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 第4章 選んだあとの距離 第2話 現地実技 -実技後会議- 1/2

 


 訓練校に戻ると、

 候補生たちは、そのまま解散となった。


 それぞれが自室へ向かい、

 汗と埃を落とし、

 今日の実技を言葉にしないまま

 ほんの、ひとときの休息に入る。


 彼らにとって

 ひとまずの「区切り」。


 まだ、一日は終わらない。


 再び身なりを整えて講義室へ向かう。



 彼女たちの「区切り」の時間

 日が落ちきる寸前の校舎の奥では、

 講師たちは静かに集まり始めていた。


 記録と判断だけがものを言う時間──


 

 


 会議室は、簡素だった。

 無駄な装飾もなく、白い壁と長机、背の硬い椅子が並ぶだけの空間。


 疫病都市での実技訓練を終えた直後ということもあり、空気にはわずかな疲労が混じっている。

 消毒薬の匂いが、まだ衣服に残っていた。


 長机の中央に、記録板が整然と並べられていた。

 候補生十四名分。

 減ったとはいえ、例年より多い数だ。


 マルコは椅子に深く腰を下ろし、指先で記録板を一枚ずつ押さえた。

 重みを確かめるように、ゆっくりと。


「まず、全体から」


 淡々とした声だった。

 感情を削ぎ落とした、評価の声。


「これまで脱落者が出たのは想定内だ。

 疫病都市は、ふるいとしては重い。

 だが──」


 そこで視線を上げる。

 同席する二人の講師へ。


「ん……。思ったより立っていたな」


 ラファエルが、短く息を吐いた。

 背もたれに体を預けたまま、天井を一瞬仰ぐ。


「奇跡の使い方は荒い。

 だが、逃げなかった。

 使いすぎた者も、使えなかった者もいる。

 だが、全員、現場から目を逸らしていない」


 その言葉には、わずかな評価が滲んでいた。

 イザベラが、手元の数値を確認しながら補足する。端末の光が静かに彼女の指先を照らす。


「奇跡行使回数は平均より多めです。

 ただし、無効・過剰・誤判定も多い。

 一方で、判断停止に陥った候補生はいませんでした」


 マルコは、ゆっくりと頷いた。


「“正しく”はなくていい。

 “離れない”ことが重要だ。

 ここで折れる者は、次へ進めない」


 記録板を入れ替えながら、全体を俯瞰する。


 奇跡に縋った者。

 奇跡を恐れた者。

 判断が遅れた者。

 勝手に動きすぎた者。


 どれも、想定の範囲内だった。


「疫病都市は、奇跡を求めすぎる場所だ」

 マルコが言う。


「だからこそ、ここでは“使ったか”より、“どう迷ったか”を見た」


 ラファエルは腕を組んだまま、低く応じた。


「迷っている間も、現場に立っていたかどうか、な。

 逃げ場は、いくらでもあった」


 イザベラが一枚、記録板を裏返す。

 裏面に記された細かな注記が現れる。


「評価は、現時点では保留が多いです。

 明確に落とす理由も、強く上げる理由も、まだ不足しています」


 マルコは、それを否定しなかった。


「それでいい」


 そして、一拍置いてから言う。


「では、個別に触れる」


 空気が、少しだけ変わる。

 机の上の視線が、自然と一箇所に集まった。


 



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