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50.終章・後日譚、ある夜の仲の良い二人の兄弟の密か事

「と、いうことで、王族の地位を捨てるなどと世間を騒がせた王弟殿下の処罰は、内偵の功績と差し引いて、もてる全領地の没収、及び一年の王宮への出仕停止くらいで妥当かな」


 大騒ぎとなった宮廷の収拾をある程度つけた、とある日の夜、現王リヒャルトの寝室で。

 久しぶりに兄弟水入らずになった王家の二人は、暖炉の前に座って離れ離れだった時間を取り戻していた。


「お前の今までの行動が擬態であったと皆には納得させて、ビアージュ伯爵たちも処断待ちの状況に追い込めたが。やはりお前にも何かしらの形で世を騒がせた罰を受けてもらわなくてはならんからな。ここまですれば皆も文句は言えまい」


 王手ずから、弟の包帯を取り換えながら、リヒャルトは首をひねる。


「少々厳しいのは私が身内にも甘くはない王との印象付けのためだから我慢してもらうぞ。お前はカストロフ家に入り婿するのだし、さすがに領地はいったん王家に戻してもらわねばならぬしな。ああ、心配するな、領主の後任は良い男を人選する。何しろこの二年、可愛いお前を支えてくれた領民たちだ。私からも感謝の意を表したい」

「つっ、兄上、きつすぎます、考え事をしながら包帯を巻かないでください」

「ああ、すまんすまん、昔はお前もひょろっこくて女の子みたいだったのに、いつの間にかたくましくなったなあ。もう私の背を抜いてしまうのではないか?」

「……もう成長期は終わっていますよ。いつまでも子ども扱いしないでください、兄上」


 替え終わった包帯の上からシャツをはおりながら、ラヴィルが苦情を言う。


 城を脱出する際、レミリアをかばって背に礫を受けた。幸い血は出なかったので彼女には気づかれずにすんだが、少々、骨を痛めたようで、こうして固定されたほうが動くのに楽だ。


 リヒャルトが呆れた顔をした。


「ここにたどり着くまでの四日間、よくもまあ手当もせず、痛みを我慢できたものだ。まったく見栄っ張りなのだから、お前は」

「見栄の問題だけじゃありませんよ。レミリアは心配性ですから。自分をかばって俺が怪我をしたとなれば、絶対、あの求婚はでてきませんでしたから」

「……そこまでして欲しい相手か。これで幼馴染四人の内独り身は私だけだな。羨ましい気もするな」


 リヒャルトがちょっと寂しそうな顔をしてから、慣れない手つきで余った包帯や鋏を片づける。


「なあ、思うのだが。こうなる前に、お前がレミリアにさっさと求婚しておけばここまで騒ぎを大きくしなくてもすんだのではないか?」

「さっさと求婚して、あのレミリアがうなずくわけないでしょう? 自分から俺を獲得しなくてはならない状況に追い込まないと」


 何しろ、迷惑をかけている、そう思ったとたんに領地にひっこみ、社交界デビューすらしなかった娘だ。思い込んだら一直線なところは、本当に変わっていない。兄ディーノといい勝負だ。


「だからこそ、彼女を得ると決めた時から、兄上と連絡を取り、あの玉座の間での状況をつくりあげたんです。ユリアナ王女も納得してくれて、テオドラを引き込む許可も得られたので助かりました」

「すべて計算の内か。お前みたいな男に好かれたとは。レミリアも苦労するな」


 リヒャルトがあきれかえる。


「だがもしレミリアがあの時、覚悟を決めて動いてくれなかったら、私はお前を失うところだったのだぞ? 寿命が十年は縮んだ。彼女には感謝しないと。ラヴィル、私はもうこりごりだ、こんな危険な橋を渡るのは。お前は本気で反王派を道連れに死ぬ気だっただろう」

「しかたありません、本気でやらないと彼女は嘘をすぐ見抜いたでしょうから、ですが命を賭けるだけの価値はありました」


 満足げにラヴィルは笑う。


「あの時のレミリアの顔。お前は私のものだと言って私だけにささやきかけたあの、得意げな顔、あれが見れただけでも待ったかいがありました。幼い頃、自覚のないまま俺の心を射抜いてくれたんです、責任はとってもらわないと」


 ああ、あの時の顔を皆にも見せたかった。あ、いや、あの顔は俺だけのものでいい、とのろけている弟を前に、兄はつける薬がないと、深いため息をついた。


「しかし、お前を入り婿として送り出すことになるとはなあ。考えたこともなかった」


 しみじみとリヒャルトが言った。


「お前、根に持つタイプだからな。ディーノをかばいきれなかったからといって、カストロフ家の親族たちをあまりいじめるなよ。あの方々もいろいろ苦労しているのだから」

「分かってますよ、内助の功は得意なんです、家庭内不和などおこしません。妻を仕事に送り出した後は、きっちり家を守ってみせます。俺の持てる力のすべてを使ってね」


 裏から手を伸ばして愛妻に敵対する者はすべて潰すつもり満々の弟に、リヒャルトは頭を抑える。幼い頃の刷り込みと言うのは怖い。


「まあ、これでお前たちはいいとして、後はディーノだな。早く彼とユリアナ姫を堂々とこの宮廷に招けるようにしてやらないと」


 為すべきことは多い。これからも苦難は多いだろう。だが乗り越える。この愛すべき弟を失わずにすんだのだから。


「まあ、とにかく。四人がまた一緒にいられることに乾杯」


 さあ、飲めと。

 リヒャルトは弟に酒の入った杯を手渡した。


8月10日、お礼の番外編、投稿しました。よろしければどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n4812fr/


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