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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
1章 自然科学部
20/51

19話 記憶

回想からスタート致します。念の為。

19話 記憶


 ――1年と6ヵ月前


 その日はとても寒い日だった。出張から帰った大東マコトは、妻のサユリの誕生日を祝うべく少し奮発したワインを片手にタクシーに乗り込んだ。


 「お客さん、ご機嫌ですね。何かいい事でもあったんですか?」


 「お? 分かる? 今日は妻の誕生日なんだよ。今頃は息子と二人で僕の帰りを待ってる筈なんだ。仕事の方も手応えアリでね! いやあ、こんないい日は久し振りだね! 奮発するから急いでくれるかい?」


 「それは何よりですね。出来るだけ急ぎますから、シートベルトだけ宜しくお願いしますよ」


 「分かってるって!」


 マコトはサユリと息子のアキトにそれぞれメールを送る。サユリにはカエルメールを、アキトにはケーキを忘れず買っておいたかの確認メールだ。


 数分と経たずに二件の返信があった。マコトはニヤけ顔で返信を確認すると、窓を開けて運転手に話しかけた。


 「雪でも降ってきそうだねぇ。今年一番の冷え込みだ」


 「明日の予報は雪ですよ、お客さん」


 「どおりで寒いワケだ。プレゼントはマフラーにして正解だったな」


 そんな他愛のない会話をしているうちに自宅へと到着する。


 「じゃ、約束通りお釣りは要らないから!」


 上機嫌でタクシーを降り、自宅のインターホンを押すマコト。


 返答も無く家の鍵がガチャりと開けられ、アキトが顔を出す。


 「遅ぇよ、オヤジ! 料理が冷めちまうだろ!」


 「すまんすまん、これでも急いだんだぜ? あ、コレお土産な! ママに渡してくれ」


 「ん? お酒じゃねーか。また飲むのか?」


 「こんな大事な日に飲まねぇワケにいかねぇだろ! お前も大人になれば分かる! だいたいなぁ……」


 マコトはアキトに大人の嗜みをクドクドと説明しだす。アキトは分かった分かったと相槌を打ちながらサッサとリビングに退散した。


 「あら、マコトさん、お帰りなさい」


 「ママ、ただいま。お誕生日おめでとう!」


 マコトは満面の笑みでプレゼントのマフラーを渡しながら祝言を送る。


 「ありがとう! でも、また一つ歳を取っちゃったわ」


 「おふくろ、コレ、オヤジの土産だって。高そうなワイン」


 「あらあら、お酒はいっぱい買っておいたのよ? それに、会長さんから凄く高級そうなシャンパンを頂いたのに……」


 「なに!? てことは、明日は休みだし、今日は二人で飲み明かすぞ! いいよな、サユリ?」


 「ハイハイ、付き合いますよ」


 大人二人が盛り上がるなか、アキトはため息をついて呆れていた。


 「そう言えばマコトさん、論文の方はどうでしたか?」


 「ああ、それそれ! やっぱり長南教授は凄いよ! 教授の超能力理論はブッ飛んでる! 僕の臨床試験のレポートや論文にも概ね賛同してくれたよ。これから忙しくなるぞ! そう言えば、教授の息子さんもブッ飛んでるんだよ! アキトの一つ上の中学三年生にして超一流の能力者なんだよ。彼の能力は所謂、過去視なんだ。相手の目を見て過去を知る。本人は知る、と言うより知っていると感じるらしい。既視感、既知感だね。それで彼の能力はデジャヴュと呼ばれてるんだ。しかも、他にも能力を持ってるんだって!」


 興奮気味に話すマコトの話をサユリは興味深そうに聞いていた。


 その夜は大人二人が相当量のお酒を飲み、アキトはサユリが用意したご馳走と自分で買ってきたケーキをたらふく食べた。アキトは後片付けや洗い物も率先してこなし、久し振りの夫婦水入らずの時間を作ってやる為に奔走した。


