8話 女神からの…お返し?
ちょっと長くなったので分割します。
(朝の6時か……)
土曜日の朝、いつもよりも早く目が覚めた俺は、タイマーを見てそんな事を思う。
(寝るか)
朝早起きしたのは良いことだ。だが、こんな朝早くに起きても特にすることが無いので、俺は再びベッドに潜る。
「休日…最高」
そんなことを呟いた俺は再び意識を手放すのだった。
◇
"ピンポーン"
「ん」
目が覚めたのは、玄関前に設置されているインターホンが鳴ってからのことだった。
その音で意識が覚醒した俺は、伸びをして起き上がり、タイマーを手繰り寄せる。
(ん〜結構寝たか…)
タイマーには8時と表示されており、起きるには丁度よい時間帯。
ベッドから出て玄関前まで向かう。
「はーい、どちら様…です……か?」
どうせ近所のおばちゃんが回覧板を回しにきたのだろうと思い扉を開けたのだが、なんとそこには予想だにしていなかった人物、那珂花が立っていた。
「…那珂花さん?こんな時間にどうした」
「朝早くにすみません。家政婦の件のことで話しておきたいことがありまして、少々お時間を頂けないでしょうか」
那珂花が家政婦の件と言ったことで、ようやく思い出した。
確か、家政婦の仕事は今日から始まるのだ。成程それでこんな朝早くに……
「事情はわかった。それで何処で話をするんだ?」
「え、ここですよ?」
そう言って那珂花は俺の方を指差す。正確には俺の後ろだが。
「え、ここ?」
「えぇ、何か問題でも?」
「いや…問題というか……なんというか……」
俺が歯切れが悪いのを、不思議そうにみる那珂花。だが突然「あぁ」と頷いて、次にとんでもないことを言いだす。
「私は、そういう本があっても気にしませんよ?」
「いや、違う。断じて違う」
なんてことを言うんだこいつは……。
ってか女子がそんなこと言うもんじゃないだろうに…。
それに、俺の部屋にそんな物はない。
…ここは1つ、男の危険性というものを教えなければ。
「那珂花…もし俺がお前を襲ったらどうするんだ?」
「襲う…ですか」
「あぁ」
勿論俺にその気はない。
そして俺の発言を聞いた那珂花は考えるような仕草を取る。
よし、このまま考えを改めてくれ〜。
「私、柔道黒帯なので」
「…は?」
だが、那珂花から帰って来た返事は、俺の予想とは全く違うもの。てっきり抵抗感を覚えて引いてくれると思ってたんだが。
「いや、でもなぁ」
「というか、襲う気のある人は事前に忠告などしませんよ」
む、確かに言われてみれば……。
そう言われてしまうと、俺は押し黙ってしまう。
「それでは、失礼して」
「ちょっ、待!」
部屋に入れない為の口実を考えていたのが仇になってしまった。
俺がボーッとしてる間に那珂花が俺の横を通り過ぎて部屋に入ってしまった。
……そう、入ってしまったのだ。
「なんですか……この部屋は」
「あちゃ〜」
普段なら柔かに誰にでも笑顔で対応する、あの那珂花が絶句していた。
それもそうだろうこんな部屋を見せられては。
ちなみに俺が那珂花を入れたくなかったのは部屋がとてつもなく汚いというなんの変哲もない理由である。
「木之原さん、先日あぁ言いましたけど、きちんと家政婦としての仕事はできるんですか?」
「料理はできるんだけどな」
「掃除の腕前の程は……?」
「ははは」
那珂花が心底心配そうな顔で見てくるが、乾いた笑いで誤魔化す。
これに関しては本当に何にも言えない。
とりあえず俺は那珂花から顔を背けるようにして、チクチク刺さる視線から逃げる。
「はぁ、全く…これじゃ話すらできませんね」
「仕方ありませんね」と言って那珂花が自室へと戻る。
その場に置かれたままになっていた俺だが、2分程すると那珂花が右手に何かを持って戻ってきた。
すると、俺の前に来てその何かを押し付けるようにして渡してきた。
「掃除、しますよ」
いきなりそう言われたので、俺はポカンとしてしまうが、
「これは…」
渡されたそれを広げてみるとゴミ袋のようだ。
どうやら本気で今から掃除をするらしい。
「いや、俺のことだから人に手伝ってもらう、ってのはな…」
自分のことは、自分でやる。そう言おうと那珂花に声をかけようと思ったのだが、
「……"突然湧いた幸運"とでも思って下さい」
「!」
聞き覚えのあるセリフ。それは俺が昨日、那珂花に言った言葉。
「ほら、ボサっとしてないで早くして下さい」
「あ、あぁ」
ボーッとしてたら那珂花に怒られてしまい、急いで部屋に入る。
一体これからどうなるのだろうか。そんな一抹の不安を抱えながら那珂花の後ろ姿を見る俺であった。