【おまけ】初代との違い
国心環の向こう側。
今日も白い糸が流れてくる。
セリアが触れる。
光が舞う。
苦しみだけが浄化される。
隣ではユリアも糸に触れていた。
最初は慣れなかったが、今ではすっかり板についている。
「ねえ」
セリアがぽつりと呟く。
「何だ」
「私たちってさ」
一拍置く。
「なんでここにいるんだろうね」
ユリアは手元の糸を浄化する。
飢える事もなく、渇きもない。
意識すれば見たい物が見れる。
不自由のない空間。
それから答えた。
「知らん」
「だよね」
セリアは苦笑する。
接続解除は成功した。
国心環は人を縛らなくなった。
聖女制度も終わった。
なのに。
二人はここにいる。
その理由は誰にも分からない。
「初代聖女も」
セリアが言う。
「大切な人と生きたいって願ったんだよね」
「ああ」
日記に書かれていた。
愛する人。
叶わなかった願い。
十九歳で終わった人生。
「私も願った」
セリアは静かに言う。
「もっと生きたいって。ユリアと一緒にいたいって」
あの日のことを思い出す。
最期の時。
泣きながら口にした願い。
「同じだったはずなのに、どうして私たちはこうなったんだろ」
ユリアは少し考える。
そして。
「一つだけ違うだろ」
「何が?」
「お前の願いは叶った」
短い言葉だった。
セリアは黙る。
確かにそうだった。
死んだ。
それは変わらない。
だが。
今もこうして一緒にいる。
誰にも引き離されない。
同じ時間を過ごしている。
「そっか」
セリアは小さく笑った。
しばらく静かな時間が流れる。
白い糸が漂う。
セリアは一本を指先で受け止めた。
柔らかな光。
誰かの願いだった。
「でもさ」
セリアが糸を見つめる。
「私たちがいなくなったらどうなるんだろ」
ユリアも糸を見る。
今は浄化されている。
もし二人がいなければ。
「溜まるんじゃないか」
「昔みたいに?」
「ああ」
短い返事だった。
セリアは国を見渡す。
人々の願い。
苦しみ。
悲しみ。
希望。
白い糸は今も生まれ続けている。
国心環はもう聖女を犠牲にしない。
しかし、糸そのものが消えたわけではない。
そこでふと気付く。
自分たちがここにいる意味に。
「じゃあ」
セリアは笑った。
「まだ引退できないね」
「そうだな」
ユリアも笑う。
「就職先が決まってよかったな」
セリアは吹き出した。
「何それ」
「事実だろ」
「神様みたいな存在なのに?」
「無給だぞ」
二人は顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
本当の理由は分からない。
なぜ二人が残ったのか。
それは誰にも分からない。
けれど。
一つだけ確かなことがある。
あの日。
叶わなかった願いは。
今ここにある。
セリアはそっとユリアの手を握った。
ユリアも握り返す。
白い糸が流れてくる。
二人はそれを受け止める。
これからも。
ずっと。
二人で。




