トナの村にて.2
さてと。僕たちは食堂兼酒場を出て、雑貨屋で必要な物を買い揃える。でも、回復薬の類いは、光の女神が揃えてくれているので、主に野宿をするためのグッズだ。
のどかでいい村だなと思う。まだ、獣人とか亜人には慣れないけど、ゲームの世界にいる感覚か。
「あ、あそこ行ってみましょう!」
その視線の先には、一軒の古ぼけた建物。
「あれは?」
「冒険者ギルドです。これから、あなたがお世話になるとこです」
「まあ、アーチャーだしね」
「沢山依頼を受けて、がっぽがっぽですよ~」
「天使がそんなこと言っていいの?」
「ふふ。天使だって心があるからいいんです!」
そう言って僕の手を掴むと自分の胸に手を当てる。
「んな!?」
「「ほら、聴こえるでしょう?私の鼓動」
感じるのは、柔らかさなんだけどとは言えない。
この子は、ズレてるなと思いながら手を放す。
初めての感触にドキドキしながら、平静を装う。
本屋に行きたいけど、この村には本屋がないみたいだ。
冒険者ギルドの中は、小さいなと思う。
まあ、村にある方が珍しいのかな?
壁にはいくつもの依頼書が張られていて、ラノベやゲームの冒険者ギルドを感じられるなんて、ちょっと感動したりしている。
「初めまして、お客様ご依頼ですか?」
「あなたは?」
「私は、ギルド職員のルリです」
その子は、にこりと笑うとカウンターを進める。黒髪なのは、日本みたいなとこの出身なのだろうか。小柄でスタイルがいい。
「……きれいだなー」
「あら、ありがとうございます。でも、お客様、彼女さんの前でそんなこと言っては駄目ですよ?」
苦笑するルリの言葉に横を向くと、プラチナが頬を膨らませてる。
「ハヤテくん!その人だけでなく、私のことも褒めてよ~」
子供か。ぽかぽか肩を叩かない。
「いや、この子は……仲間です。パートナーです」
別に訂正するのもめんどくさいけど、恋人なんて言われたら、プラチナが嫌がるだろう。
「そうですか?では、こちらへ」
と、歩みかけたルリを引き止める。
「あの、僕たち冒険者になりたいんですけど……」
すると、ルリはこちらを振り返り近づいて来て、僕の手を掴む。顔が近い。
「ぼ、冒険者になってくれるの!?」
くわっ!そんな感じで勢い強い!
「うわ~!お二人、キスしちゃいますか~?」
「んなっ!?」
プラチナの無邪気な発言に慌てて離れる僕たち。
しかし、冒険者になるだけでどうしてそんなに勢いがあるんだ。
そのことを尋ねると、表情を曇らせると提示版の方へ案内する。
「……これを見てください」
言われて、提示版を眺めると、解決していない依頼が沢山ある。
『ワイバーンの巣の壊滅』
『バーサクゴブリンの巣の壊滅』
『ギガースの討伐』
『命の雫の採取』
『壊滅的な草原の迷宮の探索』
『地獄まで続く地下の迷宮の探索』
『天まで届く塔の迷宮の探索』
などなど、なんか難しそうな依頼ばかりでだ。名前、大袈裟だなー!
もっと簡単なのはないのかな?
「……どれも、難しそうですね~。他の冒険者たちはどうしました?」
「……逃げました」
「え?逃げた」
「はい……無理もありません。前までは普通の依頼ばかりでしたので、初心者たちも安心でした。
でも、最近になって何故か、難度の高い依頼が発生しまくって、ほとんどの冒険者は他の街に逃げてしまったのです」
うつ向いて悲痛な表情のルリさんの肩を叩く。
「国とか、他の街の冒険者たちは助けてくれないのか?」
「ええ。自分達のことで精一杯みたいで……高ランクの冒険者の方々も間に合うかどうか」
そんな表情されたら、つい言葉が滑り出していた。
「大丈夫、僕たちなら出来る」
「……でも、あなた方も初心者なのですよね?」
「そっか。そうだよね」
苦笑いして頭に手を置く。
「でも、この人ワイバーン倒してましたよ?それが、実力の証明になりますよね?あ、ギルドカードを作って見てもらえればいいと思うよ、うん」
プラチナの言葉にルリは、ポカンとしている。
「ワイバーンは、Bランクは必要ですよ?ホントですか?」
「あ、見ます?」
ちょっとだけ、ワイバーンの首を掴んで見せると、びっくりさせている。
「す、すぐ登録しましょ!」
慌ただしくカウンターの裏側に入り、すぐに僕たちを呼ぶ。
「このなんの変哲もないカードに手を当てて下さい」
変哲もないって。まあ、そうだろいけどね。
そのカードは、銅色になる。しかし、裏に表示された僕のレベルを見て固まる。
「え?え?なにこれ?夢!?」
「夢じゃないですよ。えへん。ハヤテくんはレベル500のアーチャーなんです」
何故か、プラチナが胸を張る。ああ、あまり目立ちたくないんだけど。ま、他に誰もいないんだけどね。
その言葉に、ルリさんは羨望の目で見ている。女性にそう言う風に見つめられたことないから照れくさいや。
「す、す、す!」
スルメ?すっぽん?すかぽんたん?
「素晴らしいですねー!どんだけ自分に厳しく鍛えてるんですかー?」
正に憧れの人を見ているきらっきらの瞳。反則的に与えられた能力とも言えない。
「ま、まあ、秘密ってことで。あ、僕が依頼を全部引き受けますから、このことは内緒でお願いします」
「えー?どうしてですかー?自慢すれば、王国から召し抱えられますよ?なんでもかんでもやりたい放題ですよ!」
なんか、物騒に聞こえるんだけど。それにしてもふと気づく。
「あの」
「はい。あ、私の連絡先知りたいですか?」
「い、いえ。難度の高い依頼はあるけど、簡単な依頼とかはないんですか?」
納品依頼とか、護衛とか。基本はそこからだと思うんだけど。あなたの連絡先とか。
「あー、それはみんな逃げちゃったので、ギルマスが一人で日々こつこつと頑張っています」
ギルマス。川魚みたいな名前。ギルドマスターだよね。
「じゃあ、私たちもこつこつと村のために頑張りましょう!」
「あの。あなたのギルドカードも作るんですよね?」
力こぶを作ってにこにこしてるプラチナに話しかける。
「ええ。はい」
ちょっと気まずそうにカードに触れると、ルリさんは目が飛び出すくらいに丸くしている。
「え?あ?お?」
どう反応していいか分からないので、僕とプラチナを行ったり来たり見ている。
「えへ。女性の秘密に触れちゃ怪我するぜ」
おどけた風にカードを受けとると懐に仕舞う。ちょっと気になる。
でもまあ、なんとなく想像がつくけどね。
スキル『モテ期到来』を獲得しました!
つづく
プラチナのレベルは、ハヤテよりも上だよ
モテ期到来―普通に行動してるのに何故か、女性を惹き付けてしまう、羨ましいスキル。
ヒモとして生活が出来るもののハヤテは、根が真面目なので真面目にクエストをこなします。