焼ける空 二
人の世に人として生まれた。
「しかし人としては死ねないのか?」
リクスは黄金の大蛇に乗り、蒼い機兵と共に白い機兵に立ち向かっていった。
泥より芽吹いた俑器兵達が暴れ、人々を襲う。
「艦へお逃げください! お早く!」
「急ぎなさい! 南よ!」
石の槍に貫かれ、氷の砲弾に砕かれ、魔導矢の爆発に呑まれても、何度も何度も生まれ出る。
絶えず姿を変えるそれらは既に人の形を崩しており、獣の頭を持ち、或いは蟲の体をして、手には無数の鉤爪を生やすに至る。
「兄さんっ!」
「おいルルヴァ呆けるな!」
ペローネとジルルクが、佇むルルヴァを動かそうとするが。
『ウラ、ウファ、ウファメシシ』
動かぬ、動けぬルルヴァ達へ異形と化した俑器兵がその顎門を開き、飛び掛かって来た。
ルルヴァ達を守ろうと前へ出たペローネ、しかし二人を守ろうと覆い被さったジルルク。
その中より抜け出たルルヴァ。
「これが正義だというのなら」
鞘より抜き放たれた翡翠の刃が弧を描き俑器兵を斬り倒した。
そして薙ぎ払いが風切り音を立て、それが嵐となって他の俑器兵達を吹き飛ばした。
「ルルヴァ」
「……兄さん」
朱い目から涙が零れるのが見えた。
『マオウ、マゾク、マゾク!!』
土からまた、無数の俑器兵が生まれ出る。
ルルヴァが駆ける。
そして、虚空へ飛燕王を振り下ろした。
『オオオオオオオオオオオ!!』
中に黒い炎を宿す水晶の馬が姿を現し、縦に両断され、地面に崩れ落ちて粉々に砕け散った。
同時、全ての俑器兵の姿が崩れ、ただの泥となり動かなくなった。
「僕は正義を斬る」
とんっ、と黒衣の騎士が着地を決めた。
とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ。
魔導剣を構え、切先をルルヴァ達へと向ける。
ルルヴァは飛燕王を中段に構えた。
「「くぇええ!!」」
騎士達の斬撃は音速。
―― だが、しかし。
「お前らは黒狂徒の足元にも及ばない」
ルルヴァはオヌルスの剣を受け、その奥義を血肉に受けた。
そして、ルルヴァの才が剣を盗むには、それで十分であった。
飛燕王を振り被る。
柄を握る右手と左手の間を無くす。
上下左右より迫る騎士達の魔導剣はしかし、刹那の世界より見れば、全く同時とはなっていなかった。
一人を斬り、二人を斬り、次を斬るまでに剣の刃がルルヴァへと届くまでの間は、確かに存在した。
だからルルヴァは自分が斬る瞬間に、騎士の剣にその間を挟ませるように動き、ただ一つの軌跡を描き刃を振り抜いた。
「つっ」
振り返り、残心を取る。
「な?」
「ばか、な……」
騎士達の魔導剣の剣身が断たれ、落ちた。
騎士達の魔導鎧がずれて、落ちた。
そして騎士達の体はバラバラとなって崩れ落ちた。
「あれ?」
体力と魔力の消耗から眩暈を覚え、倒れそうになったルルヴァをエトパシアが支えた。
「よくやった」
「……はい」
「退くぞゼブ」
「はい、畏まりました~」
ゼブが氷の大蛙を呼び出し、その背に魔法でノイノ達を乗せる。
ルルヴァはエトパシアに抱えられ、ペローネ達と一緒に飛行戦艦のある場所へと向かった。