第97話 結界の覚醒
その隙に、レオンとエリザが動いた。
2人はまるで一つの存在のように調和した動きで、ワイヤーの間を縫い、クラウスの背後にある本殿の入り口に向かって突進する。
レオンの長剣が弧を描き、銀色の残光を引く。
エリザの短剣がそれを追い、無数の針のように舞う。
「愚か者め!」
クラウスが振り返り、エネルギーの奔流を放つ。
エリザがレオンの前に飛び出し、短剣でエネルギーを切り裂く。
衝撃で彼女は後ろに吹き飛ばされるが、レオンへの直接攻撃は防いだ。
「エリザ!」
「行って、レオン!」
レオンは歯を食いしばり、最後の距離を駆け抜けた。本殿の扉を蹴破り、中へと飛び込む。
背後で、ガレスの怒涛の斧閃、アーサーを源とする守護の詠唱、キースの矢が風を裂く音が、クラウスの咆哮と激突し、時間を稼いでいる
本殿の中は薄暗く、色あせた戦旗、武具が壁に掛けられている。
フリーデリカの指示通り、奥の玉座の後ろに隠し扉があった。
レオンはためらわずに押し開けた。
中には、狭く急な螺旋階段が、闇の底へと息を吞むように続いていた。
彼は足音を殺し、壁に手を摺りながら駆け下りる。
壁面には、古代の神官たちが刻んだとされる古代文字が刻まれている。
果てしなく感じた階段の先に、小さな円形の地下室が口を開けた。
天井は高く、中央には石造りの円形祭壇。
それを囲むように、6本の巨大な石柱が等間隔に立ち、地下室を支えている。
各柱には異なる紋章が刻まれており、内部から脈動するように柔らかな光を放っていた。
「結界の中心……」
レオンが呟く。
しかし、どうやって起動させるのか?
レオンは祭壇に駆け寄り、その表面を探る。
滑らかな石の表面には複雑な幾何学模様が刻まれ、中心には明らかなくぼみがある。
レオンが肌身離さず持ち続けてきた、革の筒に収めたあの物に酷似していた。
レオンは筒を開け、中から「機神の炉」の炉心部破片を取り出した。
クラウスの力の源であり、同時にこの城の古代遺産と深く結びついた、不気味な輝きを放つ金属片だ。
レオンは一瞬ためらった。
これをはめれば何が起きるかわからない。
結界が起動し、クラウスの力を封じるのか。
それとも、膨大なエネルギーが暴走し、城もろとも自分も仲間も跡形もなく消し飛ぶのか。
未知への恐怖が背筋を走る。
その時、階段から遠くても確かに届く戦いの音が聞こえた。
ガレスの咆哮、アーサーの詠唱、キースの矢の音が聞こえてくる。
彼らは文字通り、命の灯を削りながら、この一瞬のために戦っている。
レオンは決断した。
彼は炉心部の破片を祭壇のくぼみにはめた。
一瞬、何も起きないかと思った。
次の瞬間、六つの石柱が一斉に輝きだした。
光が地下室を満たし、古代文字が浮かび上がる。祭壇からは低い唸り声のような音が響き、地面が震え始めた。
迷いは吹き飛んだ。
「……頼む。働いてくれ」
レオンはそう呟くと、炉心部の破片を、祭壇中央のくぼみへと、正確に押し込んだ。
一瞬。
時間が止まったような沈黙。
何も起こらない。
失敗か?という絶望が胸を締め付け始めた。
次の瞬間、6本の石柱が、地鳴りのような低音と共に同時に輝きを増した。
紋章から奔流のような光が噴出し、地下室を白一色に染め上げる。
壁面の古代文字が一つずつ浮かび上がり、黄金色に輝く。
祭壇自体が低く唸りを上げ、石の床が細かく震え、
小石が跳ねた。光の流れは祭壇を中心に渦を巻き、やがて一本の巨大な光柱となって、地下室の天井を突き破り、上へ、上へと昇っていくかのような勢いを見せた。
結界は、数百年の眠りから覚めた。




