12 秋吉吉成:目覚め
気を失った哲を担いで、僕は自分の家に戻った。
哲を布団に寝かせて、その寝顔を覗き込む。
「よく眠ってる」
しばらく起きそうにない。
無理に起こすこともないので、寝かせておくことにした。
背中に背負った哲はやけに軽かった。
中学の時の部活のメニューの一つに、二人組になって交互に相手を背負いダッシュするものがあったが、哲ほど軽い相手はいなかった気がする。
それに、やけに体温が高かった気もするし……。
ちゃんと食べてるのか、具合でも悪くないのか、少し心配だ。
「それにしても、頼子遅いな……」
鍵を戻してくるだけのはずなのに。
それに、金田先輩の名前も出てきてたし……。
様子を見にいったほうがいいのかな、と思いはじめた時、頼子が顔を見せた。
「まだ寝てるの?」
呆れたような頼子に、僕はほっとした。
「頼子、おかえり」
頼子は笑顔を返してくれた。
着替えてきたという頼子は、淡いクリーム色のトレーナーと、深緑色のタイトスカートを穿いていた。
頼子が僕のベットに腰をかけると、長いストレートの髪がシーツの上に広がった。
僕が、金田先輩のことを尋ねると、心配いらないというように、頼子は笑った。
頼子はそうやって笑うけど、僕はできることなら金田先輩にはもう近づいて欲しくない。
中学の時、頼子は金田先輩と喧嘩をしたことがある。
喧嘩の発端は確か、ボール遊びをしていた小学生が誤って金田先輩にボールをぶつけてしまったことだったと思う。それで、大人げなく怒って子供に手をあげそうになっていたところに頼子が通りかかって、それを止めようとした頼子と喧嘩になった。
金田先輩は中学でも評判の素行が悪い喧嘩ばかりしてる人で、頼子もなまじ腕に自信があったものだから、結局きっかけの小学生そっちのけで殴る蹴るの喧嘩になって……。
頼子は手首の捻挫と、足にいくつもの打撲を負った。顔にも少し擦り傷が出来ていた。金田先輩の方は……、よく入院しなかったな。な感じで詳しくは僕の口からは言えない。
頼子の方が明らかに強かった、とだけは言えるけど。
夏休み中のことで子供達以外見てる人もいなくて、その子供達も途中でいなくなったらしく、何の問題にもならなかったけど、やっぱり僕は頼子に怪我をする危険があることには近寄って欲しくない。
「大丈夫だって、吉成ちゃん。あの時怪我するようなミスをしたのは私が油断したからだし、その時その何倍もあいつにはお返ししたんだから」
「うん、わかってる」
頼子は、強いから。
でも、心配くらいしたっていいだろう?
僕には、それくらいしか出来ないんだから。
「あ、気がついた」
哲が目を開けた。
が、微動だにしない。
僕は心配になって、哲の顔を覗き込んだ。
「……うお!」
よかった。大丈夫みたいだ。
「秋吉……?」
「よかった。目を開けたのに反応ないから、どうしたのかと思って少し焦ったよ」
でも、平気そうだ。
よかった。
「当ったり前よ、打ったのはお腹なんだから。頭を打ったわけじゃないもの」
頼子は呆れたように言った。
だけど、倒れた時は頭からいったような気がするよ……?
「俺、負けたのか……」
哲は、頼子に負けたことにショックを受けてる様子だった。
「そもそも、頼子相手に無茶なんだ」
僕は言った。
無謀としか思えない。
「だって、中学に上がる前、僕に剣道を教え込んだのは頼子なんだから」
いわゆる、僕のお師匠様は頼子なわけだ。
「江川が……!?」
あ、驚いてる。
「で、でも、大会で江川を見たことなんか……」
「当然でしょ。私剣道部じゃないもの」
さらりと頼子は流す。
頼子、団体行動嫌いだったしね。
「頼子はね、格闘技関係が小さい頃から好きで、剣道・柔道・合気道・空手……、一通り齧ってるんだよ。ただ、ある程度までいくと道場なんかはやめちゃって、長続きしなかったけど。それでも、生半可にやってる人よりははるかに強いよ。もちろん、僕なんかよりもずっと」
そう、頼子に勝てたことなんか一度だってないし。
「なんでそれを先に言わねえんだよ!」
「「聞かれなかったから」」
あ、頼子と返事が被った。
哲はなんだか疲れたような、諦めたような顔をしてたけど、納得してくれたようだった。
次回は哲視点です。




