第107話 沈黙の大広間
その喧騒のはるか下、図書館の地下で、アーサーたちは「沈黙の大広間」に足を踏み入れていた。
静寂が重く、彼らの息づかいさえもが壁に吸い込まれるかのようだった。
円形の広間の壁は、床から天井までびっしりと古代語で記された書物で埋め尽くられており、それぞれの背表紙は年月を経た革のようにひび割れていた。
ここは王国の歴史そのものが刻まれた場所であり、同時に、最も危険な秘密が隠された場所でもあった。
広間の中央には、黒曜石でできた三つの台座が三角形に配置され、それぞれが空虚なまま待ち構えていた。
「印は、ここに嵌めるものらしい」
アーサーの一人の弟子、エリアスがメモを指さした。
台座の側面には、三賢者の紋章……巻物、羽ペン、そして開いた書物が刻まれていた。
「しかし、印そのものはどこに?」
アーサー自身が問いを発した。
周囲の膨大な知識の壁を鋭く見渡した。
時間が無い。
上の戦いがいつまで陽動として機能するかわからない。
アーサーは杖で床を軽く叩き、目を閉じた。
微かな魔力の流れを感じ取ろうとする。
そして、彼は目を見開いた。
「……壁の書物だ。紋章に対応する書物の中に、印がある。探せ!」
5人の魔術師は、一瞬の逡巡もなく行動に移った。
それぞれが分担して膨大な書架に向かった。
彼らは本を乱暴に扱うことはせず、古代語のタイトルを慎重に読み解きながら探していった。
やがて一人の若い魔術師のレオが叫んだ。
「見つけました!『星々の軌跡についての大いなる論考』……ここに、巻物の紋章が!」
本を慎重に開いた。
中央のページには円形の窪みがあり、そこに収められていたのは、円盤状の輝く青銅製の印。
まさに巻物をかたどった複雑な紋章だった。
アーサーがそれを手に取り、その冷たさと重みを一瞬感じた。
彼は第一の台座へと歩み寄り、印を表面の凹みに慎重に嵌め込んだ。
カチリというかすかな、しかし確かな機械音が広間に響き、台座自体が内側から柔らかな青白い光を放ち始めた。
一つ目の封印が解かれた。
「一つ」
アーサーが呟いた。
「あと二つだ」
「次だ!急げ!」




