脆弱な迷い子。
およそこれ以上はないと言えるほど後味の悪い朝食を終えて、私は自室へは戻らず早朝と同じように当てもなく徘徊することにした。
理由としては酷く女々しいのだが、今の状態で因幡と顔を合わせるのは出来るだけ避けたかったのである。
朝食を摂るにあたり、人と話をする用事があるからと事前に申し出てはいるので、部屋に戻ったところで鉢合わせになる可能性は高くはない。私が食堂を出た頃には中々に余裕のない時間帯になっていたこともあり、今頃は教室へと向かっているか、もう着席して始業を待っていることだろう。
ただもし何かしらの理由があって、まだ部屋に留まっていたら、と不意に考えてしまったせいで、足は自然と目的地を定めないままに帰路を避けていた。
不条理な偶然と、伊織ちゃんは私と因幡の関係を断じた。確かに偶然の産物ではあるとは認めよう。だが、不条理などと言われては困ると、直ぐ様胸を張って言い返せなかったことが、話を終えた今でも尾を引いて、不快感が胸にこびりついて離れない。
胸にこびりついた不快感の正体は嫌悪だ。
伊織ちゃんが誰かの為に流した涙は、とても清らかなものに思えた。とても尊いものだと、僅かであろうとも感じた。
だから考えてしまった。私が選んだ因幡との関係は、果たしてそれらを踏みにじるようにしてまで求めるに足るものだったのか、と。
「……全く、ふざけてる」
求め続けて、やっと手が届いたのに。それなのに、まるで目移りでもしたかのように、その価値を疑う自分の弱さが、不純さが嫌いだ。
例えそれが誰かの目から見て、いかに醜く下劣な関係であろうとも、私だけは至尊であると胸を張らなければいけなかったのだ。そうでなければ、今まで築いてきた何もかもが、その価値を失ってしまう。
「……はぁ」
当てもなく歩くのも馬鹿らしくなって、壁に背中を預ければそのままずるずると床に腰を下ろしてしまった。
家族が欲しい。それは自分の中で最も強い願望だった。澄城 雅という人間の核で、背骨でもある。
それを否定してしまったら、その価値が揺らいだら、もう立ってもいられない。
遠く、他人事のように響く始業を告げる鐘の音を耳にしながら、私は通路に座り込んだまま途方に暮れていた。