 「じゃ、俺はもう寝るから。オヤジとおふくろもいい加減に寝ろよ!」


 アキトは眠くもないのにそう言って自室へと退散した。酔っ払いに絡まれるのが嫌なのもあるが、普段は研究室に籠りっきりでなかなか帰って来ない父親が久し振りに自宅へと帰ってきたのだ。しかも明日は休むとの話だ。アキトなりの母親へのプレゼントのつもりだった。


 アキトは自室に入るとベッドに横たわり、買って貰ったばかりのスマートフォンを手にネットサーフィンに耽っていた。超能力が一般にも認知されだしているご時世だ。アキトも中学二年生らしく人並みに超能力への憧れがある。夜な夜な超能力について検索するのが楽しみの一つとなっていた。


 「俺にもスゲェ超能力が発現しないもんかね。同じ中学生で既に一流ってヤツも居るって話だ。俺だって可能性はあるはずだ。例えば俺のこの変な帯電体質とかが超能力だったりしないもんかな。オヤジの研究が上手くいけば、誰でも超能力が使える日が来るらしいけど……数年、数十年かかるって言ってたしなぁ……」


 アキトは時折一階から聞こえてくる笑い声に顔を綻ばせていた。見もしないテレビのスイッチを付け、テレビ番組をBGM代わりにしながらスマートフォンを弄っているうちに、夜も更けていきいつの間にかウトウトとしてしまっていた。


 「ふぁ? やべ……寝ちまった。眩しい……照明もテレビも付けっぱなしじゃねーか」


 アキトは寝惚けながらテレビのリモコンを探す。ベッドから落っこちたリモコンを拾おうとして布団からモゾモゾと顔を出し、指先がコンセントに近付いたその時、


 ――バチチッ! ボンッ!


 アキトの指先から青白い閃光が放たれ、どこかで爆発音がした。照明もテレビも消え、真っ暗になってしまった自分の部屋で、アキトは電気ショックの様な衝撃を受け驚くのも束の間、その場で失神してしまった。



*******************



 「……あちぃ……あっつ!」


 布団を蹴り上げた瞬間、アキトは一瞬で状況を理解した。


 「燃えてる! やべぇ! やべぇぞ!」


 部屋には煙が充満しようとしているのか、鼻を突く焦げた匂いがある。咄嗟に袖で口と鼻を覆う。コンセントからは火を噴き、周囲を炎で包んでいる。


 「直ぐに消さねぇと!」


 暗闇をユラユラと炎が妖しく照らす中、咄嗟に水をぶっかけようと思い立ち、キッチンに行こうとして自室の扉を開けたアキトは愕然とする。


 「え? うおおおおぉ!」


 廊下は炎で包まれていた。バチバチと、炎が家を思い出を全てを焦がす音がする。


 「何で? 何でだよ! 火元は俺の部屋のコンセントだろ! 何で廊下が燃えてんだ! 熱っ!」


 炎がアキトを襲う。開けた自室の扉を急いで閉めたアキトは、焦りで気が狂いそうになっていた。ヤバいヤバいと喚きながら、意味もなくその場をグルグルと回っては頭を掻きむしっていた。


 「オヤジ! おふくろ! 聞こえるか!」


 ハッと我に返り、大声で叫ぶ。ひんやりとした風を感じ、窓を見るとカーテンが風で煽られている。


 ふと、声が聞こえた様な気がした。


 「……キ! ……キ! ……じを! ……んじをして下さい!」


 聞き覚えのある声。真夜中に響き渡る、狂っような金切り声。


 「ミコ!」


 アキトは窓から顔を出すと、必死で探した。薄暗い外から聞こえる、一条の光の様な救いの声を。


 「ゲホッ! ミコ……どこだ? ゲホッ」


 煙が回ってきている。背後には炎がアキトを襲おうとその手を伸ばす。


「アキ! 飛んで! お願い! 早く逃げて! そこから飛ぶのっ!」


 サイレンが鳴っていた。徐々に大きくなっていくその音にも負けず、ミコの声はアキトを正気に戻した。


 「マジかよ! いや、大丈夫だ! 二階から飛び降りるぐらい、ワケねぇ!」


 アキトは暗闇の中、飛んだ。


 ――やべぇ……裸足だぞ!


