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がたがたと馬車は町をぬけ、城からどんどん離れて行く。
コナは目に焼き付けようと、じっと窓の外を見ていた。
朝のまばゆい陽光に照らされて、これまで18年間暮らしてきた城が青白く輝いている。海からの潮風に吹かれたために塩分が付着しキラリキラリと光る城壁はとても美しい。
「そろそろ修繕が必要ね」
ぽつりとこぼした声は馬車の音に消えた。
同乗している付添いの侍女二人は何やら書類を広げて忙しい。衣裳の段取りやら確認しあっている様子だった。暫くコナを感傷にひたらせてくれるらしい。
塩分のせいで脆くなった城の修繕や建て替えは、あの父のことだ。折り込み済みだろう。姉が予算の概算を作り、兄が実行することになるだろうとぼんやり思った。
そこにコナはいない。
ベルクールとグロワールでは、ちょっと行って帰ってくるには距離がありすぎた。
今生の別れにはならないだろうが、次に家族に会えるのはいつになることか。
ふっと溜息がおち、コナは自分が心細く寂しい思いをしていることに気付いた。
けれども、いつまでもそのままの気持ちでいることが続かないことも知っていた。
だから大きく息を吸い込み気分を切り替える。
「ねぇ、そろそろこの衣裳脱いでいいかしら」
気を遣いすぎる侍女たちににっこりと言った。
それからの道中は順調に進んだ。休憩をとりながら、宿泊しながら無理なく進む。
しかし、馬車に座るだけのコナは退屈がどうにも我慢できずに必死に侍女たちを説得していた。
「ねぇ、私かなり我慢したと思うの。馬に乗りたいのだけどだめかしら?」
可愛らしいと評判の笑顔を惜しげもなく振りまき、リサを懐柔にかかるもその先輩にあたるハンナがとがめだてるを、ここのところ繰り返している。
コナは悲しげな顔を作り、下を向いた。
「ベルクールに行けば、暫くは自由に何かをすることは出来ないと思うの・・・。新しい家族になるお披露目や挨拶に、あちらでの人脈作りや勉強が待ってるわ。きっと息が詰まってしまうでしょう」
そっと下から侍女たちを見上げれば、彼女たちは明らかに困惑していた。
そう、今日はいつもとおねだりの仕方が違っている。
もうひと押し!
「この旅の間中、ずっと馬に乗りたいわけではないの。お願いほんの少しだけ、今だけでいいの・・・!だめかしら・・・」
すがるように見つめられ、ハンナとリサは顔を見合わせた。
可愛らしい姫の頼みを数日断り続け、二人には同情する気持ちが芽生え始めていた。
コナ付きの侍女や古参の乳母は今回の旅に着いてくることができなかった。普段からコナを知っていたなら頑として断れただろう。
ハンナはリサに頷いてみせると言った。
「わかりました。護衛の隊長に指示を仰いでまいります。いつになるかはわかりませんが、御身の安全が確実にとれるならという条件つきでよろしいでしょうか」
「もちろんよ!ありがとうハンナ!」
大喜びするコナをみる二人は気付かなかった。
可憐で同情を誘う姫が人脈作りと言ってしまう不自然さに。