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聖女の仕事



 数日後。


 セレスは地方神殿から届いた報告書を読んでいた。


 机の上には書類の山。


 一枚終われば次。


 また次。


 終わらない。


「多い……」


 思わず呟く。


 もちろん誰もいない。


 聖女の仮面を被る必要もない。


 だから少しだけ本音が漏れた。


「多いな」


 向かいから声がした。


 ユリアだった。


「見てたの?」


「見えてた」


 山のような書類だ。


 見なくても分かる。


「地方神殿の報告?」


「うん」


 セレスは一枚を持ち上げる。


「こっちは修繕の相談」


 置く。


「こっちは孤児院の予算」


 置く。


「こっちは人員不足」


 置く。


「こっちは――」


「もういい」


 ユリアが止めた。


 聞いているだけで疲れそうだった。


 ◇


「聖女って祈るだけじゃないんだね」


 セレスが言う。


「今さらか」


「たまに思うの」


 頬杖をつく。


「子供の頃はもっと神秘的な仕事だと思ってた」


「違ったか」


「違った」


 即答だった。


「書類仕事がいっぱい」


 ユリアは少し笑った。


 確かにそうだ。


 セレスの仕事の半分以上は事務仕事かもしれない。


 ◇


 午後。


 神官長との会議が始まる。


 地方神殿の運営について。


 来月の巡礼について。


 支援金の配分について。


 話し合うことは多い。


「東部神殿の修繕ですが」


 神官長が言う。


「今年中に対応した方が良いでしょう」


 セレスは資料を確認する。


 屋根の老朽化。


 雨漏り。


 放置は危険だ。


「そうですね」


 頷く。


「予算を回しましょう」


 即断だった。


 神官長も頷く。


 こういう時のセレスは早い。


 優柔不断ではない。


 必要な判断は迷わない。


 ◇


 会議が終わったのは夕方だった。


 部屋へ戻る。


 扉が閉まる。


 そして。


「疲れたー……」


 机へ突っ伏した。


 聖女終了。


 完全に終了だった。


「お疲れ様」


 ユリアが言う。


「疲れた」


「知ってる」


「褒めて」


「またか」


 セレスが顔だけ上げる。


「頑張った」


「頑張ったな」


「もっと」


「欲張りだな」


 いつもの流れだった。


 その時。


 扉がノックされた。


 セレスが即座に姿勢を正す。


 背筋が伸びる。


 表情が整う。


 数秒前とは別人だった。


「どうぞ」


 入ってきたのは見習い神女だった。


「失礼します」


 そして。


 セレスは少し驚く。


 見覚えがあった。


「リシュリーさん」


 数日前に会った少女だった。


 リシュリーの顔がぱっと明るくなる。


「あっ」


 だがすぐに慌てて頭を下げた。


「し、失礼しました!」


「大丈夫ですよ」


 セレスは微笑む。


「どうかしましたか?」


 リシュリーは両手で書類を抱えていた。


「神官長様に言われて、これを」


 書類を差し出す。


 神殿の資料らしい。


「ありがとうございます」


 受け取る。


 すると。


 リシュリーがちらりとセレスを見る。


 何か言いたそうだった。


「?」


「その……」


 また緊張している。


「はい」


「あたし、もっと頑張ります」


 突然だった。


 セレスが目を瞬く。


「聖女様みたいになれるように」


 真っ直ぐな瞳だった。


 数日前と同じ。


 憧れに満ちた目。


 セレスは少しだけ困ったように笑う。


「無理はしないでくださいね」


「はい!」


 元気な返事だった。




 リシュリーが帰った後。


 部屋が静かになる。


 セレスは書類を机に置いた。


「真面目な子だね」


「そうだな」


 ユリアも見ていた。


「ああいう子は伸びる」


 珍しく評価している。


 セレスは少し嬉しくなる。


「私もそう思う」


 そしてふと思った。


 あの年頃の自分はどうだっただろう。


 もっと余裕がなかった気がする。


 もっと必死だった気がする。


「なんだ」


 ユリアが聞く。


「いや」


 セレスは首を振る。


「頑張ってほしいなって」


 ただそれだけだった。


 未来の神殿を支える人たち。


 その中に。


 きっとリシュリーもいるのだろう。


 セレスはそう信じていた。


 疑いもしなかった。


 窓の外では夕日が沈み始めている。


 今日も一日が終わろうとしていた。


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