘘を付いていることを見破っている。」


「えっ! マジかよ~。 やるなぁあのおっさん!!」


「ちょっといつになったら説明してくれるのよ!!!」


今まで空気だったサラがついにブチ切れた。


「サラちゃ~ん。もう少し声のボリューム落としてよ ねっ?」


モナカが火にガソリンを注ぐ発言をする


「うるさい!! ユリ!! アンタもなんか言うことないの!?」


するとユリが興奮する姉をなだめるように言う。


「サラお姉ちゃん。私達はディオールくん達に助けられたんだよ? お礼を言うことはあっても怒ることはないんじゃないの!?」


ユリが大きな声を出して怒るところははじめて見た

サラもこんなユリの表情を見たのは初めてだったようで、少し涙目になっていた


俺はサラとユリの頭に軽く手を置き、優しくいった。


「とりあえず俺達が泊まっている宿に行こう。そこでお前の疑問に応えてやるよ。」



俺達は冒険者ギルドを出て、ゆっくりと宿へと向かった。





「「はぁ!?!? 異世界人!?!?」」


「ちょっと二人とも声が大きいって!!」


「「ごめんなさい。」」


俺達は二人に自分達が異世界人であることを説明した。


この世界と似たような世界からやって来たこと、元の世界に戻る方法を探し旅をしていること。


いつかはバレるとは思っていたが、こんなに早くバレるとは思わなかった。


まぁ得に困ることは今のところないし、邪魔する奴はぶっ飛ばせばいい。

なんか危ない考えが一瞬頭をよぎったが、無視をした。


その後も「その腰に付いている麻袋はなんだ!」とか「あの武器はなんだ!」と質問された。


麻袋は中に物が収納できる異世界のマジックアイテムだと伝え、ミョルニルは俺が持っている特大武器の一つだと説明した。



武器の話のくだりになるとサラとユリの瞳がキラキラと輝き、二人で何か相談し始めた。


「おーい。相談は終わったか?」


俺がそう言うとサラは立ち上がり、腰に手を当て俺を指差し驚くべきことを宣言した。


「まぁ事情はわかったわ! どうせアーマードボアーを倒したことはいつか町の住人に知られる。

だから明日にはどうせこの町を離れるつもりでしょ?

