鋼鉄少女王タイタンメイデン 第六話 パンドラの胎動 その3
「お、おい!マジで此処なのか!?」
ニュートゥの指示に従い、埼玉県秩父のとある山林の上空にやってきたタオは、
眼下に広がる何の変哲もない木々の立ち並びを一瞥して目を疑った。
「何か極秘の施設でも作っていたのかと思ったら、何の変哲も無ぇ只の山森じゃねーか!?」
「此処で良い。早く降りろ」
タオはしぶしぶニュートゥの指示に従いゆっくりと降下し始める。
「このままじゃ木々をなぎ倒しちまうな……」
大きな痕跡を残せば敵に居所を気取られてしまう可能性がある為、
タオは高速移動形態から元の人型へと変形し始めた。
装甲がスライドし、曲がり、折りたたまれていく。
変形しながらも、タオは体から延ばした両手や精密作業用の福腕を器用に操り、
抱えたニュートゥを落とすことなく、木々の隙間へと足を下ろした。
「ととっ……とととと」
衝撃で二、三本の木が折れてしまったが、タオの身体のサイズから考えれば『上手く着地した』と言っていいだろう。
「まあまあ、上出来って感じかな」
自画自賛しながらゆっくりと座るタオの尻に木が触れると、木は音を立てて折れてしまう。
「…………」
「まあ、なんだ……お前の言う通りこんな場所に来たが、本当に此処で良いのか?
比較的近い場所に民家もあるし、体を直すどころか身を隠すにも適した場所には思えねーぞ」
「だからだ。敵も我らがこんなところに身を潜めてるとは思うまい」
「そんなもんかね」
「そんなもんだ」
「それはまあいいとして、お前の治療はどうすんだ?俺たちの一番の目的はお前の体を直すってことなんだぞ」
「それは違うな。われらの最優先すべき目的は只野タケシの確保だ。そう、以前、変わりなく」
「またタケシか!知んねーよ!タケシなんざ!
仮に今、タケシかお前か選べって言われたら俺は迷わずお前を選ぶね!!」
「うるさい。でかい声を出すな、誰も治療しないとは言っておらん」
「だから治療ったって、どうやってやんだよ!?ここにゃあなんもありゃしねー、
それとも地下になんか隠してたりすんのか?」
「いや、そんなものはない」
「んじゃあ、お手上げじゃねーか!まったく!こんなことなら無理にでも島に連れて行くんだったぜ!
いや、今からでも……」
「逸るな、バカ!まずは話を聞け!!」
「うっ……」
「今から私は私を治療する。だがそれにはお前の協力が必要だ」
「俺の?」
「そうだ。少々特殊な方法だが、お前の協力さえあれば可能だ……協力してくれるか?」
「ああ!勿論だ!俺に出来る事ならなんだってするぜ!」
「良し。では、まずは私の頭脳とお前の頭脳を直結する……用意をしろ」
タオはニュートゥの指示に従い、自らの頭部装甲をスライドさせて機械部分を露出させる。
続いてニュートゥの上半身を抱き上げるとニュートゥの舌が伸び接続端子が露出した。
蠢く舌はするすると伸びていきタオの頭部へと差し込まれる。
「んッ……」
神経を撫でるようなその感覚にタオは思わず声を洩らす。
「な、なるほど……頭脳を直結し、二人の情報処理能力で俺の生成器をコントロールして身体の再生に使おうって訳か……
だがそれで上手くいくのか?お前の体は欠損部分が大きすぎる……
技士じゃあ無ぇ俺の生成器で補えるものなのか?」
「無論これで終わりという訳ではない。
だが、その前にお前に言っておきたい事があってな……」
「なんだそれは?もったいぶらず言ってくれよ」
「うむ……非常に言いずらい事なんだがな……」
ニュートゥのモジモジした態度から愛の告白でも期待したのだろうか、勘違いしたタオがニュートゥを急かす。
「何照れてんだよ~、サッサと言えっての~」
だが、帰って来た言葉は冷たい響きを持つただ一言。
「お前の体がほしい」
「ええ~、それわぁ……ん?んん!?今なんつった!?」
「お前の体を私によこせと言ったのだ!!」
その瞬間タオの脳に衝撃が走り、体からすべての力が抜けて地面へと倒れこんだ。
声もなく一瞬で意識を失ったタオを見つめるニュートゥの目が怪しく光る。
それと同時にニュートゥに操られたタオの腹部装甲が開いていき生成器が露出する。
更に生成器自体も展開していくと、内部に横たわるタオの分体が夜の空気にさらされるが
その目には光がなく、本体と同様に虚空を見つめるのみ。
ニュートゥがタオの分体を掴み無造作に脇に置くと、生成器から光がもれ出し、その光が帯となって二人の体を覆っていく。
二人を包んだ光は凝縮すると、徐々に金属質の輝きを放つ装甲のコクーン形態へと変化していった。
「良し、これで準備は完了だ……だが……だが、ただ再生するだけではダメだ。
私はメガミオンに対抗できるだけの力を持った新たな体を作らねば……」
ニュートゥの決意と共にコクーンの外殻がさらなる変化を見せる。
波打ち、泡立つコクーンは蠢き増殖しながら変形、ついには異様な形状へと変り果てた。
その形状は人間の目には、昆虫のようにも、艶めかしい女性の裸体を模したトルソーのようにも見えるだろう。
それは、もはや繭と呼ぶにはふさわしくない。
いわば蛹と呼ぶべきものであった。
そのクリサリスの内部でニュートゥが叫ぶ。
「一か八かの懸けではあるが、タダノタケシを手に入れる為なら……
ほんの些細なリスクに過ぎん!!
その為に私は『新たな私』となろう!!」




