鋼鉄少女王タイタンメイデン 第六話 パンドラの胎動 その4
朝の陽ざしが街を照らし、人々が一夜の眠りから覚める頃、
此処、鈴鹿邸の武石乙女の部屋のまえでは
鈴鹿キョーコが何やら怪訝な面持ちで立ち、部屋のドアをノックしていた。
「ねぇ、タケシ、帰ってるの?」
小声で問いかけるが部屋から返事はない。
更に確かめるように部屋のドアをひねると、鍵のかかっていなかったドアは簡単に開き、
キョーコは少しあいた隙間から部屋の中を覗いた。
「なんだ、帰ってるんじゃん」
ベッドに横たわる乙女の姿を確認したキョーコは、
そのまま部屋に足を踏み入れると乙女の元へと歩いていく。
「まったく、せめてタオルケットぐらいかけなさいって。無防備に全裸を晒すな、全裸を」
そう言うなり、スヤスヤと寝息を立てる乙女にタオルケットをかけるキョーコ。
「ご苦労様、まだ時間もあるし、もう少し寝てな」
小声でつぶやいたキョーコが足音を忍ばせて部屋から出ていこうとした時、
机の上に一つの紙袋が置いてあるのが目にとまった。
「ん?あれぇ、あれあれあれ~、これってミセス・ジョコンダの紙袋じゃな~い?」
ミセス・ジョコンダとはこの町一番の人気ベーカリーの店名である。
どれぐらい人気があるのかというと週4日の営業日に開店して30分もしないうちに全商品が完売してしまうほどと言えばその人気っぷりがわかるだろう。
加えて、会社員の出勤都合に合わせて早朝から開店する気遣いも人気の要因かもしれない。
勿論、キョーコもミセス・ジョコンダのファンであり、その商品、特に特性サンドウィッチには目がなく、
月に数回は早朝から店舗前に並ぶこともあった。
「え~、え~、何を買ったの~?少しキョーミがあるな~♪」
少々、意地汚い感じもするが、思わぬサプライズ?にテンションが上がっているキョーコの意識はすでに紙袋にくぎ付けになってしまっている。
『タケシは何を買ったのかな?やっぱり特性サンドウィッチかな?……
あ!もしかしたら私の分も買ってきてくれてたりしちゃったりして♪』
都合のいい妄想の止まらないキョーコはつい紙袋に手を伸ばす。
「ちょっと見るだけ、見るだけだから……」
案の定、それなりの重さが感じられた紙袋の口を開けて中にそっと手を入れるキョーコ。
「♪~……ん?」
しかし予想に反して指先に当ったのは、何やら冷たくぶよぶよした感触だった。
『この手触りは前にも感じたことがある、ような、ないような……?
でも、それはサンドウィッチの感触ではなかった気がする、ような、ないような……?』
嫌な事を思い出しそうになったキョーコの背筋に得体のしれない悪寒が走る。
その瞬間、キョーコは反射的に両手を引っ込めてしまった。
当然紙袋は重力に引かれ、下の床へと落下していく。
それを目で追うキョーコの視界は、なんだかいつもよりもゆっくりとしたスローモーションでも見ているかのように映った。
紙袋は鈍い音を立てて床に落ちたが、その音に対してもキョーコは違和感を感じる。
「これ……サンドじゃ無いんじゃね?……
なんかもっとこう、肉肉しいっていうか、ミートっぽいというか……
そんな固まりが落ちた時に立てる音、って、そんな感じがするんだけど……?」
徐々に薄気味悪い気持ちになってきたキョーコは紙袋の底を指で摘み持ち上げてみる。
キョーコは底が上になり逆様になった紙袋を揺すり、中の物を取り出そうとしたのだが
中の物は揺する前にあっさりと紙袋からずり落ちてきた。
『中の物』それは当然『只野タケシの切断された手首』である。
蝋細工のように白いそれを目にしたキョーコが叫んだ。
「腕が飛び出すば!?」
混乱し、語尾を噛んでしまったキョーコが仰け反ってベッドにぶつかった。
その衝撃に驚いた乙女も声を上げて飛び起きる。
「バン!?バン!?」
飛び起きた乙女は状況が呑み込めず、夢うつつの表情でキョロキョロと周囲を見回した。
「…………なんだ、夢か……ん?キョーコ?なんでここにいるの?」
「て、てってって、てってってて、てってて、てって!!」
問いかける乙女に、キョーコは尻餅をついたまま床の上の手首を指さす。
「ああ、それ?僕の手首。無事に回収できたんだよ~」
しれっと答える乙女にキョーコの怒りが炸裂する。
「無事に回収出来た、じゃない!!パン屋の紙袋に入れんな!!何処ぞのシリアルキラーか!!お前は!!」
「いや、ちょうどいい大きさだったから……」
「そんなカジュアルな理由で手首入れまくってたらパン屋に風評被害が広がるわッ!!」
怒鳴られた乙女は、申し訳なさそうにベッドから降りると
怒りの収まらぬキョーコに手を貸し立ち上がらせ、ついでに手首も拾い上げる。
その時、乙女は手首から少し異臭を感じ取った。
「ん?あれ?なんか臭くない?やば!腐ってきた!?早く冷蔵庫に入れなきゃ!!」
キョーコは急いで部屋を出ようとする乙女を押し留めて念を押す。
「やめてよね!!絶対!!そんなことしたら絶交だからね!!」
「でも、このままじゃ腐敗が……」
「後でクーラーボックス持ってきてやるから冷蔵庫は絶対やめろ!!」
言い合い止まぬその時、乙女の肩にミニ・ガミオンが現れて言った。
「それなら心配ない。私が後程、手首の保存処理をしよう」
「ガミオン!」
嬉しそうな乙女に反し、キョーコはイライラしながらミニ・ガミオンに言う。
「アンタも出来るんだったら、初めからソレ(保存処理)やっときなさいよ!」
「うむ、申し訳なかったキョーコ、次からは気を付けよう」
「………まったく!二人ともどっかぬけてるんだから……」
ガミオンの謝罪があっても怒りの収まらぬキョーコ。
その迫力にタジタジとなる乙女にキョーコが更に念を押す。
「あと、アンタ!当然のように全裸で動き回るな!まったく!感覚がマヒしてんじゃないの!?」
「え?」
キョーコの指摘に乙女は自分の体に目を移す。
「はは……はい」
自分が全裸だった事を思い出した乙女は照れ笑いを浮かべながらゆっくりと手を動かすと『ヴィーナスの誕生』のようなポーズで胸と股間を隠し返事をするのだった。