だけどおっさん達も秘密を知っている人間が居ては不安でしょ?」


「まぁ確かにそうだなぁ」と俺が相槌を打つと、サラは続けて喋り出す。


「だから取引よ! 私達はおっさん達の旅に付き合ってあげる。

その代わりに何か武器を寄越しなさい!!」



これは取引なんかじゃない“脅し”である。

俺はベッドに横になっているモナカを見た。


「いいんじゃない? どうせディオールは特大武器しか使わないんだし。

それに旅も危険があるかもしれないじゃん?」


サラとユリが目を先程以上にキラキラさせている。

女の子のこういう表情に男と言う者は弱いのだ。


「しゃーねーなー! 長槍と弓でいいか?」


「「うん(はい)!!!」」


俺は意識を集中させウィンドウを表示させる。


武器のカテゴリを選択して、「長槍」と「弓」を絞り込みにかける。

そこでサラとユリにあった武器を二つ選び、腰のアイテムポーチから取り出した。



俺が取り出した武器の名前は「クリムゾンパイク」と言う長槍と「天武の剛弓」と言う和弓だった。


「クリムゾンパイク」はその名のとおり強力な火属性の魔力がこもった漆塗の長槍であり、

見た目こそ地味だが、魔人イフリートが持っていたとされるユニークウェポンである。 



「天武の剛弓」は見た目は木で出来た和弓でかなりの筋力が要求されるが、コンポジットボウを自在に操っていたユリならば扱えるだろうと思い、この武器にした。


ちなみに素材は世界樹であり、その威力・性能は折り紙つきだ。


その二つの武器をサラとユリに渡す。


サラは長槍にこめられた尋常な魔力が感じられるようで、おぉ!と感嘆していた。


ユリは握りに巻かれたなめし皮の硬さを確かめていた。


「「ありがとう(ございます)」」


「やったわね!ユリ!! レベルも上がっただろうし私達、この町最強かもね!!」


「うん!やったね サラお姉ちゃん!!」


俺はサラの言葉に疑問を感じた。


「なんだサラ。お前達は自分達のレベルが分かるのか?」


「今ココじゃ分からないけどね。」


そう言うとサラはどうやってこの世界の住人がレベルを測るのか教えてくれた。



なんでも冒険者ギルドのある町の教会には特別なクリスタルが存在し、それに手をかざすと自分達のレベルが確認できるらしい。


勿論、第三者からは見ることは出来ないようになっているらしい。


「なんだそんな面倒なことをいちいちやってんのかよ。この世界は!」


そういうとモナはアイテムポーチから「力の秤」を取り出しサラに投げ渡した。


「なにこれ?」


「いいから、いいから! 摘まんで念じてみな!」


モナカにそう言われ、カードの端をサラが摘むと白い文字が浮かび上がった。


「うわっ! なにこれ?」


カードにはレベル:1328 と表示されており、その下には筋力や俊敏の値が表示されていた。


どうやら俺と同じく、筋力が高いステータスとなっていた。


「それは“力の秤”と言うアイテムだよ。」


「へー そんな便利な物があるんですね。」


モナカはエルフ族の物であることを伏せてサラとユリに説明する。


「は~い。次はユリちゃんね!!」


サラが手を離すと数値や文字は消え、元の黒いカードに戻った。

それを確認すると妹のユリに渡す。


ユリもカードを摘むと、同じく白い文字が浮かび上がった。


レベル:1319 と表示されており姉よりは少し低いが、筋力も十分にあり驚くことに、魔力の値が群を抜いて高かった。



「おいモナカ~。 魔法使い誕生かもよ?」


そうかー 杖用意しなきゃなと言ってモナカはユリにウィンクをした。

あざとい野郎だ。


「はい。ではお返ししますね。 ちなみにモナカくん達のレベルはいくつなんですか?」


「それ私も気になる~!!」


ユリが小首をかしげて、サラがずいっと前に出てきた。




「あー 65000ぐらいかな?」




「「・・・・・・は?」」




「だからろくま「嘘ね!!」


「だってそんなのいくらなんでもありえないじゃない!!」


サラが鼻息を荒くしてモナカに突っかかる。


「まぁ見せてやれよモナカ。それが一番早いだろ?」


「了解~」


そういうとモナカは「力の秤」の端を持ち、大げさにサラとユリの顔の前に近づけた。



「はぁ!? 魔力48000って・・・アンタ化け物なの!?!?」


「すごいですねモナカさん・・・」


サラは大きな眼をさらに見開き、驚いている

ユリは凄すぎて声も出ないと言う感じだ。


「ディオールくんも魔力が高いんですか!?」



「いや、俺が使える魔法なんて下位の治癒魔法ぐらいだ。」


「じゃぁ何が凄いって言うのよ!!」


サラはかなり興奮しているようで、少しケンカ腰になっている。


「筋力だな。 56000程あったかな?」



「「・・・・・・」」



正直この反応は見飽きた。

サラとユリは鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。


するとサラは額に手をやりため息をついた。



「まぁ、おっさん達が本気を出せばこの世界が滅茶苦茶になることは分かったわ・・・」



「本当は凄い人たちだったんですね。お姉ちゃん・・・」



「まぁそう言うことだ、今日は夜も遅い。 宿まで送っててやるよ」


「明日以降はどうするの?」


その質問に俺はすぐに答えることが出来なかった。


正直あまり考えてはいなかったのだ。


褒賞金も貰っていないからと言って困ることはないが、この町を出るにしても行き先がない。



「ダリオとの約束を破るのはマズイか?」


俺がそう言うとユリが険しい顔をして答えてくれた。


「そうですね。支部長直々ですし、どの町に行っても大概ギルドはありますし、何よりディオールくん達は目立ちすぎます。」



ここで俺達が「ヒューマン」を選ばなかった事が裏目に出てしまった。


「ヒューマン」はその名の通り、人間族である。

特に特徴はなかったが、美形が作れるということで人気の種族であった。



「まぁなんとかなるってディオール! とりあえず金貰ってから考えようよ!!」



いつも軽はずみな事を言うモナカであったが、今回はそれしかないだろう。



「それもそうだな・・・明日も早いだろうしいい加減送って行くよ。」



「あー・・・それなんだけどね私たち、昨日の分までしか宿泊代払っていなくってさ。」



「「つまり?」」





「「この部屋で寝かして下さい!!」」




俺達の初体験(女の子と同じ部屋で寝る)は異世界で達成されたのだった。


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