 「飛んだぞ! レスキュー!」

 「邪魔だ! どいてくれ! そこの女の子! 近付いちゃダメだ!」

 「早くストレッチャーを!」


 喧騒の中、見事着地に失敗したアキトは、しこたま頭をぶつけ、意識が朦朧としながらも周囲の音を声をただ聞いていた。


 「意識が朦朧としている! しっかりしろ!」

 「かなり煙を吸い込んでいるようだ!」


 「……あぅ……」


 「意識が戻ったぞ! 君! 大丈夫か?!」


 「アキ!」


 アキトが救急車の中で意識を取り戻した時、隣には見知らぬレスキュー隊員とミコとハナエがいた。痛みと眠気でぼんやりとし、状況を理解するのに時間が掛かる。


 「オヤジ……おふくろ……」


 うわ言のように呟いていた。きっと生きてる。一足先に無事逃げたに違いない。そう思っていた。


 「大丈夫だ! 心配するな!」


 レスキュー隊員の叫びに安堵し、緊張の糸が切れ、アキトは再び意識を失った。



*******************



 アキトが再び意識を取り戻した時、病院のベッドの上だった。


 「アキト君!」


 「叔母さん……」


 「よかった! 私が分かるのね!?」


 ベッドの脇にはサユリの妹、アカネがいた。意識を取り戻したアキトを見て急に取り乱している。やがて落ち着きを取り戻すと、ゆっくりと噛み締めるように語り出した。


 「アキト君、落ち着いて聞いて。目覚めたばかりで訳が分からないでしょうけど……いずれ分かる事だから……」


 アカネの目は真っ赤だった。唇を噛み締め、涙を堪えているように見えた。


 「あなたは二日も眠って居たのよ……痛いでしょう? 右踵骨、左手橈骨、右鎖骨、肋骨三本全て骨折だそうよ。その他、半月板損傷と打撲は……もうあちこちね。真っ暗な中、二階から飛び降りて、受け身が取れなかったのね。家は……全焼だそうよ……出火原因は、よく分からないの。キッチンが最も損傷が酷いみたい。ブレーカーが何か爆発したような形跡があるとかで、消防だか警察だかが調べてるみたいなの」


 アキトはアカネの言葉は全く耳に入って来なかった。ただ、ブレーカーが爆発と言う言葉に、あの日聞いた爆発音を思い出していた。


 「俺の……せいで……」


 「あなたは何も悪くないわ! あなたは二階で寝てただけだもの! よく聞いて。マコトさんとサユリは……あなたのお父さんとお母さんは……」


 「え?」


 「……瓦礫の中から……遺体で発見されたそうよ……」


 「……そん……な……」


 「大丈夫よ! あなたは独りじゃない! 私が◎△$✕¥&%!?………」


 鼓動が早くなる。血の気がサッと引くような感覚の中、アキトは三度(みたび)気を失った。



*******************



 アキトが三度(みたび)意識を取り戻した時、ベッドの隣にはミコの姿があった。


 「アキ! 大丈夫ですか?!」


 「……ミ……コ……」


 「アキ! しっかりして下さい!」


 「お……俺の……俺の……せいで……俺が……」


 「! どういう事ですか!? アキは何も!」


 「俺が……超……能力で……火事……俺が……殺した……オヤジを……おふくろ……」


 「アキ!?……」


 --?


その時、アキトには全てが止まって見えた。シンと静まり返り、あらゆる物が、時間が止まっていた。


 「ミ……コ……」


 ミコは今にも叫び出しそうな顔のまま硬直してしまっている。痛む体に苦労しながら窓を見ると、空を飛んでいるはずの鳥が宙に浮いたままその場で留まっていた。


 「な、何で……何だ……これは……」


 ――ガチャ


 「やあ、アキト。良かった……ギリギリで間に合ったようだね」


 扉を開けて病室に入ってくるなりそう言ったのは、胡散臭いメガネを掛けた長髪ポニテの白衣の男、長南イトだった。


読んで頂いてありがとうございます。

そろそろ1章も佳境に入りました。

もう少し、お付き合い下さい。

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